この記事の結論
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降格の種類ごとに賃金減額の要件が異なる

役職・職位の降格は就業規則の根拠規定は不要ですが、賃金減額が労働契約上あらかじめ予定されている必要があります。職能資格制度上の等級引下げには、就業規則等の明確な根拠が必要です。

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職務・役割等級のグレード引下げも濫用審査を受ける

職務・役割等級制のグレード引下げは原則使用者の裁量に委ねられますが、勤務成績不良が認められない場合や不当な動機がある場合には人事評価権の濫用として無効になり得ます。

 888〜890の記事で解説した降格の類型・就業規則上の根拠の要否を踏まえ、本稿では、それぞれの降格に「賃金減額」が伴う場合の要件を、より具体的な裁判例とともに整理します。

 会社側専門の弁護士の立場から、業務命令としての降格の種類と、それぞれに伴う賃金減額が認められるための要件を解説します。

01降格の種類と法的根拠の違い

 降格には、大きく分けて二つの種類があります。一つは役職・職位(課長・部長など)を引き下げる降格であり、もう一つは職能資格制度や職務・役割等級制度上の等級・グレードを引き下げる降格です。また、降格の根拠という観点からは、「懲戒処分としての降格」と「業務命令としての降格」に分けられます。懲戒処分としての降格は就業規則上の懲戒事由・処分規定が必要ですが、業務命令としての降格は使用者の人事権行使として行われるものです。

 業務命令としての降格は、懲戒処分の要件(就業規則の規定・懲戒事由への該当性・手続等)とは異なる法的規律を受けます。降格の種類ごとに、賃金減額が認められる要件が異なるため、実施前に各制度の性質を正確に把握することが重要です。

02役職・職位の降格と賃金減額

 日本の労働契約においては、長期雇用システムのもとで労働者を特定職務に限定せず様々な職務に配置することが予定されているため、使用者が有する人事権として、役職・職位の降格は就業規則上の根拠規定がなくても可能と解されています。ただし、人事権の行使が裁量の範囲を逸脱・濫用する場合には無効となります。

 役職・職位の降格に伴う賃金減額については、その降格に伴って賃金が減額されることが労働契約上あらかじめ予定されているかどうかが重要です。就業規則の賃金体系として役職・職位に応じた賃金水準が明確に定められており、降格によって当該水準が適用される場合は、賃金減額が認められます。反対に、降格に伴う賃金減額が労働契約上予定されていない場合、賃金減額は無効となる可能性が高いです。

 また、職種限定契約など、労働契約の内容として職種が一定範囲に限定されている場合は、使用者の一方的措置として職種より低いレベルへの降格はできません。さらに、降格が相当な理由なく賃金を大幅に下げるものである場合は、人事権の濫用として無効になることがあります。

03職能資格制度上の等級引下げと賃金減額

 職能資格制度における資格・等級は、労働者が経験を積み重ねて習得した職務遂行能力のレベルを表すものとして設計されており、本来、一度認定された等級が後に引き下げられることは想定されていません。そのため、職能資格制度上の等級引下げを行うためには、就業規則等労働契約上の明確な根拠が必要です(890の記事で解説したアーク証券事件、東京地裁平成8年12月11日決定)。

 就業規則に等級引下げに関する規定を設ける場合は、発揮される職務遂行能力が年々変動・下落する可能性があること、その場合に等級を引き下げる基準と手続きを明確に定めることが必要です。就業規則上の明確な根拠がある場合でも、相当な理由がなく著しく不合理な評価によって大きな不利益を与える等級引下げは人事権の濫用となります。

04職務・役割等級制度上のグレード引下げと賃金減額

 職務・役割等級制度上の給与等級やグレードの引下げは、当該制度の枠組みの中で人事評価の手続と決定権に基づいて行われる限り、原則として使用者の裁量的判断に委ねられると解されています(コナミデジタルエンタテインメント事件、東京高裁平成23年12月27日判決)。

 ただし、引下げを正当化するだけの勤務成績の不良が認められない場合や、退職への誘導など不当な動機が認められる場合には、人事評価権を濫用したものとして降格が無効になり得ます(マッキャンエリクソン事件、東京地裁平成18年10月25日判決)。制度の設計・運用にあたっては、評価基準の明確化と公正な手続の確保が重要です。降格に伴う賃金減額の適法性判断は、制度設計・評価プロセス・降格の理由など複合的な要素を踏まえた実質的判断が必要です。

05よくある質問(FAQ)

Q. 役職の降格に伴う賃金減額に、就業規則の根拠は必要ですか。

根拠規定自体は不要ですが、賃金減額が労働契約上あらかじめ予定されている(役職ごとの賃金水準が明確に定められている)必要があります。予定されていなければ減額は無効になり得ます。

Q. 職務・役割等級のグレードを引き下げれば、常に賃金を減額できますか。

できるとは限りません。原則は使用者の裁量に委ねられますが、勤務成績不良が認められない場合や不当な動機がある場合には人事評価権の濫用として無効になり得ます。

Q. 職能資格制度の等級を引き下げるには、何が必要ですか。

就業規則等労働契約上の明確な根拠が必要です。等級を引き下げる基準・手続を明確に定めておく必要があります(アーク証券事件)。

経営上のポイント 業務命令としての降格に伴う賃金減額の要件は、降格の種類によって異なります。役職・職位の降格は就業規則の根拠規定は不要ですが、賃金減額が労働契約上あらかじめ予定されている必要があります。職能資格制度上の等級引下げには就業規則等の明確な根拠が必要です(アーク証券事件)。職務・役割等級制のグレード引下げは原則使用者の裁量に委ねられますが、勤務成績不良が認められない場合や不当な動機がある場合には人事評価権濫用として無効になり得ます(コナミデジタルエンタテインメント事件、マッキャンエリクソン事件)。会社側としては、降格の種類ごとの要件を正確に把握し、制度設計・評価プロセスの適正化を図ることが重要です。降格に伴う賃金減額の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。降格に伴う賃金減額でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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