労働問題109 退職勧奨と解雇の違いとは?会社側が知っておくべき法的効力とリスクの差
本記事のポイント
● 解雇:使用者による「一方的な意思表示」。労働者の同意は不要だが、法的な有効要件が極めて厳しい。
● 退職勧奨:労働者との「合意」を目指す行為。労働者の同意があって初めて契約が終了する。
● 紛争リスクを抑えるためには、解雇を強行する前に、まず「退職勧奨」による合意を目指すのが実務上の定石です。
1. 解雇とは:使用者による「一方的」な処分
解雇とは、会社が労働者との労働契約を終了させるために行う使用者による一方的な意思表示をいいます。労働者が退職に同意していなくても、会社が解雇の意思を通知すれば、原則として労働契約を終了させようとする効力が生じる点に特徴があります。
ただし、日本の労働法では解雇に対して非常に厳しい制限が設けられています。労働契約法16条では、解雇が有効と認められるためには、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であるとされています。これらの要件を満たさない解雇は「解雇権の濫用」として無効になる可能性があります。
もし解雇が無効と判断された場合、会社は労働契約が継続していたものと扱われることになります。その結果、解雇した日から判決までの期間について未払い賃金(いわゆるバックペイ)の支払いを命じられることもあり、会社にとって大きな経済的負担となる場合があります。さらに、労働者が職場への復帰を求めた場合には、人事運営にも大きな影響が生じることになります。
このように、解雇は会社にとって即効性のある手段である一方、法的リスクが非常に高い人事措置でもあります。会社経営者としては、解雇の法的性質とその厳しい有効要件を正しく理解しておくことが、労務トラブルを防ぐうえで重要になります。
2. 退職勧奨とは:双方の「合意」による円満解決
これに対して退職勧奨とは、会社が労働者に対して退職という選択肢を提示し、話し合いによって労働契約の終了について合意を目指す行為をいいます。解雇のように会社が一方的に雇用関係を終了させるのではなく、労働者の自由な意思に基づく同意があって初めて退職が成立する点に大きな特徴があります。
実務上は、会社が労働者に対して退職を検討してもらうよう働きかけ、労働者がその提案を受け入れて退職届を提出することで、合意退職という形で労働契約が終了することになります。したがって、労働者が退職勧奨に応じる義務はなく、退職するかどうかはあくまで本人の判断に委ねられています。
労働者の同意を前提とするため、適切な手続きで行われた退職勧奨は、解雇と比べて後に紛争となるリスクが低いとされています。特に日本では解雇の有効性が厳しく審査されるため、会社としては解雇を直接行うよりも、合意による退職という形で問題を解決する方法が実務上選択されることが少なくありません。
もっとも、退職勧奨であっても、その進め方によっては退職強要と評価される可能性があります。会社経営者としては、退職勧奨があくまで任意の話し合いであることを意識し、労働者の自由な意思決定を尊重した形で進めることが重要になります。
3. 退職勧奨と解雇の比較一覧
退職勧奨と解雇は、いずれも労働契約の終了に関わる手続きですが、その法的性質と会社が負うリスクには大きな違いがあります。会社経営者としては、この違いを正確に理解しておくことが、適切な人事判断を行ううえで重要です。
まず最も大きな違いは、労働契約を終了させる意思表示の主体です。解雇は会社による一方的な意思表示によって行われるのに対し、退職勧奨は会社が退職を提案し、労働者がそれに同意することで成立する合意退職を前提としています。そのため、退職勧奨では労働者の同意が不可欠であり、同意がなければ労働契約は終了しません。
また、法的なハードルの高さにも大きな差があります。解雇の場合は、客観的合理性と社会通念上の相当性が認められなければ無効と判断される可能性があります。一方、退職勧奨は労働者の自由な意思による合意が成立している限り、契約自由の原則のもとで有効と評価されることが多く、解雇と比べて法的制約は相対的に小さいといえます。
