1. 不当労働行為制度の趣旨と位置づけ

 不当労働行為とは、使用者が労働組合や労働者の正当な組合活動に対して行う、労働組合法で禁止された一定の行為をいいます。労働組合法は、労働者が団結し、団体交渉を行う権利を実効的に保障するため、使用者の行為を一定範囲で制限しています。

 この不当労働行為が問題となる最大の特徴は、通常の労働紛争とは異なる特別な救済制度が設けられている点にあります。具体的には、裁判ではなく、公益委員・労働者委員・使用者委員の三者で構成される労働委員会が救済を行う仕組みとなっています。

 不当労働行為制度の目的は、使用者を過度に拘束することではなく、労使間の力関係の不均衡を是正し、労働組合が自由に活動できる環境を確保することにあります。そのため、使用者の行為が、表面的には人事権や経営判断の一環に見える場合であっても、組合活動への萎縮効果をもたらすと評価されれば、不当労働行為と判断される可能性があります。

 会社経営者としては、「経営判断だから許される」と安易に考えるのではなく、労働組合法が予定する組合保護の趣旨を前提に行動することが、不当労働行為リスクを回避するうえで重要となります。

2. 不当労働行為の3つの類型

 労働組合法は、使用者による一定の行為を明確に禁止しており、これらを総称して不当労働行為と呼びます。不当労働行為は、労働組合法7条において、大きく3つの類型に整理されています。

 第一は、労働者の組合活動等を理由とする不利益取扱いです。これは、労働者が労働組合に加入したこと、組合活動を行ったこと、団体交渉に関与したことなどを理由として、解雇、降格、配転、賃金減額などの不利益な取扱いをする行為をいいます。また、労働組合に加入しないことを雇用条件とする、いわゆる黄犬契約も、この類型に含まれます。

 第二は、団体交渉の不当な拒否または不誠実な対応です。労働条件や人事に関する義務的団交事項について、正当な理由なく団体交渉を拒否したり、形式的には応じていても、説明を尽くさず実質的な協議を行わない場合には、不当労働行為に該当する可能性があります。

 第三は、労働組合への支配介入や経費援助です。使用者が、労働組合の運営に介入したり、組合を弱体化させる目的で影響力を行使したりする行為がこれに当たります。特定の組合を優遇したり、組合役員の選任に影響を及ぼしたりする行為も、支配介入と評価され得ます。

 これら三つの類型はいずれも、労働組合の自主性・独立性を害するかどうかという観点から判断されます。会社経営者としては、自社の対応がどの類型に該当し得るのかを意識しながら、慎重に対応することが求められます。

3. 不利益取扱い・支配介入に該当する典型例

 不当労働行為のうち、実務上特に問題となりやすいのが、不利益取扱いおよび支配介入に該当する行為です。これらは、人事権行使の形をとって行われることが多く、会社経営者としては注意が必要です。

 例えば、労働組合の委員長や役員の組合活動を嫌忌した使用者が、組合活動を弱体化させる意図で、当該役員を不利な部署や遠隔地に配転するといったケースは、不利益取扱いに該当する典型例とされています。配転自体が人事権の範囲内であっても、組合活動への報復や抑圧を目的とする場合には、不当労働行為と判断されます。

 また、使用者が特定の労働組合を弱体化させる目的で、人事評価や処遇に差を設けたり、組合活動に消極的な労働者を優遇したりする行為も、支配介入と評価され得ます。形式的には経営判断や人事政策に見えても、組合の自主的な活動に影響を与える意図が認められるかが重要な判断ポイントとなります。

 さらに、使用者が労働組合に対して経費援助を行い、その見返りとして運営に影響を及ぼそうとする行為も、支配介入に該当します。経費援助は一見すると組合支援のように見えますが、組合の独立性を損なうおそれがある行為として原則的に禁止されています。

