労働問題19 就業規則がない会社でも普通解雇することができますか?

この記事の要点

就業規則がなくても普通解雇は可能です。ただし「就業規則がない=自由に解雇できる」は誤りであり、解雇権濫用法理は就業規則の有無にかかわらず適用されます。

 就業規則がない会社でも、民法627条を根拠として普通解雇を行うことは可能です。しかし、解雇権濫用法理(労働契約法16条)は就業規則の有無にかかわらず適用されるため、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ解雇は無効となります。就業規則がないことは解雇の免罪符にはなりません。

就業規則がなくても普通解雇は可能(民法627条)

 期間の定めのない雇用契約では、民法627条に基づき使用者はいつでも解雇の申し入れをすることができます。就業規則がなくても普通解雇を行う法的根拠はあります。


解雇権濫用法理は就業規則の有無にかかわらず適用される

 労働契約法16条の解雇権濫用法理は就業規則がなくても適用されます。客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠く解雇は無効です。


就業規則がないことで紛争時に会社側が不利になるリスク

 就業規則がない場合、解雇事由の明文規定がなく、解雇の客観的合理性の立証が困難になります。早期の就業規則整備が労務リスク管理の観点から重要です。

1. 就業規則がなくても普通解雇できる法的根拠

民法627条に基づく解雇

 期間の定めのない雇用契約(正社員等)においては、使用者はいつでも解雇の申し入れをすることができます。これは民法627条に規定されており、就業規則の有無にかかわらず適用される一般的なルールです。

民法627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

第1項 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

第2項 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

第6項 6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3か月前にしなければならない。

 この規定を根拠に、就業規則がない会社であっても、使用者は普通解雇を行うことができます。

懲戒解雇とは対照的:就業規則なしでは原則不可

 懲戒解雇は、使用者が従業員に対して制裁(懲戒)として行う解雇であり、就業規則に懲戒事由と懲戒手続が規定されていることが有効要件の一つとなります。就業規則がない場合、原則として懲戒解雇を行うことはできません。

 これに対して普通解雇は、労働契約の解消という性質を持ち、民法の一般規定を根拠とすることができるため、就業規則がなくても実施することが可能です。この点が両者の大きな違いです。

2. 「就業規則がなければ解雇が自由」という誤解に注意

解雇権濫用法理は就業規則の有無にかかわらず適用される

 就業規則がない会社でも普通解雇自体は可能ですが、それは「自由に解雇できる」ということではありません。労働契約法16条に定める解雇権濫用法理は、就業規則の有無にかかわらず適用されます。

労働契約法16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 この規定により、①客観的に合理的な理由があること、②社会通念上相当であること、という2つの要件を満たさない解雇は、就業規則がない場合であっても無効となります。

✕ よくある経営者の誤解

「就業規則がないから、解雇は自由にできる」→ 誤りです。
 解雇権濫用法理(労働契約法16条)は就業規則の有無にかかわらず適用されます。客観的合理的理由と社会通念上の相当性がなければ、就業規則がなくても解雇は無効です。

「10人未満の小さな会社だから就業規則は不要」→ リスクがあります。
 就業規則の作成義務(労働基準法89条)は常時10人以上の事業場に課されますが、10人未満でも就業規則がなければ解雇事由の明文化がなく、紛争時に会社側が不利な立場に置かれます。

就業規則がないことで生じる紛争リスク

 むしろ、就業規則が整備されていない会社においては、解雇の有効性をめぐる紛争において不利な立場に置かれるリスクがあります。就業規則がある場合、解雇事由が明文化されており、「この行為が解雇事由に該当する」という主張をしやすくなります。しかし就業規則がない場合、解雇の客観的合理性を立証する証拠が乏しくなりがちです。

 弁護士として会社側の相談を受ける中で実感するのは、「就業規則がないから大丈夫だろう」という判断で進めた解雇が、後になって解雇権濫用として無効と判断されるケースが少なくないという点です。就業規則の整備は、解雇リスクを下げる上でも重要な経営上の課題といえます。

 就業規則の整備や、解雇の有効性の事前確認について、早めのご相談をお勧めします。就業規則がないまま解雇を進めることのリスクについて、個別の状況に応じたアドバイスが可能です。→ 経営労働相談はこちら

3. 普通解雇が有効となるための実務上のポイント

解雇前に踏むべき手順:注意指導と記録の整備

 就業規則の有無にかかわらず、普通解雇が有効と認められるためには、以下の手順を踏んでいることが重要です。まず、解雇に至る前に十分な注意指導を行い、改善の機会を与えることが必要です。一度の問題行動でいきなり解雇に踏み切ることは、社会通念上の相当性を欠くとして無効とされるリスクがあります。また、注意指導の内容・日時・本人の応答を記録として残しておくことが、後の紛争において会社側を守る重要な証拠となります。

就業規則の早期整備を検討する

 就業規則がない場合、解雇事由の明確化・手続の適正化・証拠の整備という観点から、早期に就業規則を整備することを強くお勧めします。常時10人以上の労働者を使用する事業場は労働基準法上の就業規則作成義務がありますが(労基法89条)、10人未満の事業場であっても、就業規則の整備は労務リスクの管理において不可欠です。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

 就業規則のない会社からの解雇相談でよく見られるのは、次のようなパターンです。

・「就業規則がないから自由に解雇できると思っていた。解雇した後に労働審判を申し立てられ、解雇無効と判断されてしまった」

・「注意指導の記録もなく、いきなり解雇したところ、客観的合理的理由がないとして多額のバックペイを請求された」

 就業規則がないことで紛争時の立証が困難になります。解雇を検討する前に、就業規則の整備と弁護士への相談を強くお勧めします。

4. まとめ

 就業規則がない会社でも、民法627条を根拠として普通解雇を行うことは可能です。ただし、解雇権濫用法理(労働契約法16条)は就業規則の有無にかかわらず適用されるため、客観的合理的理由と社会通念上の相当性を欠く解雇は無効となります。就業規則がないことは解雇の免罪符にはならず、むしろ紛争時に会社側が不利な立場に置かれるリスクを高めます。

 普通解雇を検討している場合や、就業規則の整備について相談したい場合は、会社側の労働問題に精通した弁護士にご相談ください。

 

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最終更新日 2026/04/05

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