この記事の結論
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就業規則の規定と懲戒権濫用法理の充足が前提となる

減給を行うには、就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種類として「減給」が明記されていることが必要です(労基法89条)。客観的合理的理由がなく社会通念上相当と認められない場合には懲戒権の濫用として無効となります(労契法15条)。

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1回の減給は平均賃金半日分、月の総額は賃金総額の1割が上限

労基法91条により、一回の非違行為に対する減給額は平均賃金1日分の半額以内、一賃金支払期における減給の総額はその期の賃金総額の10分の1以内という上限が定められています。

 883の記事で解説した出勤停止による無給(労基法91条の適用外)とは異なり、減給処分そのものには、労基法91条による明確な金額上限があります。この上限を超えた処分は違法となるため、正確な計算方法の理解が不可欠です。

 会社側専門の弁護士の立場から、懲戒処分としての減給の要件と上限額を解説します。

01懲戒処分としての減給の法的根拠と前提条件

 懲戒処分として減給を行うためには、まず就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種類として「減給」が明記されていることが必要です(労働基準法第89条)。就業規則に減給の規定がない場合、懲戒処分として減給を行うことはできません。また、就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成が義務付けられており、作成した場合は労働基準監督署への届出と労働者への周知が必要です。

 次に、懲戒処分は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合には懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法第15条)。これは789・791の記事で解説した「懲戒権濫用法理」と呼ばれており、懲戒処分を行うにあたっては、非違行為の性質・程度と懲戒処分の重さのバランスを慎重に検討する必要があります。軽微な非違行為に対して即座に減給処分を行うことは、懲戒権濫用と判断されるリスクがあります。また、同一の非違行為に対して二重に懲戒処分を行うことは許されません(一事不再理の原則)。減給処分を実施した後に、同じ行為を理由として再度の懲戒処分を行うことは無効となる可能性があります。

02労基法91条による減給額の上限規制

 懲戒処分としての減給は、労働基準法第91条によって金額に上限が設けられています。具体的には、一回の非違行為に対する減給額は「平均賃金の1日分の半額」を超えてはならず、また一賃金支払期(通常は1か月)における減給の総額は「その期の賃金総額の10分の1」を超えてはなりません。

 たとえば、月給30万円(平均賃金1日分が約1万円)の従業員に対して一回の非違行為を理由に減給する場合、その減給額の上限は5,000円(1万円の半額)となります。また、その月における減給の総額は3万円(30万円の10分の1)を超えることができません。これらの上限を超えた減給処分は、超過部分について違法となり、超過分を支払う義務が生じます。上限額の計算に誤りがあると後日に差額請求を受けるリスクがありますので、減給額の設定にあたっては慎重に計算を行うことが重要です。883の記事で解説した出勤停止処分による無給とは、この上限規制の適用有無という点で決定的に異なるため、両者を混同しないよう注意が必要です。

03事実調査と懲戒処分の手続

 減給の懲戒処分を行う前には、非違行為の事実調査を適切に行うことが不可欠です。事実調査の際は、メール・書面・録音・業務記録など客観的な証拠を収集し、記録として保存することが重要です。また、当該従業員から事情聴取を行い、弁明の機会を与えることが手続的正当性の観点から求められます。

 調査の結果、非違行為の事実が認められた場合、就業規則の懲戒事由に照らして減給が適切な処分かどうかを検討します。会社として過去にどのような事案で減給処分を行ったかの先例も参考にしながら、均衡ある判断を行うことが重要です。同種・類似の非違行為に対して処分内容が著しく異なる場合、懲戒権濫用と評価されるリスクがあります。処分を決定したら、懲戒処分通知書を従業員に交付します。懲戒処分通知書には、懲戒の対象となる具体的な非違行為(いつ・どこで・何をしたか)、該当する就業規則の条項、処分の種類(減給)、減給の具体的な金額と期間を記載します。口頭での通告だけでなく、書面による通知を行うことが後日の紛争防止に重要です。

04軽微な非違行為への対応と処分水準の考え方

 懲戒処分として減給を選択する際は、より軽い処分(けん責・戒告)ではなく減給が相当である理由を説明できることが重要です。一般的には、口頭での注意指導や書面による厳重注意を繰り返しても改善がない場合、あるいは非違行為の性質・程度が軽微なけん責・戒告では対応できないほど重大な場合に、減給処分が検討されます。

 また、懲戒処分の選択にあたっては、過去に同種事案でどの程度の処分を行ってきたかという社内の先例が重要な判断材料となります。先例がない場合は、同業他社の事例や裁判例を参考にしながら、慎重に判断することが求められます。懲戒処分の種類・程度の選択は実質的判断を伴うため、初めて懲戒処分を行う場合や処分水準の判断に迷う場合は、専門家にご相談ください。

05よくある質問(FAQ)

Q. 就業規則に減給の規定がなくても、懲戒処分として減給できますか。

できません。就業規則に懲戒事由と懲戒処分の種類として「減給」が明記されている必要があります(労基法89条)。

Q. 月給30万円の従業員に、一度の非違行為で1万円の減給をすることはできますか。

できません。一回の減給額は平均賃金1日分の半額以内という上限があり、月給30万円であれば上限は約5,000円になります。超過部分は違法となります。

Q. 同じ非違行為に対して、減給処分の後に別の懲戒処分を追加できますか。

できません。同一の非違行為に対して二重に懲戒処分を行うことは、一事不再理の原則により許されません。

経営上のポイント 懲戒処分として減給を行うには、就業規則に懲戒事由と減給の規定が明記されている必要があります(労基法89条)。懲戒権濫用法理(労契法15条)と一事不再理の原則も適用されます。減給額には、一回の非違行為につき平均賃金1日分の半額以内、一賃金支払期の総額は賃金総額の10分の1以内という上限があります(労基法91条)。上限を超えた部分は違法であり、追加の支払義務が生じます。会社側としては、事実調査・弁明機会の付与を経て、書面による懲戒処分通知書を交付する手続を徹底し、社内の先例との均衡を確認することが重要です。減給処分の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。懲戒処分(減給)の実施でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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