さらに、紛争が生じた場合の会社側のリスクの大きさも異なります。解雇が無効と判断されれば、会社は長期間にわたる未払い賃金の支払いを命じられる可能性があります。これに対して退職勧奨の場合、労働者が合意しなければ単に退職が成立しないだけであり、直ちに会社が損害賠償などの責任を負うわけではありません。
このように、退職勧奨と解雇は形式的には似た場面で用いられることがあるものの、会社が負う法的リスクや紛争の可能性には大きな差があります。会社経営者としては、この違いを踏まえたうえで、どのような対応を取るべきか慎重に判断することが重要になります。
4. 実務上の選択指針
会社が問題社員への対応や組織運営上の課題に直面した場合、解雇と退職勧奨のどちらを選択すべきかは重要な判断になります。実務上は、いきなり解雇を行うのではなく、まずは退職勧奨による合意退職の可能性を検討するのが一般的です。
その理由は、日本の労働法では解雇の有効性が厳しく審査されるためです。解雇が無効と判断された場合には、長期間の未払い賃金の支払いを命じられる可能性があり、会社にとって大きな経済的負担となることがあります。そのため、会社としては訴訟リスクを伴う解雇を直ちに選択するのではなく、話し合いによる合意退職を目指す方が現実的な対応となるケースが多いといえます。
実務では、退職勧奨の際に一定の条件を提示することもあります。例えば、退職金の上乗せや退職時期の調整などを行い、労働者にとっても受け入れやすい条件を整えることで、双方が納得できる形で雇用関係を終了させることを目指します。このような方法は、結果として労働紛争の長期化を防ぐことにもつながります。
もっとも、退職勧奨の過程で「応じなければ解雇する」といった強い圧力をかけたり、執拗に説得を繰り返したりすれば、それは退職勧奨ではなく退職強要と評価される可能性があります。会社経営者としては、退職勧奨があくまで任意の話し合いであることを意識し、適切な範囲で進めることが重要です。
5. まとめ
解雇と退職勧奨は、いずれも労働契約を終了させる場面で用いられる手段ですが、その法的性質と会社が負うリスクには大きな違いがあります。解雇は会社による一方的な意思表示であり、労働契約法によって厳しい有効要件が課されています。一方、退職勧奨は労働者との話し合いを通じて合意退職を目指す手続きであり、労働者の自由な意思による同意が前提となります。
日本の労働法では解雇の有効性が厳格に審査されるため、会社が解雇を強行した場合には、後に不当解雇として争われるリスクが常に伴います。これに対して退職勧奨は、適切な手続きのもとで労働者の同意が得られれば、比較的安定した形で労働契約を終了させることができる可能性があります。
そのため、会社経営の実務では、解雇を最初から選択するのではなく、まず退職勧奨による合意退職の可能性を検討することが一般的な対応とされています。ただし、退職勧奨の進め方を誤れば退職強要と評価されるおそれがあるため、労働者の自由な意思を尊重した慎重な対応が必要になります。
会社経営者としては、解雇と退職勧奨の違いを正しく理解し、それぞれの法的リスクを踏まえたうえで適切な対応を選択することが重要です。具体的な進め方に不安がある場合には、労働問題に精通した弁護士に相談しながら方針を検討することが、会社のリスク管理の観点からも有効といえるでしょう。
解雇と退職勧奨に関するよくある質問
Q1. 退職勧奨から始めて、応じない場合に解雇することは可能ですか?
A. 可能です。ただし、解雇には「客観的合理的理由」と「社会的相当性」という極めて高いハードルが課されます。退職勧奨が決裂したからといって、自動的に解雇が有効になるわけではない点に注意が必要です。
Q2. 退職届をもらえば、それは必ず退職勧奨(合意退職)になりますか?
A. はい。形式上は合意退職となります。ただし、解雇を回避するために無理やり書かせたような場合は、後日「実質的には解雇である」として争われるリスクがあるため、任意の意思を尊重したプロセスが不可欠です。
Q3. 解雇予告手当はどちらの場合に支払う必要がありますか?
A. 解雇予告手当の支払義務が生じるのは「解雇」の場合のみです。退職勧奨(合意退職)の場合は、合意内容に基づき退職金を支払うことはあっても、法的な解雇予告手当の枠組みは適用されません。
監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026/3/9