労働問題205 残業代(割増賃金)の計算式とは?会社側が押さえるべき時給制・月給制の算定方法

1. 残業代(割増賃金)の基本的な計算構造

 残業代(割増賃金)の計算は、複雑に見えても基本構造は共通しています。会社側がまず理解すべきなのは、「基礎となる時間単価 × 割増率 × 対象時間数」という三要素で構成されているという点です。

 法的根拠は労働基準法にあり、法定労働時間を超える時間外労働、法定休日労働、深夜労働について、通常賃金に一定の割増率を乗じた賃金の支払いが義務付けられています。

 具体的な基本式は次のとおりです。

 残業代(割増賃金)=時間単価 × 所定の割増率 × 時間外・休日・深夜労働時間数

 この構造は、時給制でも月給制でも同じです。違いは「時間単価」の算出方法にあります。時給制であれば時給そのものが時間単価になりますが、月給制の場合には、まず月給から1時間あたりの単価を算出する必要があります。

 会社側が誤りやすいのは、時間単価を正確に算出せず、感覚的に計算してしまう点です。基礎単価の算定を誤れば、その後に正しい割増率を適用しても、結果として未払いが発生します。

 残業代計算の出発点は、「どの賃金を基礎に、どの時間に、どの割増率をかけるのか」を明確に整理することです。この三要素を分解して考えることが、未払い残業代リスクを防ぐ第一歩となります。

2. 時給制アルバイトの残業代計算式

 時給制アルバイトの残業代(割増賃金)は、計算構造が比較的明確です。基本式は次のとおりです。

 残業代(割増賃金)=時給単価 × 所定の割増率 × 時間外・休日・深夜労働時間数

 時給制の場合、「時給単価」そのものが基礎となる時間単価になります。そのため、月給制のように時間単価を別途算出する必要はありません。

 たとえば、時給1,200円のアルバイトが法定時間外労働を10時間行った場合、割増率25%で計算すると、

 1,200円 × 1.25 × 10時間 = 15,000円

が時間外割増賃金となります。

 また、深夜労働(22時~5時)の場合は25%以上、法定休日労働の場合は35%以上の割増率が適用されます。時間外労働が深夜に及んだ場合などは、割増率が重複する点にも注意が必要です。

 会社側が注意すべきなのは、「シフト表どおり」で計算してしまうことです。実際の労働時間がシフトより長ければ、その超過分も当然に割増計算の対象になります。打刻漏れやサービス残業があれば、後に未払い残業代として請求される可能性があります。

 時給制は一見すると計算が単純ですが、実労働時間の把握と割増率の適用を誤れば、結果は月給制と同様に大きな未払いリスクを抱えることになります。会社側としては、客観的な労働時間記録に基づいて、機械的に計算できる体制を整備することが重要です。

3. 月給制正社員の残業代計算の考え方

 月給制正社員の残業代(割増賃金)も、基本構造は同じです。

 残業代(割増賃金)=通常の労働時間・労働日の賃金(時間単価)× 所定の割増率 × 時間外・休日・深夜労働時間数

 ただし、月給制の場合は「時間単価」をまず算出しなければならない点が大きな違いです。月給額をそのまま割増計算に用いることはできません。

 時間単価は、原則として「月給 ÷ 1か月の所定労働時間」で算定します。ここでいう所定労働時間とは、就業規則等で定めた1か月あたりの労働時間数です。

 たとえば、月給30万円、1か月の所定労働時間が160時間の場合、

 300,000円 ÷ 160時間 = 1,875円

 これが1時間あたりの基礎単価になります。

 この時間単価に割増率(時間外25%以上、休日35%以上、深夜25%以上など)を乗じ、さらに対象となる労働時間数を掛けて残業代を算出します。

 会社側が誤りやすいのは、①時間単価の算定基礎を誤ること、②定額残業代が含まれているにもかかわらず正しく控除できていないこと、③所定労働時間の算定が曖昧であることです。

 月給制であっても、計算の出発点は「時間単価」です。この単価が誤っていれば、その後の計算がすべて誤ります。会社側としては、月給制だから管理が簡単だと考えるのではなく、時間単価の算定過程を明確にし、客観的に説明できる状態にしておくことが不可欠です。

