労働問題362 運送業で見落としがちな割増賃金とは?会社経営者が注意すべき「日当」と休日労働の落とし穴

この記事の要点

日当制を採用している場合でも、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の支払義務は免除されない

賃金形態が日当制であっても、労基法の割増賃金規定(37条)はそのまま適用されます

休日に支払った「日当」が通常賃金相当額なのか休日労働の対価なのかを整理しないと、割増賃金の計算が狂う

月給制の感覚をそのまま日当制に当てはめると、未払いと二重払いの双方のリスクが生じます

長距離運行では休日労働・深夜労働・時間外労働が重なり、割増率が複合して適用される

「1日いくら」という日当だけでは対応できない複合的な割増計算の問題が生じます

計算ミスは静かに蓄積し、時効(3年)の範囲で遡及請求されると数百万円規模になる

「今まで請求されていない」ことは、計算が正しいことを意味しません

01運送業の日当制と割増賃金問題の全体像

 運送業を営む会社では、基本給を「1日当たりいくら」という日当制で支払っているケースが少なくありません。月給制を前提とする他業種とは異なり、日当制は運送業特有の賃金体系といえます。しかし、日当制を採用していても、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金の支払義務が免除されるわけではありません。割増賃金の支払は労基法に基づく強行規定であり、賃金形態にかかわらず適用されます。

 「1日いくら払っているのだから残業代は発生しない」という誤解は、運送業の会社経営者の間でも根強く残っています。しかし、日当が残業代を含む金額であると認められるためには、350番・351番で解説した定額残業代制度の有効要件を満たした適正な設計が必要です。「日当に含まれているつもり」では通用しません。

 特に問題になりやすいのが「休日に支払った日当の扱い」と「深夜・時間外が重なる複合ケースへの対応」です。これらを正確に整理していない場合、未払残業代の算定を大きく誤ることになります。

02休日に支払った「日当」は通常賃金ではない——整理を誤ると計算が狂う

 運送業において見逃されがちなのが、休日労働に対して支払った「日当」の扱いです。月給制を前提とする感覚で処理していると、重大な計算ミスにつながります。

 休日に出勤したドライバーに対して通常どおり「日当」を支払っている場合、その日当は「通常の労働日の賃金」とは性質が異なります。休日は本来労働義務のない日であり、その日に働いた対価として支払われる日当は休日労働の対価に当たります。

 したがって、未払残業代(割増賃金)を算定する場面では、この日当をどのように扱うかが重要になります。休日労働については法定休日であれば35%以上の割増賃金の支払義務がありますが、その基礎となる「通常賃金相当額」との関係を正確に整理しなければなりません。

「休日に日当を払っているから足りている」は危険な思い込み

月給制の場合、通常賃金は既に月給に含まれているため、休日労働では割増部分のみを追加で支払う構造になります。しかし、日当制の場合、休日に支払われた日当が「通常賃金相当部分」を含んでいるのか、それともすべてが休日労働の対価なのかを区別しなければ、二重計算または過少計算が生じます。この区別を誤ると、未払残業代の算定が大きくずれます。

03月給制との違いが生む計算ミス——日当制には日当制の計算ロジックがある

 運送業で日当制を採用しているにもかかわらず、月給制を前提とした計算感覚で割増賃金を処理してしまうことが、重大なミスの原因となります。

 月給制の場合、通常賃金は既に月給の中に含まれています。そのため、法定休日に労働させた場合は、原則として「通常賃金+35%以上」のうち割増部分のみを追加で支払えば足りるという構造になります。しかし、日当制では、休日に出勤した際にも1日分の日当が支払われることが多くあります。この日当が「通常労働日の賃金相当額」なのか、「休日労働の対価」なのかを整理しないまま、月給制と同じ発想で処理すると、割増部分の算定を誤る可能性があります。

 例えば「休日に日当を払っているから問題ない」と考えていても、その日当が通常賃金相当額にすぎない場合には割増部分が不足している可能性があります。逆に、日当の中に割増相当額が含まれていると整理できる場合には、その内訳を明確にしておかなければ、過大請求を受けた際に適切に反論できません。

日当の法的性質を明確にするために確認すべき3点

① 休日の日当は通常賃金相当額なのか、それとも休日労働の対価(割増部分を含む)なのか
② 割増部分を含む場合、何%分が割増賃金に当たるのか(法定休日35%・深夜25%等)
③ 日当の内訳を賃金規程・労働条件通知書・給与明細に明記しているか

04日当制に潜む二重払いと過少払いの双方のリスク

 日当制を採用している運送業では、未払残業代の問題だけでなく「二重払い」のリスクも見逃せません。日当の性質を明確に定義していない場合、未払いを避けようとして過大に支払う、あるいは過少に支払って請求を受ける——どちらのリスクも同時に存在します。

