労働問題110 退職勧奨より解雇した方が話が早い?会社が負う「不当解雇」の膨大なリスクと回避策
目次
「解雇すれば話が早い」は幻想です。解雇が無効となれば高額バックペイが発生し、紛争が長期化すれば数百万〜数千万円規模の負担になります。最後まで解雇を避け、退職届を得ることが実務上の鉄則です。
退職届が提出された合意退職は解雇と比べて法的リスクが格段に低く、会社を守る最強の防衛手段となります。退職勧奨プロセスを適切に進めることが、不当解雇リスクを回避する最善策です。
■ 解雇失敗のリスクは甚大——バックペイで数百万〜数千万円の負担も
解雇無効時は解雇日から紛争解決までの全期間の賃金支払い義務が生じます。長期化すれば経営を圧迫します。
■ 退職届=会社を守る最強の防衛手段——立証責任が逆転する
退職届がある合意退職は、会社が解雇の正当性を立証する必要がなく、法的リスクが格段に低下します。
■ 実務の鉄則:最後まで解雇を避け退職勧奨で退職届を得る
退職勧奨のプロセスを丁寧に進め、労働者の自由な意思に基づく退職届を得ることが不当解雇リスクの最善の回避策です。
1. 解雇の「話が早い」は幻想に過ぎない
問題のある社員への対応に悩み、「解雇してしまえばすぐに解決する」と考える会社経営者は少なくありません。しかし、日本の労働法の実務では、そのような考え方は極めて危険です。安易に解雇を選択すると、かえって長期の労働紛争に発展する可能性が高く、結果として会社の負担が大きくなることがあります。
日本では、解雇が有効と認められるためには客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性という厳しい要件を満たす必要があります(労契法16条)。会社側が解雇の正当性を具体的な証拠によって説明できなければ、解雇は無効と判断されます。業務成績が期待に達していない場合でも、十分な指導や改善の機会が与えられていなければ解雇は認められにくく、勤務態度の問題でも会社の対応経緯が総合的に検討されます。
2. 解雇失敗時の致命的ダメージ——高額なバックペイ
解雇を強行した場合に会社が直面する最大のリスクが、解雇が無効と判断された場合の経済的負担です。裁判所が解雇を不当と認定すると、会社は解雇後の期間について労働者に対して賃金を支払う義務を負うことになります。
この賃金を実務では「バックペイ(未払い賃金)」と呼びます。バックペイは、解雇日から判決や和解によって紛争が解決するまでの期間について、労働者が働いていた場合に受け取るはずだった賃金をすべて支払うというものです。労働審判や訴訟が長期化すれば、その金額は数年分の給与に及ぶこともあります。
特に管理職や幹部社員のように給与が高い労働者の場合、バックペイの金額は非常に高額になります。遅延損害金が加算されることもあり、数百万円から場合によってはそれ以上の金銭的負担を求められることも珍しくありません。実務では訴訟の途中で和解に至るケースも多くありますが、その際の解決金もバックペイを基準にして算定されます。
✕ よくある経営者の危険な発想
「問題社員は解雇すれば解決する。退職勧奨なんて面倒くさい」→ 最も危険な発想です。
解雇が無効となれば解雇日から全期間のバックペイが発生します。「面倒な退職勧奨」より「危険な解雇」の方が経営上はるかに大きな損害をもたらします。
「解雇予告手当を払えば解雇できる」→ 誤りです。
解雇予告手当の支払いは解雇の「手続き」であり、解雇の「有効性」とは別問題です。解雇予告手当を払っても、解雇理由が不十分であれば解雇は無効となります。
3. 「退職届」が会社を救う最強の防衛手段となる理由
合意退職は厳しい有効要件が問題にならない
労働者が自ら退職届を提出し会社が受理する形で退職が成立すれば、これは合意退職として扱われます。合意退職は双方の意思に基づいて労働契約を終了させるものであるため、解雇のように厳しい有効要件が問題となることは通常ありません。
立証責任が逆転する
紛争になった場合の立証責任の構造にも大きな違いがあります。会社が一方的に解雇した場合には、解雇が正当であることを会社側が立証しなければなりません。これに対し、退職届が提出されている場合には、労働者側が「強要された」「誤解させられた」などの事情を主張・立証する必要が生じます。この点で、会社側の法的リスクは格段に低下します。
ただし、退職届が提出されているからといって常に安全というわけではありません。強い圧力のもとで書かされたものと判断されれば、後に退職の有効性が争われます。労働者の自由な意思に基づく退職であることが客観的に確認できるプロセスを整えることが重要です。
4. 退職勧奨プロセスの重要性
退職勧奨によって合意退職を目指す場合でも、進め方を誤れば労働者から退職強要やハラスメントを主張され、損害賠償を請求される可能性があります。しかし、それでもなお解雇を直接行う場合と比較すれば、退職勧奨の方が会社にとって法的リスクを抑えやすい手続きといえます。
裁判実務では、会社が問題点について説明し、改善の機会を与えたうえで退職を提案するというプロセスを経ているかどうかが重視されます。このようなプロセスを丁寧に踏むことで、仮に解雇に至らざるを得ない場合でも、解雇の合理性を支える証拠となります。
退職勧奨は面倒に見えても、適切に進めることで会社の法的リスクを大幅に低減できます。退職勧奨を検討する際は、事前に弁護士に相談し、面談の進め方・発言内容・記録方法を確認することを強くお勧めします。
問題社員への対応方針・解雇と退職勧奨の選択・退職勧奨の進め方について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
5. まとめ
「解雇すれば話が早い」という発想は、日本の労働法の実務では極めて危険です。解雇が無効となれば解雇日から紛争解決までの全期間のバックペイが発生し、数百万円から数千万円規模の負担になることもあります。実務の鉄則は、最後まで解雇を避け、退職勧奨プロセスを通じて労働者の自由な意思に基づく退職届を得ることです。退職届が提出された合意退職は、解雇と比べて法的ハードルが低く、立証責任の面でも会社側に有利な構造となります。退職勧奨は面倒に見えても、適切に進めることで会社を守る最強の防衛手段となります。対応に迷ったら早急に弁護士に相談することをお勧めします。
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弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05