労働問題302 営業社員からの残業代(割増賃金)請求対策で最も重要なことは何だと思いますか。
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みなし労働時間制を適用するだけでは残業代請求対策として不十分——通常所定時間を超えて業務が必要な場合は残業代の支払が必要 みなし制は残業代免除制度ではなく(289番・294番参照)、適用しても残業代が発生する場合があります |
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最高裁が「労働時間を算定し難いとき」を様々な要素で総合的に判断するため、みなし制の適用可否を的確に予測することは難しい 万が一みなし制の適用が否定された場合への備えが必要です |
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みなし労働時間に基づき計算された残業代を支払済みにしておけば、万が一みなし制の適用が否定されても追加支払を抑制できる 「払っておいた残業代は既払分として控除できる」という発想が重要です |
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「みなし制の適用があるかどうか」よりも「実態に適合した金額の残業代が支払済みかどうか」の方が残業代リスク管理として重要 これが290番〜302番シリーズの実務上の結論です |
目次
01みなし制の適用だけでは残業代対策として不十分な理由
事業場外労働のみなし労働時間制の適用がない場合に、実労働時間に応じた残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払う必要があるのは当然ですが、事業場外労働のみなし労働時間制を適用できたとしても、当該業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働させる必要がある場合には、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」労働したものとみなされ、みなし労働時間に基づき算定された時間外労働時間に対応する残業代(時間外割増賃金)の支払が必要となります(294番・295番参照)。
したがって、通常は所定労働時間内に事業場外労働が終わらず、1日8時間を超えて労働することが必要となるケースでは、事業場外労働のみなし労働時間制を適用するだけでは残業代(割増賃金)請求対策として不十分であり、何らかの形で残業代(時間外割増賃金)を支払済みにしておく必要があります。休日・深夜に労働させれば、残業代(休日・深夜割増賃金)の支払が必要なことは、通常の場合と何ら変わりありません。
02「労働時間を算定し難いとき」の判断の難しさ
最高裁は、様々な要素を総合的に考慮して「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかを判断しており、「労働時間を算定し難いとき」に当たるかどうかを的確に予測することは難易度が高いといわざるを得ません。
実務上、「事業場外みなし労働時間制を採用しているから大丈夫」と考えていたところ、後になって「使用者が随時スマートフォンで指示を出していたため『労働時間を算定し難いとき』に当たらない」と判断されてみなし制の適用が否定されるケースもあります(290番・293番参照)。
「これであれば『算定し難い』と認められる」という明確な基準がなく、以下のような要素が総合的に考慮されます:
・スマートフォン等による随時連絡・指示の有無と頻度
・訪問先・帰社時刻等の具体的指示の有無(293番参照)
・グループ行動か単独行動か、グループ内の管理者の有無(293番参照)
・業務管理システム・タイムレポート等での労働時間把握の可否
これらの総合判断であるため、会社が「大丈夫」と思っていても否定されることがあります。
03みなし制の適用が否定された場合への備え——既払残業代による抑制
したがって、「労働時間を算定し難いとき」には当たらないとして事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定された場合であっても、会社が支払わなければならない残業代(割増賃金)を最小限にとどめることができる制度設計が必要となります。
この点、みなし労働時間に基づき計算された残業代(時間外割増賃金)を支払済みにしておけば、万が一、事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定された場合であっても、使用者が追加で支払わなければならない時間外割増賃金の金額を抑制することができます。
「既払残業代」が防波堤になる仕組み
みなし制の適用が認められた場合:
みなし労働時間に基づく残業代を既に支払済みのため、不足額があれば追加支払で足りる
万が一みなし制の適用が否定された場合:
実際の労働時間に基づく残業代総額から「支払済みの残業代(みなし労働時間に基づく分)」を控除した差額のみの追加支払で足りる
→ 全く残業代を払っていない場合と比べて、追加支払額を大幅に抑制できる
04結論——実態に適合した残業代の支払が最重要
このような事業場外労働のみなし労働時間制の構造からすれば、営業社員からの残業代(割増賃金)請求に対するリスク管理としては、事業場外労働のみなし労働時間制の適用があるかどうかよりも、実態に適合した金額の残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払がなされているかどうかの方が重要とさえいえます。
従来の(誤った)視点:
「みなし労働時間制を適用しているから残業代リスクは管理できている」
正しい視点:
「みなし制の適用有無にかかわらず、実態に適合した残業代が支払済みかどうかが残業代リスク管理の核心」
みなし制の適用が認められれば「残業代を少なく済ませられる可能性がある」という位置づけに過ぎず、「残業代を払わなくてよい根拠」ではありません。
05実践的なリスク管理のポイント
290番〜302番のシリーズを通じた実践的なリスク管理のポイントを整理すると以下のとおりです。
これらのポイントを押さえた制度設計と適正な残業代支払の実践が、営業社員からの残業代請求に対するリスク管理の核心です。具体的な設計・就業規則の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。営業社員の残業代リスク管理・みなし労働時間制の設計・就業規則の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。
Q&Aよくある質問
Q1. 営業社員からの残業代請求リスク管理で最も重要なことは何ですか。
A. 事業場外みなし労働時間制の適用があるかどうかよりも、実態に適合した金額の残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払がなされているかどうかの方が重要です。みなし制の適用が否定された場合でも、支払済みの残業代を既払分として控除できるため、実態に合った残業代を払っておくことが最大のリスクヘッジになります。
Q2. みなし労働時間制の適用があれば残業代請求リスクは低くなりますか。
A. みなし制の適用は「残業代を少なく済ませられる可能性がある」というものであり、「残業代を払わなくてよい根拠」ではありません。通常所定時間を超えて業務が必要な場合は、みなし制を適用しても「通常必要とされる時間」でみなされ残業代が発生します。また、最高裁が「算定し難いとき」を様々な要素で総合判断するため、みなし制の適用自体が否定されるリスもあります。
Q3. みなし制の適用が否定されるリスクに備えるにはどうすればよいですか。
A. みなし労働時間に基づき計算された残業代(時間外割増賃金)を支払済みにしておくことが有効な備えになります。みなし制の適用が否定された場合でも、実際の労働時間に基づく残業代総額から支払済みの残業代を控除した差額のみの追加支払で足りることになり、全く残業代を払っていない場合と比べて追加支払額を大幅に抑制できます。
Q4. みなし労働時間に基づく残業代を支払っておけば、みなし制が否定されても問題ありませんか。
A. 全く問題がなくなるわけではありませんが、追加支払額を大幅に抑制できます。みなし制が否定されて実際の労働時間で計算した場合でも、支払済みの残業代が既払分として控除されるため、「残業代をゼロしか払っていない」場合と比べて残存する追加支払義務の金額を抑えることができます。支払名目を「時間外勤務手当」等の明白な名目にしておくことも重要です(297番参照)。
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最終更新日:2026年5月10日