労働問題298 営業社員の残業代を「営業手当」といった一見して残業代の趣旨で支払われる手当とは分からない名目で支給したい場合は、どうすればいいですか。

 

この記事の要点

「営業手当」等の名目で残業代を支払いたい場合は、最低限、通常の賃金部分と残業代部分が判別できるよう金額を明示することが必要

「営業手当」全体がひとつの金額のみでは、残業代部分の判別ができません

両者が判別できない場合は、残業代(割増賃金)の支払があったとは認めてもらえない

支払済みの「営業手当」が残業代として算入されず、別途未払残業代の全額支払を命じられるリスがあります

「通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分」と「残業代に当たる部分」をそれぞれ金額で明示し、就業規則・給与規程に規定する必要がある

給与明細書上での明示と就業規則・給与規程での規定の両方が必要です

「営業手当」等の名目の場合も、固定残業代の有効要件を満たすことが求められる——争いのリスクは「時間外勤務手当」等の名目より高い

リスクを考えると、297番で解説したとおり「時間外勤務手当」等の明白な名目にすることが最も安全です

01「営業手当」等の名目での支払を希望する場合の最低条件

 297番で解説したとおり、「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等の明白な名目で残業代を支払うことが最もお勧めです。しかし、「営業手当」といった一見して残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当とは分からない名目での支払を希望する場合は、最低限、以下の対応が必要です。

 すなわち、営業の精神的負担や被服・靴などの消耗品に対する金銭的負担を補填する趣旨の手当(通常の労働時間・労働日の賃金)に当たる部分と残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)に当たる部分が判別できるよう金額を明示するようにしてください。両者が判別できない場合は、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払があったとは認めてもらえません。

02「通常の賃金部分と残業代部分が判別できるよう金額を明示する」の意味

 「通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分が判別できるよう金額を明示する」とは、具体的には以下のような対応を意味します。

「金額を明示する」ための具体的な対応例 例:「営業手当」を月5万円支払う場合

①就業規則・給与規程に、「営業手当5万円のうち、2万円は営業職の精神的負担・消耗品等に対する手当(通常の賃金)、3万円は時間外割増賃金(1日2時間×21日分に対するものとして算定)」と規定する

②給与明細書上も、「営業手当(通常分):2万円」「営業手当(時間外分):3万円」などと内訳を明示する

このように、一つの「営業手当」という名目の中でも、通常の賃金部分と残業代部分をそれぞれの金額で明示することが必要です。

 就業規則・給与規程における規定と給与明細書上の内訳明示が整合していることが重要です。どちらか一方だけでは不十分です。

03判別できない場合のリスク

 両者が判別できない場合は、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払があったとは認めてもらえません。

 例えば、就業規則・給与規程に「営業社員には営業手当として月5万円を支給する」とだけ規定されており、その内訳(通常の賃金部分と残業代部分)が明示されていない場合、裁判において「営業手当5万円のうち、いくらが残業代に当たるのか判別できない」と判断されます。その結果、「営業手当5万円は全額、通常の賃金または不明確な手当であり、残業代の支払とは認定できない」とされる可能性があります。

判別できない場合の最悪のシナリオ

「営業手当5万円(内訳不明)」を10年間支払い続けてきた営業社員から退職後に未払残業代請求を受けた場合:

①「営業手当5万円は残業代として支払ったもの」という主張が認められない
②過去3年間分の未払残業代(例:月10万円×36か月=360万円)の全額支払を命じられる
③遅延損害金(退職後は年14.6%)が加算される
④付加金(未払残業代と同額以下)が命じられる

「営業手当を払っていたのに」という弁解は、内訳が判別できなければ裁判では通用しません。

04実務上のお勧め——それでも「時間外勤務手当」等の名目が望ましい

 「営業手当」等の名目の中に残業代部分を組み込む方法は、上記のように内訳を明示したとしても、「時間外勤務手当」等の明白な名目と比べると法的争いのリスクが高い方法です。

 固定残業代の有効要件(通常の賃金と割増賃金部分の明確な区別・固定残業代が何時間分に対するものかの明示等)を満たすためには、「営業手当」等の名目の中に内訳を明示するよりも、「時間外勤務手当(固定・○○時間分)」等の明白な名目に変更する方が確実です。

 どうしても「営業手当」という名目を使用したい事情がある場合は、就業規則・給与規程・給与明細書上での内訳の明示を徹底した上で、使用者側弁護士・会社側弁護士に確認を求めることをお勧めします。

05まとめ

 「営業手当」等の一見して残業代の趣旨とは分からない名目で残業代を支払いたい場合は、最低限、通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と残業代に当たる部分が判別できるよう金額を明示することが必要です。両者が判別できない場合は残業代の支払があったとは認めてもらえず、支払済みの「営業手当」が残業代として算入されずに別途未払残業代の全額(+遅延損害金・付加金)の支払を命じられるリスがあります。

 リスクを最小化するためには、297番で解説したとおり「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等の明白な名目に変更することが最もお勧めです。就業規則・給与規程の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代の支払名目の整備・就業規則の見直し・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 「営業手当」等の名目で残業代を支払う場合に必要な条件は何ですか。

A. 最低限、通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と残業代(割増賃金)に当たる部分が判別できるよう金額を明示することが必要です。就業規則・給与規程における規定と給与明細書上の内訳明示の両方が整合していることが重要です。

Q2. 「通常の賃金部分と残業代部分が判別できるよう金額を明示する」とはどういうことですか。

A. 例えば、「営業手当5万円のうち2万円は営業職の精神的負担等に対する手当、3万円は時間外割増賃金(○○時間分)」と就業規則・給与規程に規定し、給与明細書上も「営業手当(通常分):2万円」「営業手当(時間外分):3万円」等と内訳を明示することを意味します。一つの金額で「営業手当:5万円」とだけ記載するのでは不十分です。

Q3. 判別できるように金額を明示すれば「営業手当」等の名目でも問題ありませんか。

A. 内訳を明示することで「時間外勤務手当」等の名目より争いが生じやすい状況は改善されますが、リスクがゼロになるわけではありません。固定残業代の有効要件(明確区分性・時間数の明示等)を満たすためには、「時間外勤務手当」等の明白な名目にする方が確実です。「営業手当」等の名目を使用したい場合は、使用者側弁護士・会社側弁護士に確認することをお勧めします。

Q4. 判別できない場合、どのような問題が生じますか。

A. 通常の賃金部分と残業代部分が判別できない場合は、「営業手当は残業代の支払と認定できない」と判断される可能性があります。この場合、支払済みの「営業手当」が残業代として算入されず、別途未払残業代の全額(+遅延損害金・付加金)の支払を命じられるリスがあります。「営業手当を払っていた」という事実だけでは、残業代の支払の抗弁として機能しません。

最終更新日:2026年5月10日

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