4. 月給制における「時間単価」の算出方法

 月給制正社員の残業代(割増賃金)計算で最も重要なのが、「時間単価」の正確な算出です。ここを誤ると、その後の割増計算がすべて不正確になります。

 原則的な算式は次のとおりです。

 時間単価 = 残業代算定の基礎となる月給額 ÷ 1か月の所定労働時間数

 ここで注意すべきは、「月給の全額」が必ずしも計算基礎になるわけではないという点です。家族手当、通勤手当、別居手当など、法律上除外が認められている賃金は基礎に含めないことができます。一方で、役職手当や職務手当などは原則として含める必要があります。

 次に、「1か月の所定労働時間数」の算定です。年間所定労働日数×1日の所定労働時間をもとに年間総労働時間を算出し、それを12か月で割る方法が一般的です。月ごとの実労働時間で割るのではありません。

 会社側が誤りやすいのは、実際の出勤日数や実労働時間で割ってしまうケースです。その場合、時間単価が不当に低くなり、結果として未払い残業代が発生する可能性があります。

 また、固定残業代が含まれている場合は、その固定残業代部分を除いた賃金額で時間単価を算出する必要があります。これを適切に処理しなければ、二重控除や未払いの問題が生じます。

 時間単価の算出は、残業代計算の「土台」です。会社側としては、どの賃金を基礎にし、どの労働時間数で割っているのかを明確に説明できる状態にしておくことが、未払い残業代請求への最大の防御になります。

5. 割増率の整理(時間外・休日・深夜)

 残業代(割増賃金)の計算において、時間単価と並んで重要なのが「割増率」です。会社側が正確に理解しておくべき最低基準は、労働基準法に定められています。

 基本となる割増率は次のとおりです。

 ① 時間外労働(法定労働時間超):25%以上

 ② 法定休日労働:35%以上

 ③ 深夜労働(22時~5時):25%以上

 さらに注意すべきは、時間外労働が月60時間を超えた場合です。この場合、60時間を超える部分については50%以上の割増率が必要になります(企業規模を問わず適用)。

 また、これらの割増は重複します。たとえば、時間外労働が深夜に及んだ場合は「25%+25%=50%以上」、法定休日の深夜労働であれば「35%+25%=60%以上」となります。

 会社側が誤りやすいのは、「休日出勤はすべて35%」「深夜は時間外の中に含まれている」といった誤解です。各制度は独立しているため、要件を満たせば加算されます。

 割増率は一見単純ですが、月60時間超の高率適用や重複計算を誤ると、未払い残業代は急速に膨らみます。会社側としては、自社の給与計算ロジックが法定基準を正確に反映しているかを、定期的に検証する必要があります。

6. 割増賃金計算で除外できる賃金とは

 月給制正社員の残業代(割増賃金)計算では、「どの賃金を基礎に時間単価を算出するか」が極めて重要です。すべての手当を含めるわけではなく、法律上除外が認められている賃金があります。

 根拠は労働基準法にあり、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金は限定列挙されています。代表的なものは次のとおりです。

 ・家族手当

 ・通勤手当

 ・別居手当

 ・子女教育手当

 ・住宅手当(一定の要件を満たすもの)

 ・臨時に支払われた賃金

 ・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

 これらは、個人的事情や不定期性に基づく賃金であるため、原則として時間単価の基礎から除外できます。

 一方で、「役職手当」「職務手当」「営業手当」などは、原則として除外できません。名称にかかわらず、労働の対価として毎月固定的に支払われているものは、算定基礎に含める必要があります。

 会社側が誤りやすいのは、独自に設定した各種手当を広く除外してしまうことです。法律で限定列挙されている以上、拡張解釈はできません。誤って除外すれば、時間単価が不当に低くなり、未払い残業代が発生します。

 残業代計算においては、「何を含めるか」よりも「何を除外できるか」の方が重要です。会社側としては、給与体系を精査し、各手当が法的に除外可能かどうかを検証したうえで、計算ロジックを構築する必要があります。