 例えば、休日に出勤したドライバーに対して日当を支払い、さらに休日割増賃金を別途支払った場合、日当の中に既に割増相当額が含まれていれば、結果的に二重払いとなる可能性があります。他方、日当の中に割増相当額が含まれていないと評価された場合、法定休日労働については少なくとも35%以上の割増賃金を追加で支払う必要があり、これを怠れば未払いが発生します。

 いずれの問題も、日当の法的性質を事前に明確に定義・記録していないことが原因です。「1日いくら」とだけ定めていると、それが通常賃金なのか、休日労働の対価なのか、割増部分を含むのかが不明確になります。

05深夜・時間外との複合ケース——長距離運行で割増率が重なる場合の対応

 運送業では、休日労働だけでなく、時間外労働や深夜労働が重なるケースが少なくありません。特に長距離運行では、休日に出発し、深夜帯に走行し、翌日まで拘束が続くといった複合的な労働形態が発生します。

 このような場合、割増率は単純ではありません。法定休日労働には35%以上、時間外労働には25%以上、深夜労働(22時〜5時)には25%以上の割増が求められ(労基法37条)、これらが重なる場合には割増率が加算される場面もあります。「1日いくら」という日当だけでは、これらの複合的な割増賃金に対応することはできません。

労働の種類 最低割増率 複合する場合
時間外労働(1日8時間・週40時間超) 25%以上 深夜と重なれば50%以上
法定休日労働(1週1休) 35%以上 深夜と重なれば60%以上
深夜労働(22時〜5時) 25%以上 他の割増と加算される

 「休日の日当にはすべて含まれている」という運用をしている場合でも、具体的に何%分を含んでいるのかが明示されていなければ防御は困難です。会社経営者としては、単に「休日かどうか」だけでなく、時間外に該当するか・深夜に該当するか・複数の割増が重なっていないかを分解して考える必要があります。

06計算誤りが招く高額請求リスクと今すぐ確認すべきチェック事項

 日当制における休日労働や複合割増の扱いを誤ると、その影響は一時的な修正では済みません。未払残業代(割増賃金)は過去に遡って請求されるため、計算ミスが累積して高額請求へと発展します。特に運送業では拘束時間が長く、休日出勤や深夜運行が頻繁に発生します。そのため、休日割増や深夜割増の計算を誤っている場合、1か月あたりの差額は小さくても、2年分・3年分と積み重なれば数百万円規模になることも珍しくありません。

今すぐ確認すべきチェック事項

□ 休日に支払っている日当の法的性質(通常賃金相当額か・割増部分を含むか・何%分か)を即答できるか
□ 時間外・休日・深夜が重なった場合の割増率を正確に整理できているか
□ 賃金規程・労働条件通知書・給与明細の内容が整合しているか
□ 現在の計算方法で再計算した場合に未払いが発生しないかを試算しているか
□ デジタルタコグラフ・運行記録と勤怠管理が連動しているか(第三者から見ても説明できるか)

07まとめ

 日当制を採用している運送会社では、休日に支払った日当の法的性質(通常賃金相当額か・休日労働の対価か・割増部分を含むか)を正確に整理していない場合、割増賃金の計算を誤るリスが高くなります。月給制の感覚をそのまま日当制に当てはめると、未払いと二重払いの双方のリスクが同時に生じます。また、長距離運行では時間外・休日・深夜の複合割増の問題も加わります。計算ミスは静かに累積し、時効(3年)の範囲で遡及請求されると数百万円規模になることがあります。日当制の構造を明確化し、説明可能な設計に改めることが、高額請求リスクを防ぐ最も確実な対策です。具体的な賃金設計については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。ドライバーから残業代請求を受けた・受けそうな運送会社の方、日当制・歩合制の賃金設計の見直しをお考えの方はご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 「休日に日当を払っているから残業代は要らない」という考えは正しいですか。

A. 正しくありません。休日に支払った日当が通常賃金相当額にすぎない場合、法定休日労働については35%以上の割増賃金を追加で支払う必要があります。また、日当の中に割増相当額が含まれていると主張するためには、その内訳を賃金規程等で明確にする必要があります。

Q2. 日当制で長距離運行をさせている場合、どのように割増賃金を計算すればよいですか。

A. 長距離運行では時間外・法定休日・深夜の複合割増が発生することがあります。それぞれの割増率(時間外25%以上・法定休日35%以上・深夜25%以上)が加算される場面を正確に把握し、各区分について計算する必要があります。具体的な計算方法については使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

Q3. 日当制を維持したまま残業代リスクを適正に管理する方法はありますか。

A. 日当制を廃止する必要はありませんが、①日当の法的性質(通常賃金相当額か・割増部分を含むか)を賃金規程に明確に定める、②給与明細に区分記載する、③定額残業代を組み込む場合は適法な要件を満たした設計にする(350番・351番参照)、④超過分を毎月精算する——という対応が必要です。

最終更新日:2026年5月31日

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