労働問題294 事業場外労働のみなし労働時間制と残業代(割増賃金)支払義務との関係を教えて下さい。


この記事の要点

みなし労働時間制は残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除するものではない

「みなし制を採用したから残業代は不要」という理解は誤りです

通常所定労働時間内に業務が終わる事案では所定労働時間労働したとみなされ、時間外割増賃金の支払を免れることがある

「免れることがある」に過ぎず、すべての場合に免れるわけではありません

通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる事案では「業務の遂行に通常必要とされる時間」(例:10時間・11時間)労働したとみなされ、残業代が発生する

みなし時間が週40時間・1日8時間を超えれば時間外割増賃金の支払義務が生じます

みなし労働時間制を採用しても、法定休日や深夜に労働させた場合の休日割増賃金・深夜割増賃金の支払義務は通常と変わらない

289番(変形労働時間制)と同様に、休日・深夜割増賃金にはみなし制の効果は及びません

01みなし労働時間制は残業代免除制度ではない

 事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)は、労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときに、所定労働時間又は当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす制度であり、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除するものではありません。

 変形労働時間制(289番参照)と同様に、みなし労働時間制も「残業代を払わなくてよい制度」ではありません。「みなし制を導入したから残業代は一切不要」という誤った運用をしていると、後になって多額の残業代請求を受けるリスがあります。

02通常所定労働時間内に仕事が終わる事案——残業代が発生しない場合

 当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要とならない事案(通常は所定労働時間内に仕事が終わる事案)において、事業場外労働のみなし労働時間制が適用されて所定労働時間労働したものとみなされた結果、時間外労働がなかったことになり、残業代(時間外割増賃金)の支払を免れることがあるに止まります。

所定労働時間内に仕事が終わる事案の例
所定労働時間が1日8時間の外回り営業職について、通常の1日の業務(顧客訪問・商談・移動等)は8時間以内で完了できる場合:

→ みなし制の適用により「8時間労働したものとみなす」
→ 実際の労働時間が8時間を超えていたとしても(または下回っていたとしても)、「8時間労働した」とみなされるため、時間外労働は発生しない
→ 残業代(時間外割増賃金)の支払を免れることができる

03通常所定労働時間を超える事案——「業務の遂行に通常必要とされる時間」でみなす

 事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合であっても、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる事案(通常は所定労働時間内に仕事が終わらない事案)においては、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」(例えば、1日10時間とか11時間といった時間)労働したものとみなされます。

 この場合、「所定労働時間」ではなく「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」でみなされますので、所定労働時間(例:8時間)を上回るみなし時間(例:10時間)が設定されることになります。このみなし時間を基に残業代の計算が行われます。

「業務の遂行に通常必要とされる時間」でみなされる例
所定労働時間が1日8時間の取材記者について、取材・記事執筆・移動等を含む1日の業務を遂行するには通常10時間かかる場合:

→ 「8時間」ではなく「10時間」労働したものとみなす(労使協定で定めるか、または業務の実態から認定)
→ 1日8時間を超える2時間分について時間外割増賃金が発生する可能性がある

04みなし労働時間が週40時間・1日8時間を超える場合の残業代

 みなし労働時間を基に労働時間を算定した結果、労働時間が週40時間(小規模事業場の特例が適用される場合には週44時間)又は1日8時間を超える場合には、残業代(時間外割増賃金)の支払が必要となります。

みなし時間の設定 残業代(時間外割増賃金)の発生
所定労働時間(1日8時間)でみなす 週40時間以内であれば原則として発生しない
「業務遂行に通常必要とされる時間」(例:1日10時間)でみなす 1日8時間・週40時間を超える部分について時間外割増賃金が発生する

 「業務の遂行に通常必要とされる時間」は、労使協定(書面による労使合意)によって定めることもできます(労基法38条の2第2項)。労使協定で定めたみなし時間が週40時間・1日8時間を超える場合は、超えた部分について残業代の支払義務が生じます。

05休日・深夜割増賃金の支払義務——通常と変わらない

 労基法35条所定の法定休日や深夜に労働させた場合には、休日割増賃金(35%以上)や深夜割増賃金(25%以上)の支払が必要となることは、通常の場合と何ら変わりありません。

 みなし労働時間制は、「労働時間の算定方法」に関する制度であり、「休日労働かどうか」「深夜時間帯の労働かどうか」という問題には影響しません。法定休日(週1回の休日)に労働させた場合は休日割増賃金が必要ですし、22時〜5時の深夜時間帯に労働させた場合は深夜割増賃金が必要です。この点は、289番で解説した変形労働時間制の場合と同様です。

06まとめ

 事業場外労働のみなし労働時間制は、残業代(割増賃金)の支払義務を免除する制度ではありません。通常所定労働時間内に業務が終わる事案では所定労働時間労働したとみなされ、時間外割増賃金の支払を免れることがあるに止まります。通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる事案では「業務の遂行に通常必要とされる時間」でみなされ、週40時間・1日8時間を超える部分については時間外割増賃金の支払義務が生じます。

 また、みなし労働時間制を採用しても、法定休日や深夜に労働させた場合の休日割増賃金・深夜割増賃金の支払義務は通常と変わりません。みなし労働時間制の設計・就業規則の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。みなし労働時間制の設計・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. みなし労働時間制を採用すれば残業代を払わなくてよいですか。

A. 払わなくてよいわけではありません。みなし労働時間制は残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免除するものではありません。通常所定労働時間内に業務が終わる事案でみなし制が適用された結果として、時間外労働がなかったことになり残業代支払を免れることがあるに過ぎません。

Q2. 「業務の遂行に通常必要とされる時間」とはどのような時間ですか。

A. 当該事業場外業務を遂行するために、通常の状態で必要となる時間のことをいいます。所定労働時間内に仕事が終わらない性質の業務については、所定労働時間を超えた「通常必要とされる時間」でみなすことになります。この時間は、労使協定で定めることができます(労基法38条の2第2項)。

Q3. みなし労働時間が所定労働時間を超える場合、残業代はどうなりますか。

A. みなし労働時間(「業務の遂行に通常必要とされる時間」)が週40時間・1日8時間を超える場合には、超えた部分について時間外割増賃金(25%以上)の支払義務が生じます。例えば、1日のみなし労働時間が10時間と設定されている場合、8時間を超える2時間分について時間外割増賃金が発生します。

Q4. みなし労働時間制を採用しても休日・深夜割増賃金の支払は必要ですか。

A. 必要です。法定休日に労働させた場合の休日割増賃金(35%以上)や、22時〜5時の深夜時間帯に労働させた場合の深夜割増賃金(25%以上)の支払義務は、みなし労働時間制を採用していても通常と変わりありません。みなし制は「労働時間の算定方法」に関する制度であり、休日・深夜割増賃金の支払義務には影響しません。

最終更新日:2026年5月10日



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