懲戴処分としての減給の要件と上限額【会社側弁護士が解説】
問題のある行動を繰り返す従業員に対して懲戒処分を検討する際、口頭での注意指導や書面による厳重注意を経てもなお改善が見られない場合、減給という懲戒処分を選択する場面があります。しかし、減給の懲戒処分には法律上の上限規制があり、かつ手続上の要件も厳格です。
手続や上限額を誤った減給処分は、無効と判断されるリスクがあります。懲戒処分として減給を実施する前に、法的要件と実務上の留意点を正確に理解しておくことが不可欠です。
本記事では、会社側専門弁護士の視点から、懲戒処分としての減給を適法に実施するための要件、法律上の上限額、手続の注意点を解説します。
01懲戒処分としての減給の法的根拠と前提条件
懲戒処分として減給を行うためには、まず就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種類として「減給」が明記されていることが必要です(労働基準法第89条)。就業規則に減給の規定がない場合、懲戒処分として減給を行うことはできません。また、就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成が義務付けられており、作成した場合は労働基準監督署への届出と労働者への周知が必要です。
次に、懲戒処分は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合には懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法第15条)。これは「懲戒権濫用法理」と呼ばれており、懲戒処分を行うにあたっては、非違行為の性質・程度と懲戒処分の重さのバランスを慎重に検討する必要があります。軽微な非違行為に対して即座に減給処分を行うことは、懲戒権濫用と判断されるリスクがあります。
また、同一の非違行為に対して二重に懲戒処分を行うことは許されません(一事不再理の原則)。減給処分を実施した後に、同じ行為を理由として再度の懲戒処分を行うことは無効となる可能性があります。
02労働基準法第91条による減給額の上限規制
懲戒処分としての減給は、労働基準法第91条によって金額に上限が設けられています。具体的には、一回の非違行為に対する減給額は「平均賃金の1日分の半額」を超えてはならず、また一賃金支払期(通常は1か月)における減給の総額は「その期の賃金総額の10分の1」を超えてはなりません。
たとえば、月給30万円(平均賃金1日分が約1万円)の従業員に対して一回の非違行為を理由に減給する場合、その減給額の上限は5,000円(1万円の半額)となります。また、その月における減給の総額は3万円(30万円の10分の1)を超えることができません。
これらの上限を超えた減給処分は、超過部分について違法となり、超過分を支払う義務が生じます。上限額の計算に誤りがあると後日に差額請求を受けるリスクがありますので、減給額の設定にあたっては慎重に計算を行うことが重要です。
03事実調査と懲戒処分の手続
減給の懲戒処分を行う前には、非違行為の事実調査を適切に行うことが不可欠です。事実調査の際は、メール・書面・録音・業務記録など客観的な証拠を収集し、記録として保存することが重要です。また、当該従業員から事情聴取を行い、弁明の機会を与えることが手続的正当性の観点から求められます。
調査の結果、非違行為の事実が認められた場合、就業規則の懲戒事由に照らして減給が適切な処分かどうかを検討します。会社として過去にどのような事案で減給処分を行ったかの先例も参考にしながら、均衡ある判断を行うことが重要です。同種・類似の非違行為に対して処分内容が著しく異なる場合、懲戒権濫用と評価されるリスクがあります。
処分を決定したら、懲戒処分通知書を従業員に交付します。懲戒処分通知書には、懲戒の対象となる具体的な非違行為(いつ・どこで・何をしたか)、該当する就業規則の条項、処分の種類(減給)、減給の具体的な金額と期間を記載します。口頭での通告だけでなく、書面による通知を行うことが後日の紛争防止に重要です。
04軽微な非違行為への対応と処分水準の考え方
懲戒処分として減給を選択する際は、より軽い処分(けん責・戒告)ではなく減給が相当である理由を説明できることが重要です。一般的には、口頭での注意指導や書面による厳重注意を繰り返しても改善がない場合、あるいは非違行為の性質・程度が軽微なけん責・戒告では対応できないほど重大な場合に、減給処分が検討されます。
また、懲戒処分の選択にあたっては、過去に同種事案でどの程度の処分を行ってきたかという社内の先例が重要な判断材料となります。先例がない場合は、同業他社の事例や裁判例を参考にしながら、慎重に判断することが求められます。
懲戒処分の種類・程度の選択は実質的判断を伴うため、初めて懲戒処分を行う場合や処分水準の判断に迷う場合は、問題社員対応を中心業務とする弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。懲戒処分としての減給でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
05よくある質問(FAQ)
Q1. 就業規則に「減給」の規定があれば、どんな非違行為でも減給できますか?
就業規則に減給の規定があることは必要条件ですが、それだけでは十分ではありません。非違行為の性質・程度と処分の重さのバランスが取れていない場合は、懲戒権濫用として処分が無効となります。軽微な非違行為に対していきなり減給処分を行うのではなく、段階的な対応(注意・厳重注意・けん責)を経た上で減給を検討することが重要です。
Q2. 一度の非違行為で複数月にわたって減給することはできますか?
労働基準法第91条は、一賃金支払期における減給総額の上限を賃金総額の10分の1と定めていますが、上限内であれば複数月にわたって分割して減給することは可能です。ただし、同一の非違行為を理由として長期間にわたって減給を続けることは、実質的な二重処分と評価される場合があります。具体的な設計は弁護士にご相談ください。
Q3. 懲戒処分として減給した後、さらに別の懲戒処分を加えることはできますか?
同一の非違行為を理由として二重に懲戒処分を行うことは「一事不再理」の観点から許されません。ただし、同一の非違行為でも新たに別の問題が判明した場合や、その後に新たな非違行為があった場合は、別の懲戒処分を検討することができます。具体的な判断は事案によって異なりますので、弁護士にご相談ください。
Q4. 減給処分を行う前に、従業員に弁明の機会を与える必要がありますか?
法律上は弁明機会の付与を一律に義務付ける規定はありませんが、就業規則に弁明機会の付与を定めている場合はそれに従う必要があります。また、弁明機会を与えずに行った処分は手続上の問題として懲戒権濫用の一事情とされることがあります。手続的正当性を確保するためにも、処分前に従業員から事情を聴取し、弁明の機会を与えることをお勧めします。
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最終更新日:2026年5月10日