労働問題378 個別合意よりも社員に有利な労働条件を定めた労働協約、就業規則が存在しない場合は、個別合意により賃金減額の効力が生じますか。
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個別合意よりも社員に有利な労働協約・就業規則が存在しない場合は、個別合意により賃金減額の効力が生じる。この場合は協約・就業規則の変更なしに個別合意だけで対応できる 377番とは逆の状況です |
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ただし、賃金減額への同意の認定は慎重になされるため、口頭での同意は「同意なし」と認定されるリスクが高い。必ず「書面」で同意書を取得すること 「言った・言わない」の水掛け論を防ぐためにも、書面化は必須です |
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書面による同意書の取得は必要条件であって十分条件ではない。裁判所は自由意思性(強迫・情報格差・説明不足の有無等)を実質的に審査する 既発生の賃金債権の放棄に対する同意については379番で詳しく解説します |
目次
01個別合意だけで有効になる条件
377番では、個別合意よりも有利な労働協約・就業規則が存在する場合には、個別合意だけでは賃金減額の効力が生じないことを解説しました。本記事は、その逆の状況。個別合意よりも有利な労働協約・就業規則が存在しない場合。について解説します。
この場合は、377番で問題となった労組法16条・労契法12条の優先関係が障害にならないため、原則として個別合意により賃金減額の効力が生じることになります。つまり、別途に就業規則や労働協約を変更しなくても、社員との個別合意だけで賃金を変更できる状況です。
ただし、「個別合意ができる状況にある」ということと、「その合意が法的に有効と認められる」ということは別の問題です。特に賃金減額の場面では、同意の認定について裁判所は慎重な判断を行います。
02口頭同意では「同意なし」と認定されるリスク
賃金減額への同意を口頭のみで行った場合、後に紛争が生じた際に「同意がなかった」と認定されるリスクが高くなります。理由は次の3点です。
口頭同意が否定されやすい3つの理由
①証拠がない:口頭でのやり取りは証拠が残らない。社員が後に「そんな話はなかった」「別の意味で言った」と主張した場合、会社側は立証できない
②賃金減額は重大な不利益:裁判所は賃金減額への同意の認定を特に慎重に行う。口頭だけでは「明確に同意した」という評価を受けにくい
③自由意思性の確認が困難:書面がなければ、説明の内容・同意の状況・検討時間の有無等を客観的に確認できない。結果として、自由意思に基づく同意かどうかの判断が難しくなる
「あの時、本人の前で話して、了解してくれました」という会社経営者の説明は、社員が「そんな話はしていない」「意味が分からないまま頷いただけ」と主張した場合に対抗できません。口頭だけでの合意に依拠することは、紛争リスクを自ら高める行為です。
03書面による同意書取得のポイント
賃金減額への同意は必ず書面(同意書)で取得してください。書面による同意書取得にあたっては、次のポイントを押さえることが重要です。
同意書取得の実務上のポイント
□ 変更後の賃金額(または変更内容)を具体的に記載する
□ 変更が適用される時期(年月日)を明記する
□ 社員が自らの意思で署名・押印するものとし、強要・誘導をしない
□ 同意書に署名する前に、十分な説明と検討時間を与える
□ 同意書は原本を会社で保管し、コピーを社員に渡す
□ 「断っても不利益はない」ことを明示する
04書面があっても自由意思性が問われる
書面による同意書の取得は、同意の有効性を立証するための最低限の要件です。しかし書面があれば必ず有効というわけではありません。裁判所は書面の存在に加え、実質的な自由意思性を審査します(山梨県民信用組合事件・最高裁平成28年2月19日等参照)。
特に、既に発生した賃金請求権を放棄させる場面では、自由意思性に関する要件がさらに厳しくなります(379番参照)。書面さえあれば安心ではなく、説明の充実・検討時間の確保・強要の不存在等を記録に残すことが重要です。
05まとめ
個別合意よりも有利な労働協約・就業規則が存在しない場合は、個別合意により賃金減額の効力が生じます。ただし、賃金減額への同意の認定は慎重になされるため、口頭での同意は「同意なし」と認定されるリスクが高く、必ず書面(同意書)で取得することが必要です。書面があっても裁判所は自由意思性を実質的に審査するため、説明の充実・検討時間の確保・強要の不存在を記録に残すことが重要です。既発生の賃金請求権の放棄については、さらに厳しい要件が求められます(379番参照)。具体的な同意書の作成については使用者側弁護士のサポートを受けることをお勧めします。アドバイスします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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Q&Aよくある質問
Q1. 全員が同意していれば、就業規則を変更しなくても賃金を下げることはできますか。
A. 就業規則が存在しない場合、または就業規則が個別合意より社員に不利な基準しか定めていない場合は、原則として個別合意だけで賃金減額が可能です。ただし全員から有効な書面による同意を取得することが必要であり、一人でも同意を得られなかった社員がいれば、その社員への賃金減額は効力を生じません。
Q2. メールやチャットでの同意も「書面」として認められますか。
A. 電子メールやチャットでの合意が証拠として認められる可能性はありますが、内容が曖昧であったり相手方の真意が読み取りにくかったりするケースでは、有効な同意の認定が難しくなることがあります。最も確実なのは、署名・押印のある書面(同意書)を取得することです。これが最もリスクの少ない方法です。
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最終更新日:2026年5月31日