 会社経営者としては、人事や処遇の判断に際し、組合活動との関連性を疑われないかという視点を持ち、動機や目的について説明できる体制を整えておくことが重要です。

4. 団体交渉拒否・不誠実対応の問題点

 不当労働行為の中でも、団体交渉の拒否や不誠実な対応は、会社経営者が意図せず該当してしまいやすい類型です。形式的に団体交渉の場に出席していても、その対応次第では不当労働行為と判断される可能性があります。

 労働条件や人事に関する事項のうち、賃金、労働時間、配転などは、義務的団交事項とされています。これらについて、正当な理由なく団体交渉自体を拒否した場合はもちろん、出席はしたものの、質問に答えない、資料を一切示さない、結論ありきで説明を尽くさないといった対応は、不誠実団交として問題となります。

 例えば、労働組合が、組合委員長の配転理由について団体交渉を求めたにもかかわらず、使用者がこれを拒否した場合や、交渉の場で、配転の業務上の必要性や合理性について十分な説明を行わなかった場合には、団体交渉拒否として不当労働行為に該当する可能性があります。

 さらに、このような団体交渉拒否が、組合活動を弱体化させる意図と結びつく場合には、支配介入として評価される余地も生じます。すなわち、②の類型にとどまらず、③の問題が併存するケースもある点には注意が必要です。

 会社経営者としては、「交渉に応じているつもり」であっても、実質的な協議を行っているかという観点から自社の対応を見直すことが、不当労働行為リスクを回避するうえで重要となります。

5. 配転・人事と不当労働行為の関係

 不当労働行為は、解雇や懲戒といった明確な不利益処分だけでなく、配転や人事異動といった日常的な人事権行使の場面でも問題となり得ます。特に、労働組合役員や積極的に組合活動を行っている労働者に対する人事異動は、慎重な判断が求められます。

 例えば、労働組合の委員長が会社方針に批判的な発言を行った直後に、業務上の必要性が明確でない配転が行われた場合、たとえ形式上は配転理由が示されていても、組合活動を嫌忌した報復的措置ではないかという疑いを持たれやすくなります。このような場合、不利益取扱いとして不当労働行為に該当する可能性があります。

 また、配転に関する団体交渉を求められたにもかかわらず、これを拒否したり、十分な説明を行わなかったりすると、団体交渉拒否として不当労働行為が成立するリスクがあります。さらに、その対応が組合の弱体化を目的としたものであれば、支配介入として評価されることもあります。

 重要なのは、人事権行使そのものが直ちに不当労働行為となるわけではないという点です。問題となるのは、組合活動との因果関係や動機・目的です。会社経営者としては、人事判断に際し、業務上の必要性や合理性を客観的に説明できるようにしておくとともに、組合活動との関連を疑われない配慮が不可欠です。

6. 会社経営者が実務で注意すべきポイント

 不当労働行為は、会社経営者が意図していなくても成立することがあり、「知らなかった」「経営判断のつもりだった」では済まされない点に注意が必要です。実務上は、次のようなポイントを常に意識することが重要です。

 まず、組合活動と人事・処遇判断を結びつけないことです。配転、評価、昇降格などの判断に際しては、組合活動の有無を一切考慮していないことを、客観的に説明できる体制を整えておく必要があります。判断理由や経過を記録として残しておくことも有効です。

 次に、団体交渉には誠実に対応する姿勢が不可欠です。結論を事前に決めていても、その理由や背景について丁寧に説明し、組合の意見に耳を傾ける姿勢を示すことが、不当労働行為リスクの低減につながります。形式的な対応は、かえって問題を深刻化させます。

 また、労働組合の自主性・独立性を尊重することも重要です。特定の組合を優遇したり、経費援助を通じて影響力を行使したりする行為は、支配介入と評価されるおそれがあります。

 不当労働行為が認定されると、労働委員会による救済命令が出され、会社名が公表されることもあります。会社経営者としては、短期的な対応ではなく、中長期的な労使関係の安定を見据えた対応を心掛けることが、最大のリスク管理となります。

 

最終更新日2026/2/8


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