労働問題297 残業代(割増賃金)の支払名目はどういったものがお勧めですか。


この記事の要点

残業代の支払名目は「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等、残業代(割増賃金)の趣旨で支払われていることが一見明白な名目にすることをお勧めする

支払の性質が外見上明らかな名目にすることが将来の紛争防止の基本です

「営業手当」等の名目で残業代を支払っている場合、実質的に残業代(割増賃金)の支払と評価できるかどうか争いが生じる可能性がある

「営業手当」は残業代とは判定されず、別途残業代全額の支払を命じられるリスがあります

固定残業代(みなし残業代)を設ける場合も、「時間外勤務手当(固定分)」等、固定残業代であることが明白な名目にすることをお勧めする

固定残業代として有効と認められるための要件の一つが「残業代としての明確な区分」です

支払名目の設定は就業規則・給与規程への記載と合わせて行うことが重要

支払名目だけでなく、就業規則・給与規程での規定内容の整合性も確認することが必要です

01「営業手当」等の名目で残業代を支払うリスク

 営業社員に対しては残業代(割増賃金)を「営業手当」等の名目で支払われていることが多いようですが、「営業手当」では、実質的に残業代(割増賃金)の支払と評価できるのかどうか争いが生じる可能性があります。

 裁判において、「営業手当」が残業代(割増賃金)の支払として認められなかった場合、支払済みの「営業手当」が残業代として算入されず、別途未払残業代の全額(+遅延損害金・付加金)の支払を命じられるリスがあります。「営業手当を払っているから残業代は不要」という認識は、法的に危険な運用です。

「営業手当」名目のリスク——残業代として認められない可能性

「営業手当」という名目は、残業代(割増賃金)の支払を意図したものか、それとも他の意図(営業職への特別手当・業績インセンティブ等)で支払われたものかが不明確です。裁判において「営業手当は残業代ではない」と判断された場合、会社は支払済みの「営業手当」に加えて未払残業代の全額をさらに支払うことになります。

02お勧めの残業代の支払名目

 したがって、残業代(割増賃金)の支払名目は、「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当であることが一見明白な名目とすることをお勧めします。

割増賃金の種類 お勧めの名目例 避けるべき名目例
時間外割増賃金(25%以上) 時間外勤務手当・時間外割増賃金・時間外手当 営業手当・職務手当・業務手当
休日割増賃金(35%以上) 休日勤務手当・休日割増賃金・休日手当 活動手当・特別手当
深夜割増賃金(25%以上) 深夜勤務手当・深夜割増賃金・深夜手当 夜間手当(趣旨が不明確な場合)

 支払名目から「これは時間外(または休日・深夜)の割増賃金として支払われている手当だ」と一見して明白であれば、後の争いになりにくくなります。

03固定残業代(みなし残業代)を設ける場合の注意点

 固定残業代(毎月一定額を残業代として支払う仕組み)を設ける場合も、「時間外勤務手当(固定分)」「固定時間外手当」等、固定残業代であることが明白な名目にすることをお勧めします。

 固定残業代が有効と認められるためには、判例上、①通常の賃金と割増賃金部分が明確に区別できること、②固定残業代が何時間分の時間外労働に対するものかが明示されていること——等の要件を満たす必要があります。「営業手当」という名目では①の「明確な区別」の要件を満たすかどうか疑義が生じるため、避けることをお勧めします。

固定残業代の有効要件(最高裁の立場)
最高裁判決の示す固定残業代の有効要件の概要:
①通常の賃金部分と割増賃金(残業代)部分が明確に区別できること(明確区分性)
②固定残業代が何時間分の時間外労働に対するものかが明示されていること
③固定残業代の額が法定の割増賃金の計算額以上であること

「営業手当」等の名目では①の要件を満たすことが困難になるため、「時間外勤務手当(○○時間分)」等の明目にすることが重要です。

04就業規則・給与規程との整合性の確認

 支払名目を変更または整備する際には、就業規則・給与規程の記載内容との整合性を確認することも重要です。給与明細書上の手当名と就業規則・給与規程上の手当名が一致していなかったり、就業規則・給与規程において当該手当が残業代(割増賃金)の支払である旨が明示されていなかったりすると、後の紛争において不利に働く可能性があります。

 支払名目の変更・整備については、就業規則・給与規程の記載内容の見直しも含めて、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

05まとめ

 残業代(割増賃金)の支払名目は、「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われていることが一見明白な名目とすることをお勧めします。「営業手当」等の名目では、実質的に残業代の支払と評価できるかどうか争いが生じる可能性があります。

 固定残業代を設ける場合も、「時間外勤務手当(固定分)」等の明白な名目にすることが有効要件の観点から重要です。支払名目の整備は、就業規則・給与規程との整合性確認とあわせて行うことをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代の支払名目の整備・就業規則の見直し・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 残業代の支払名目はどういったものがお勧めですか。

A. 「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当であることが一見明白な名目をお勧めします。支払の性質が名目から明白であれば、後の争いになりにくくなります。

Q2. 「営業手当」という名目で支払っている手当は残業代として認められますか。

A. 「営業手当」という名目では、実質的に残業代(割増賃金)の支払と評価できるかどうか争いが生じる可能性があります。裁判において「営業手当は残業代ではない」と判断された場合、支払済みの「営業手当」が残業代として算入されず、別途未払残業代の全額(+遅延損害金・付加金)の支払を命じられるリスがあります。

Q3. 固定残業代(みなし残業)を支払う場合の名目はどうすればよいですか。

A. 「時間外勤務手当(固定分)」「固定時間外手当(○○時間分)」等、固定残業代であることが明白な名目にすることをお勧めします。固定残業代が有効と認められるためには「通常の賃金と割増賃金部分の明確な区別」が要件の一つであり、「営業手当」等の名目ではこの要件を満たすことが困難になります。

Q4. 支払名目が不明確な場合、どのような問題が生じますか。

A. 支払名目が不明確な場合、「この手当は残業代として支払ったものか否か」という紛争が生じます。裁判において残業代としての支払と認定されなかった場合、支払済みの手当に加えて未払残業代の全額(+遅延損害金・付加金)の支払を命じられる可能性があります。支払名目の整備は、就業規則・給与規程の記載内容との整合性確認と合わせて早急に行うことをお勧めします。

最終更新日:2026年5月10日



労働問題FAQカテゴリ


Return to Top ▲Return to Top ▲