不当労働行為における不利益取扱いとは?判断基準と実務対応【会社側弁護士が解説】
労働組合法第7条1号は、使用者が「労働者が労働組合の組合員であること」などを理由に、その労働者を解雇・降格・減給・配転その他不利益な扱いをすることを、「不利益取扱い」として禁止しています。不利益取扱いは不当労働行為の中でも最も紛争が多い類型であり、組合員への配転・解雇・懲戒処分を検討する際には、不当労働行為となるリスクを必ず事前に確認する必要があります。
不利益取扱いが認定されるかどうかは、使用者の行為が「組合員であること等を理由とする」ものであるかによって決まります。この「理由性」は、使用者の主観的な意図だけでなく、客観的な事情から判断されます。業務上の正当な理由があっても、その行為の主たる動機が組合活動への報復・嫌がらせにあると認められれば、不利益取扱いと判断されることがあります。
本記事では、使用者側・会社側の立場から、不利益取扱いの要件、禁止される具体的行為、「理由性(不当労働行為意思)」の判断基準、裁判例・労働委員会命令の傾向、そして会社側が取るべき実務対応を解説します。
01不利益取扱いの要件と禁止される行為
不利益取扱い(労組法第7条1号)が成立するには、①使用者による不利益な取扱い、②不利益取扱いの理由が組合員であること等であること(理由性)、の二要件が必要です。
禁止される「不利益な取扱い」には、解雇・退職強要・降格・降職・減給・出勤停止・懲戒処分・配転・出向・転籍・雇止めなどが含まれます。雇用や処遇に関する事実上の不利益であれば足り、法律上の不利益に限られません。また、「黄犬契約」(労働組合に加入しないこと・脱退することを雇用の条件とする契約)も禁止されます(第7条1号後段)。
「理由性」については、使用者が組合員であること・組合活動をしたこと等を動機・原因として不利益取扱いを行ったと認められることが必要です。使用者が当該事実を認識していること、および不利益取扱いとの因果関係が求められます。
02「不当労働行為意思」の判断と複数動機の問題
不利益取扱いの「理由性」(不当労働行為意思)の判断は、使用者の主観的意図だけでなく、客観的な事情から総合的に判断されます。会社が「業務上の必要性から行った」と主張しても、それが認められないことがあります。
実務上問題となるのは、業務上の正当な理由(能力不足・規律違反等)と、組合活動への報復という不当動機が混在する「複数動機」のケースです。この場合、どちらが「主たる動機」であるかによって不当労働行為の成否が左右されますが、不当動機が主たる動機と認められれば、業務上の理由があっても不当労働行為となります。
不当労働行為意思を推認させる客観的事情としては、①処分の時期が組合結成・加入・団体交渉申入れ直後であること、②非組合員には同様の問題があっても処分していないこと、③処分の理由とされた事実が軽微または客観的根拠に乏しいこと、④使用者の言動から組合への敵意が窺えること、などが挙げられます。
03配転・解雇・懲戒処分が不利益取扱いとなる場合
配転命令については、業務上の合理的な必要性があり、組合活動との無関係性が明確であれば、不利益取扱いには当たりません。しかし、組合役員を標的とする配転(特に組合活動ができなくなる部署への異動)、組合結成後の突然の配転、非組合員との差別的配転等は、不当労働行為と認定されるリスクが高くなります。
解雇については、組合員であることを理由とする解雇は明確に禁止されます。組合活動(ストライキ・ビラ配布・団体交渉への参加等)を理由とする解雇も、不利益取扱いに当たります。また、組合の正当な活動に参加したことを理由とする不利益取扱いは禁止されており、ストライキ参加者の選別解雇等は許されません。
懲戒処分については、組合員と非組合員で同じ行為をした場合に異なる処分を行うことは、差別的取扱いとして不当労働行為と認定される可能性があります。懲戒処分を行う場合は、組合員・非組合員を問わず均一の基準で行うことが重要です。
04会社側が実務上すべき対応
不利益取扱いのリスクを回避するために、会社側が実務上取るべき対応は次のとおりです。
第一に、組合員に対する人事措置(配転・懲戒処分・解雇等)を検討する際は、必ず弁護士に相談することです。組合との関係が緊張している時期は特に慎重な対応が必要です。第二に、処分の理由を客観的な証拠で示せるようにすることです。能力不足・規律違反等が理由の場合は、指導記録・勤務評価・業務日誌等を整備しておくことが重要です。
第三に、組合員と非組合員で同様の問題がある場合、取扱いに差がないか確認することです。組合員のみを厳しく処分することは、差別的取扱いとして不当労働行為と評価されるリスクがあります。第四に、処分の時期が組合活動と時間的に近接している場合は、特に慎重に判断することです。組合結成・加入・団体交渉申入れ直後の不利益措置は、理由が正当であっても不当労働行為意思を疑われやすくなります。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
05よくある質問
Q1. 組合員の問題行動を理由に懲戒処分をしたいが、不当労働行為になりますか?
問題行動が客観的な事実として認められ、非組合員にも同様の問題があった場合に同様の処分を行う方針であれば、不当労働行為にはなりにくいです。ただし、組合との関係が緊張している時期の処分は慎重に判断し、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
Q2. 組合役員を別の部署に配転させたい場合、どう進めれば良いですか?
業務上の合理的な必要性を客観的に説明できることが前提です。組合役員としての活動ができなくなるような配転は、不利益取扱いと認定されるリスクが高くなります。配転の理由・時期・人選の合理性を事前に弁護士と検討することが重要です。
Q3. 組合加入直後に問題社員を解雇しようとしています。不当労働行為になりますか?
タイミングが近接しているため、不当労働行為意思を疑われるリスクが高い状況です。解雇の理由が客観的な事実に基づくものでも、不当労働行為と認定される可能性があります。解雇を実行する前に必ず弁護士に相談してください。
Q4. 不利益取扱いとして労働委員会に申立てをされた場合、どう対応しますか?
直ちに弁護士に相談し、答弁書の準備を始めます。処分の業務上の必要性・組合活動との無関係性を示す客観的証拠(指導記録・評価資料等)を整理します。労働委員会の審問では証人尋問も行われるため、早期から弁護士との連携が重要です。
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最終更新日:2026年5月10日