合意によって賃金を減額する場合、どのような要件を満たせば有効ですか。
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労契法8条で可能だが就業規則の最低基準を下回れば無効 労契法8条により合意による賃金変更は可能ですが、就業規則の最低基準効(労契法12条)との関係で、就業規則の賃金水準を下回る合意は無効となります。事前に就業規則との整合性を確認する必要があります。 |
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署名・押印だけでなく自由な意思による同意が必要 最高裁は、同意書への署名・押印があるだけでは足りず、自由な意思に基づく同意と認めるに足りる合理的理由が客観的に存在することを求めています。十分な説明と検討時間の確保が重要です。 |
目次
898・902の記事で解説した就業規則の変更・労働協約による賃金減額とは別に、個々の従業員との合意による方法も、賃金減額の重要な選択肢です。しかし、この「合意」の有効性判断は、851の記事で解説した賃金相殺の同意と同様、非常に厳格です。
会社側専門の弁護士の立場から、合意による賃金減額が有効と認められるための要件を解説します。
01合意による賃金減額の法的根拠と限界
労働契約法第8条は、労働者と使用者が合意すれば労働条件を変更できると定めています。この規定により、賃金という重要な労働条件であっても、当事者間の合意によって変更すること自体は可能です。しかし、労働契約法第8条は合意による変更を「認める」にすぎず、あらゆる合意が有効になるという意味ではありません。
特に注意すべきは就業規則の最低基準効(労働契約法第12条)との関係です。865の記事で解説したとおり、就業規則で定める賃金水準を下回る内容を個別合意で定めたとしても、その部分は無効となります。就業規則に定める賃金の水準を下回る内容の合意が成立しないことを確認せずに賃金減額を進めると、後日に無効と判断されるリスクがあります。したがって、個別合意による賃金減額を実施する前に、就業規則との整合性を必ず確認することが不可欠です。就業規則の変更が必要な場合はその手続を先に行う必要があります。
02最高裁が示す「自由な意思」による同意の判断基準
最高裁判所は、賃金減額のような重大な不利益変更に関する同意について、同意書への署名・押印があるだけでは有効な同意と認めるのは相当ではないとしています。重要なのは、労働者の同意が「自由な意思」に基づいてなされたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかどうかという点です。851の記事で解説した日新製鋼事件と同様の考え方が、賃金減額の場面でも適用されるということです。
この判断においては、賃金減額の不利益の程度、従業員への説明の内容・充実度、同意に至るまでの経緯・状況などが総合的に考慮されます。例えば、「同意しなければ解雇する」などの脅迫的な言動があった場合、自由な意思による同意とは評価されません。また、十分な説明がないまま署名を求めた場合も問題となります。
03合意を有効に成立させるための実務上の手順
合意による賃金減額を適法に行うためには、以下の手順を踏むことが重要です。まず、賃金減額の理由と内容(対象者・減額の金額・減額の期間・元の賃金との比較)を書面にまとめ、当該従業員に明確に説明します。次に、従業員が内容を検討するための十分な時間を与えます。そして、従業員の納得を得た上で、同意書(または賃金変更合意書)に署名・押印を求めます。
この過程で、説明に使用した資料、面談の日時・出席者・内容の記録、従業員からの質問とその回答の記録を保存しておくことが重要です。後日、同意の有効性が争われた場合に、会社側が自由な意思による同意であったことを証明できる証拠となります。また、減額後の賃金が最低賃金を下回らないこと、就業規則で定める最低賃金水準を下回らないことも確認が必要です。これらの法的下限を下回る合意は無効となります。
04合意が無効とされる典型的なケース
実務上、合意による賃金減額が後日に無効と判断されるケースとしては次のようなものがあります。まず、脅迫・強迫に近い状況下での同意です。「同意しなければ解雇する」「同意しなければ不利な配置転換をする」等の発言があった場合、意思表示の取消事由に当たる可能性があります。次に、賃金減額の内容や理由について十分な説明がなされていない場合です。また、就業規則の最低基準を下回る内容での合意も無効です。さらに、著しく一方的な不利益変更で公序良俗に反すると判断された場合も無効となります。
「これまで問題にされていないから大丈夫」という認識は危険です。未払賃金請求の時効は最長3年ですので、過去にさかのぼって請求されるリスクがある点に注意が必要です。
05よくある質問(FAQ)
Q. 同意書に署名・押印があれば、賃金減額の合意は常に有効ですか。
常に有効とは限りません。署名・押印があるだけでは足りず、自由な意思に基づく同意と認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する必要があります。
Q. 就業規則の賃金水準を下回る内容で個別合意しても有効ですか。
無効です。就業規則の最低基準効(労契法12条)により、就業規則の水準を下回る合意は無効となります。就業規則自体の変更が必要な場合は、その手続を先に行う必要があります。
Q. 「同意しなければ解雇する」と伝えて得た同意は有効ですか。
有効とは評価されません。このような脅迫的な言動があった場合、自由な意思による同意とは認められず、意思表示の取消事由にもなり得ます。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。合意による賃金減額でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日