労働問題303 営業社員に具体的な指揮命令やサボりのチェックをしたい場合にみなし労働時間制を採用すべきですか。


この記事の要点

事業場外みなし労働時間制は、営業社員に対し具体的な指揮命令をすることを予定する制度ではない

みなし制の前提は「指揮監督が及ばないこと」であるため、具体的な指揮命令を行うこととは本質的に相容れない

みなし制の下では、営業社員が営業中にサボっていないかチェックすることも困難

チェックすればするほど「具体的指揮監督が及んでいる」と評価され、みなし制の適用が否定されるリスが高まります(293番参照)

具体的な指揮命令・サボりチェックへの要望が強い場合は、みなし制を適用せず、営業日報等により実労働時間を把握して残業代を支払う賃金制度の方が合理的

制度選択の際は自社の管理スタイルに合った制度を選ぶことが重要です

「みなし制を適用したい」という判断と「具体的な指揮命令をしたい」という管理スタイルは両立しない——どちらを優先するかを整理することが先決

「みなし制+具体的指揮命令」の組み合わせは、結果として「みなし制の適用が否定されて実労働時間で計算される」という最悪の事態を招くリスがあります

01事業場外みなし労働時間制の性質——指揮命令・サボりチェックとは相容れない

 事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)は、営業社員に対し具体的な指揮命令をすることを予定する制度ではなく、営業社員が営業中に仕事をサボっていないかチェックすることも困難です。

 290番で解説したとおり、みなし制の適用要件の一つである「労働時間を算定し難いとき」(要件②)とは、使用者の具体的な指揮監督が及ばない状況を前提としています。「使用者の指揮監督が及ばない」からこそ、実際の労働時間を把握せずに「みなし時間で計算する」という特例的な制度が認められるのです。

 したがって、「具体的な指揮命令をしたい」「サボっていないかチェックしたい」という管理スタイルとみなし制とは、本質的に相容れない関係にあります。

02「チェックすること」がみなし制の適用否定を招く逆説

 293番で解説した昭和63年1月1日基発第1号は、みなし制の適用が否定される具体例として「無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合」を挙げています。現代ではスマートフォン等による随時の連絡・指示がこれに当たります。

 つまり、「営業中に仕事をサボっていないかチェックするためにスマートフォンで随時連絡・確認を行う」という管理スタイルを取ることは、「使用者の具体的な指揮監督が及んでいる」と評価され、みなし制の適用要件(「労働時間を算定し難いとき」)を満たさないとして適用が否定されるリスがあります。

「みなし制+チェック管理」の逆説的なリスク

「みなし制を採用して残業代を節約しつつ、サボりをチェックしたい」という発想は、以下の逆説的なリスクをはらんでいます:

①みなし制を採用したつもりで残業代を払っていない
②チェックのために随時スマートフォンで指示・確認を行う
③「使用者の具体的な指揮監督が及んでいる」と評価される
④みなし制の適用が否定され、実労働時間で残業代を計算される
⑤残業代を全く払っていなかったため、3年分の未払残業代全額の請求を受ける

「チェックしようとしたことで、みなし制の節約効果が失われる」という皮肉な結果になります。

03指揮命令・チェックへの要望が強い場合の合理的な制度設計

 このような要望が強い場合は事業場外労働のみなし労働時間制を適用せず、営業日報等により実労働時間を把握して残業代(割増賃金)を支払うことを前提とした賃金制度を採用する方が合理的と思われます。

 「具体的な指揮命令をしたい」「サボっていないかチェックしたい」という管理スタイルと、「実労働時間を把握した上で残業代を支払う」という賃金制度は整合します。むしろ、実労働時間を把握することで業務の効率・生産性の管理も正確に行えるというメリットがあります。

管理スタイル 適合する賃金制度 適合しない制度
具体的指揮命令・随時チェックを行う 実労働時間を把握する制度(日報・タイムカード等)+実労働時間に応じた残業代支払 事業場外みなし労働時間制
裁量を与えて自律的に営業させる 事業場外みなし労働時間制+みなし時間に基づく残業代支払 実労働時間管理への過度な介入

04実労働時間把握を前提とした賃金制度のポイント

 みなし制を採用せずに実労働時間を把握する賃金制度を採用する場合、以下の点に注意することが重要です。

営業日報等による実労働時間の記録

 実労働時間を把握するためには、営業日報・タイムレポート・出退勤記録等により、始業・終業時刻(外出・帰社時刻を含む)を記録することが必要です。実労働時間の記録が適切になされていないと、後に「実際はもっと長く働いていた」として大幅な残業代請求を受けるリスがあります。

36協定の締結と残業代の支払

 実労働時間を把握する場合も、36協定(時間外・休日労働に関する協定)の締結・届出(272番〜275番参照)は必要であり、実際の時間外・休日・深夜労働に対して適切な割増賃金を支払う必要があります。

残業の事前申請制・許可制の導入も選択肢

 不必要な残業を防ぐためには、残業の事前申請制・許可制を導入することも選択肢の一つです。ただし、事前の許可なく残業した場合であっても、使用者が残業の事実を認識しながら黙認している場合は残業代の支払義務が生じることがあります(残業代請求関連の記事参照)。

05まとめ

 事業場外労働のみなし労働時間制は、営業社員に対し具体的な指揮命令をすることを予定する制度ではなく、サボりのチェックも困難です。具体的な指揮命令やチェックへの要望が強い場合は、みなし制を適用せず、営業日報等により実労働時間を把握して残業代を支払う賃金制度を採用する方が合理的です。「みなし制を採用しつつ具体的なチェックも行う」という組み合わせは、みなし制の適用が否定されるリスクを高めるため、最悪の選択といえます。

 自社の営業社員の管理スタイルに合った制度設計については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。営業社員の管理制度の設計・みなし労働時間制の要件確認・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 営業社員に具体的な指揮命令をしながらみなし労働時間制を適用できますか。

A. 実質的には困難です。みなし制の適用要件である「労働時間を算定し難いとき」の前提は「使用者の具体的な指揮監督が及ばないこと」であり、具体的な指揮命令を行うことはこの要件と相容れません。具体的な指揮命令を行いながらみなし制の適用も認められるということは、原則としてありません。

Q2. 営業社員がサボっていないかチェックしたい場合どうすればよいですか。

A. みなし制を適用せずに、営業日報・訪問記録・タイムレポート等で実労働時間を把握する制度を採用することをお勧めします。実労働時間を把握する制度の下では、チェックを行っても「みなし制の適用が否定される」というリスがなく、実態に即した業務管理ができます。その上で、実際の時間外・休日・深夜労働に対して適切な残業代を支払うことが必要です。

Q3. 営業日報等で実労働時間を把握する場合、残業代はどのように計算しますか。

A. みなし制を適用しない場合は、実際の労働時間を基準として残業代を計算します。週40時間または1日8時間を超えた部分については時間外割増賃金(25%以上)、法定休日の労働については休日割増賃金(35%以上)、22時〜5時の深夜労働については深夜割増賃金(25%以上)を支払う必要があります。

Q4. みなし制と実労働時間把握の両立はできますか。

A. 「みなし制の適用があることを前提として実労働時間も参考把握する」という運用は理論的にはあり得ますが、実務上、随時チェックや具体的指揮命令を行いながらみなし制の適用も維持するというのは非常に困難です。「みなし制を使いたいなら指揮命令・チェックを控える」「指揮命令・チェックをしたいなら実労働時間管理に切り替える」という選択が明確な分かれ道となります。

最終更新日:2026年5月10日



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