残業代の消滅時効が中断されるのはどのような場合ですか?
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現行民法は「中断」ではなく「完成猶予」「更新」という制度 2020年4月施行の改正民法により、消滅時効の進行を止める仕組みは、「中断」という単一の概念から、「完成猶予」(時効の完成を一時的に猶予する)と「更新」(時効期間をゼロから再スタートさせる)という2つの概念に再編されています。 |
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催告(内容証明郵便)は完成猶予のみ。更新には別の手続が必要 内容証明郵便による残業代の請求(催告)は、時効の完成を6か月間猶予する効果しかなく、更新事由ではありません。時効を確定的に止めるには、その猶予期間内に、裁判上の請求などの更新事由が必要です。 |
目次
残業代の消滅時効期間は、現在3年です。もっとも、この期間は、一定の事由があれば、進行が止まったり、リセットされたりすることがあります。かつては「時効の中断」という言葉で説明されていましたが、2020年4月施行の改正民法により、制度の枠組みが大きく変わっています。
会社側専門の弁護士の立場から、残業代の消滅時効に関する現行制度の仕組みと、実務上よく問題となる「催告」の扱いを解説します。
01現行制度の枠組み(完成猶予と更新)
改正前の民法では、「時効の中断」という制度により、一定の事由が生じると、それまで進行していた時効期間がリセットされ、新たにゼロから進行を始めるとされていました。しかし、改正民法では、この「中断」に代えて、「完成猶予」と「更新」という2つの制度に整理されています。
更新事由に該当すれば時効期間は完全にリセットされますが、完成猶予事由にとどまる場合は、あくまで時効の完成が一時的に先延ばしされるだけであり、猶予期間中に更新事由が生じなければ、猶予期間の経過とともに時効が完成してしまいます。
02裁判上の請求・強制執行等(更新事由)
裁判上の請求(訴訟の提起)、支払督促、労働審判、調停の申立てなどがあると、その事由が終了するまでの間、時効の完成が猶予されます。そして、確定判決などによって権利が確定した場合には、その終了の時から新たに時効が進行を始めます(更新)。逆に、訴えの取下げなど、権利が確定しないまま終了した場合には、更新の効果は生じず、その終了の時から6か月間、完成が猶予されるにとどまります(民法147条)。
強制執行や担保権の実行についても、同様の考え方がとられています(民法148条)。手続が終了するまでは完成が猶予され、手続が権利の満足を得て終了した場合には更新されます。
03仮差押え・仮処分(完成猶予のみ)
仮差押えや仮処分がなされた場合には、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間、時効の完成が猶予されます(民法149条)。もっとも、仮差押え・仮処分は、更新事由には当たりません。したがって、仮差押え等をしただけでは時効期間はリセットされず、その猶予期間内に、裁判上の請求など別途の更新事由を得る必要があります。
04催告(内容証明郵便による請求)
残業代トラブルの実務で最も多く登場するのが、この「催告」です。内容証明郵便などで「未払残業代を支払え」と請求する行為は、この催告に当たります。催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法150条1項)。
もっとも、催告は完成猶予事由にすぎず、更新事由ではありません。したがって、催告をしただけで安心してはならず、催告から6か月以内に、労働審判の申立てや訴訟の提起といった更新事由(裁判上の請求等)を行わなければ、6か月の猶予期間の経過とともに時効が完成してしまいます。また、催告によって完成が猶予されている期間中に、再度催告を行っても、その再度の催告には完成猶予の効力は認められません(同条2項)。「催告を繰り返せば時効を止め続けられる」という理解は誤りです。
経営者が見落としやすいポイント
従業員側から内容証明郵便が届いても、それだけでは「時効が確定的に止まった」わけではありません。催告から6か月間、労働審判や訴訟の提起がなければ、猶予期間の経過とともに、その部分の残業代の時効は完成し得ます。会社側としては、催告を受けたことだけをもって支払義務が当然に確定するわけではないという点も、正確に理解しておく必要があります。
05承認(更新事由)
権利の承認があったときは、その時から新たに時効の進行が始まります(民法152条1項)。会社側が「未払残業代があることは認める」といった発言をしたり、未払残業代の一部を支払ったりする行為は、承認に当たり得ます。承認は完成猶予ではなく更新事由であるため、それまでの時効期間は完全にリセットされます。
実務上、交渉の過程で、会社側が事実関係を認める発言をしたり、一部支払いに応じたりすることが、意図せず承認と評価され、消滅時効の主張ができなくなるという事態も起こり得ます。未払残業代を巡る交渉においては、承認と評価され得る対応を安易に行わないよう注意が必要です。
06会社側が押さえておくべき視点
未払残業代の請求を受けた会社側としては、まず、消滅時効の主張ができる部分がどこまであるかを、現在の消滅時効期間(3年)と起算点(各賃金支払日の翌日)に基づいて確認することが出発点です。そのうえで、相手方から催告(内容証明郵便)が届いている場合には、その催告から6か月以内に労働審判や訴訟が提起されているかどうかを確認し、完成猶予・更新の状況を正確に把握する必要があります。
また、交渉の過程での発言や対応が、意図せず「承認」と評価されないよう、慎重な対応を心がけることも重要です。消滅時効の主張は、未払残業代トラブルにおける会社側の重要な防御手段の一つであり、その成否は、完成猶予・更新に関する事実関係の正確な整理にかかっています。
07よくある質問(FAQ)
Q. 内容証明郵便で残業代を請求されたら、時効は止まりますか。
6か月間、時効の完成が猶予されます(民法150条1項、催告)。ただし、これは完成猶予にとどまり、更新事由ではありません。その6か月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起がなければ、猶予期間の経過とともに時効が完成し得ます。
Q. 催告を何度も繰り返せば、時効を止め続けられますか。
できません。完成猶予期間中に再度の催告を行っても、その再度の催告には完成猶予の効力は認められません(民法150条2項)。時効を確定的に止めるには、猶予期間内に裁判上の請求などの更新事由が必要です。
Q. 会社が未払いを認める発言をすると、どうなりますか。
「承認」(民法152条1項)に当たり得ます。承認は更新事由であり、それまでの時効期間が完全にリセットされます。交渉時の発言や一部支払いが意図せず承認と評価されないよう、注意が必要です。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。未払賃金・残業代トラブルでお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日