労働問題240 タイムカードや日報等の客観的証拠がない場合の労働時間はどのように認定されますか。
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タイムカード等の客観的証拠がなくても、社員の手帳・日記等から労働時間が推認されるリスクがある 労働時間管理の責務は使用者にあるため、裁判所は社員側の証明が不十分でも直ちに請求を棄却しません |
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社員側が一応の立証をすれば、会社側が反証できなければ残業代の支払いを命じられるリスがある 1〜2年前の残業時間について会社側が反論することは困難なことが多く、手間の割に反論が功を奏しないケースも珍しくありません |
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民訴法248条による割合的認容のリスクがある——証拠が不十分でも一定額の支払いを命じられることがある 請求額の6割程度が認容された裁判例もあります。証拠が不十分だからといって安心できません |
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対策は今から——タイムカード・日報等で始業・終業時刻の客観的証拠を整備することが不可欠 退職後に残業代を請求してくる社員が増えている現状を認識し、在職中から記録整備を行うことが重要です |
目次
01客観的証拠がない場合の労働時間認定の仕組み
使用者が労働時間管理を怠っている場合、残業代(割増賃金)の請求をしようとする社員側としては残業時間の正確な立証が困難となります。しかし、使用者には労働時間の管理を適切に行う責務があること(平成13年4月6日基発339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」)もあり、裁判所は直ちに時間外労働・休日・深夜労働の立証がなされていないとはせず、社員の日記・手帳へのメモ等の証拠から時間外労働・休日労働時間を推認することができるかどうかが審理されるのが通常です。
つまり、会社側がタイムカードや日報等の客観的証拠を整備していなかったとしても、社員側が独自に記録したメモ等によって残業時間が推認され、残業代の支払いを命じられるリスがある点を、会社経営者として正確に理解しておく必要があります。
02社員の手帳・日記等による立証と信用性の評価
社員の日記・手帳へのメモ等は、実際の労働時間に合致した内容で記載されているとは限りません。後になってまとめて適当に作成された可能性もあり、残業代請求をする意図で労働時間を記載したとなると、いきおい労働時間を水増しして記載する動機が働くなど、それだけでは証明力が高いとはいえません。
しかし、社員の日記・手帳へのメモ等であっても、その記載内容が詳細なものだったり、全部又は一部が客観的証拠に合致していて矛盾点がないような場合は、そのメモ等により労働時間について一応の立証がなされていると評価できる場合もあります。
労働者により一応の立証がなされた労働時間に対し、会社経営者側がそれなりの反証ができなければ、一応の立証がなされた労働時間に基づいて残業代が算定され、残業代の支払いを命じられるリスクが生じることになります。
退職したら残業代を請求してやろうと考えながら、在職中は黙ったまま仕事を続け、入社直後から出社時刻と退社時刻の記録をメモ等に残してきたと主張する社員が増えています。こういった社員は、在職している限りは残業代を請求してくる可能性が低いのですが、何らかの問題を起こして退職させられそうになったり、経営者や上司に嫌われたと感じて傷ついたりした途端、残業代の請求をしてきます。
03会社側が今から取るべき対策——客観的証拠の整備
始業・終業時刻の記録を客観的証拠で残す
労働時間の管理を怠っていた会社経営者が、1年も2年も前の社員の時間外労働・休日・深夜労働時間について反論することは困難なことが多く、手間の割には反論が功を奏しないことも珍しくありません。最低限、始業時間・終業時間については、タイムカードや日報等の客観的証拠をそろえて反論できるようにしておくべきです。
休憩時間の立証も重要
時間外労働した場合に労基法で取得を義務付けられている1時間の休憩時間を超える休憩時間を取得させていると主張したい場合には、就業規則等にその旨明記することに加え、休憩時間を取得している時間を立証するためのタイムカードや日報等の客観的証拠が必要です。就業規則に定めるだけでは不十分であり、実際に取得した記録が重要です。
04民訴法248条による割合的認容のリスク
労働者の手帳等の記載の信用性が不十分な事案であっても、民事訴訟法248条の精神に鑑み、割合的に時間外手当を認容することも許されるとして、労働者請求の時間外手当の額の6割を認容するのを相当とした裁判例もあります。
250万円の時間外手当が未払となっていると主張して労働者が訴訟を提起したのに対し、労働者の手帳等の記載の信用性が十分ではないとしつつ、裁判官が諸事情を検討し150万円の時間外手当の支払いを命じたというようなイメージです。社員側の証拠の信用性が低いからといって、会社側が安心することはできません。証拠が不十分でも一定額の支払いを命じられるリスがある点を、会社経営者としてしっかり認識しておく必要があります。
05まとめ
タイムカードや日報等の客観的証拠がない場合でも、社員の手帳・日記等から労働時間が推認されて残業代請求が認められるリスがあります。会社側がそれなりの反証ができなければ、一応の立証がなされた労働時間に基づいて残業代の支払いを命じられます。民訴法248条による割合的認容により、証拠が不十分な場合でも一定額の支払いを命じられた裁判例もあります。
退職後に残業代を請求する社員が増えている現状を踏まえ、最低限、始業時間・終業時間についてはタイムカードや日報等の客観的証拠を整備しておくことが不可欠です。残業代問題への対応については、使用者側弁護士・会社側弁護士に早期に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。残業代請求への対応・労働時間管理の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. タイムカード等がない場合でも、社員は残業代を請求できますか。
A. できます。使用者には労働時間を適切に管理する責務があるため、裁判所は社員側の証拠が不十分でも直ちに請求を棄却しません。社員が手帳・日記等のメモを残していた場合、その内容から労働時間が推認されるリスがあります。
Q2. 社員の手帳・日記のメモは証拠として認められますか。
A. 記載内容が詳細であったり、客観的証拠と合致していて矛盾点がない場合には、一応の立証がなされたと評価されることがあります。その場合、会社側がそれなりの反証ができなければ、そのメモ等に基づいて残業代の支払いを命じられるリスがあります。
Q3. 会社側はどのような対策を取ればよいですか。
A. 最低限、始業時間・終業時間についてはタイムカードや日報等の客観的証拠を整備しておくことが不可欠です。また休憩時間についても就業規則での明記に加え、実際の取得記録を残しておくことが重要です。1〜2年前の残業時間について後から反論することは極めて困難なため、日頃からの記録整備が最善の対策です。
Q4. 民訴法248条による割合的認容とはどのようなものですか。
A. 証拠の信用性が不十分な場合でも、裁判官が諸事情を検討して割合的に時間外手当を認容することがあります。例えば250万円の請求に対して150万円(6割)の支払いを命じた裁判例もあります。社員側の証拠が不十分だからといって会社側が安心することはできません。
最終更新日:2026年5月10日