7. 固定残業代制度がある場合の計算方法

 固定残業代制度を採用している場合でも、残業代(割増賃金)の計算が不要になるわけではありません。会社側としては、「固定で払っているから問題ない」という発想が最も危険です。

 まず前提として、固定残業代制度が有効と認められるためには、①基本給部分と固定残業代部分が明確に区分されていること、②固定残業代が何時間分の時間外労働に対応するのか明示されていることが必要です。

 計算の流れは次のとおりです。

 ① まず、固定残業代を除いた賃金額を基礎に時間単価を算出する

 ② 実際の時間外・休日・深夜労働時間を計算する

 ③ 法定の割増率で算出した残業代総額を求める

 ④ その総額と固定残業代額を比較し、不足分があれば追加で支払う

 たとえば、固定残業代が月30時間分で設定されている場合でも、実際の時間外労働が45時間であれば、15時間分は追加支払いが必要になります。

 また、固定残業代は通常「時間外労働」に対応するものであり、深夜割増や休日割増の部分まで十分にカバーできていないケースもあります。その場合も不足分の支払いが必要です。

 会社側が陥りやすい誤りは、「固定残業代=上限なく残業させられる制度」と誤解することです。実際には、あくまで一定時間分の前払いにすぎません。

 固定残業代制度は、適切に設計・運用すれば有効な人件費管理手法ですが、計算を怠れば未払い残業代請求の典型的な原因になります。会社側としては、実労働時間と固定時間の差額を毎月検証できる体制を整えることが不可欠です。

8. 会社側が計算を誤りやすいポイント

 残業代(割増賃金)の計算は数式自体は単純ですが、実務では会社側が誤りやすいポイントが複数存在します。未払い残業代請求の多くは、意図的な不払いというよりも、計算ロジックの誤りから生じています。

 第一に多いのが、「時間単価の算出誤り」です。除外できない手当を除外していたり、実労働時間で割っていたりするケースです。時間単価が低く算出されれば、その後の割増計算もすべて過少になります。

 第二に、「法定労働時間と所定労働時間の混同」です。所定労働時間を超えたからといって直ちに25%の割増が必要になるわけではありませんが、逆に法定労働時間を超えているのに通常賃金で計算しているケースも見受けられます。

 第三に、「割増の重複計算漏れ」です。時間外+深夜、休日+深夜などの加算を正しく処理していない場合、差額が蓄積します。

 第四に、「月60時間超の時間外労働」の割増率引上げを反映していないケースです。50%以上の割増を適用していなければ、その差額は高額になりやすいです。

 第五に、「固定残業代の過信」です。実労働時間を精査せず、固定額で完結していると誤認している場合、追加支払義務を見落とします。

 残業代計算は、単なる給与計算業務ではありません。法的責任を伴うリスク管理業務です。会社側としては、計算式だけでなく、算定過程を説明できる状態にしておくことが、将来の未払い残業代請求への最善の防御となります。

9. 未払い残業代請求を防ぐための計算体制整備

 残業代(割増賃金)の計算式を理解することは出発点にすぎません。重要なのは、その計算を継続的かつ正確に実行できる体制を整備することです。未払い残業代請求は、計算ミスが長年蓄積した結果として発生します。

 まず会社側が行うべきは、自社の給与計算ロジックの総点検です。時間単価の算出方法、除外手当の整理、割増率の設定、月60時間超の処理、固定残業代との差額精算などが、法令どおりに設計されているかを確認する必要があります。

 次に、労働時間データと給与計算が連動しているかを検証してください。実労働時間の把握が曖昧であれば、どれほど正しい計算式を用いても意味がありません。勤怠管理と賃金計算は一体として管理されるべきです。

 また、退職時に過去の未払いがないかを確認する仕組みを設けることも有効です。退職後に数年分をまとめて請求されるリスクを低減できます。

 残業代計算は、単なる事務処理ではなく、会社側の法的リスク管理の中核です。計算式を理解し、計算過程を説明できる体制を構築しておけば、未払い残業代請求のリスクは大きく低減します。

 

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最終更新日2026/2/15

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