この記事の結論
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復帰命令は、特段の事由がない限り、労働者の同意なく発令できる

出向元が出向先の同意を得たうえで出向関係を解消し、労働者に復帰を命ずることについて、特段の事由のない限り、労働者の同意を得る必要はないとされています(古河電気工業・原子燃料工業事件、最判昭和60年4月5日)。

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出向時に「復帰させない」旨の合意があれば、例外となる

出向時に、将来的に出向元へ戻らないことを明示し、労働者がこれに同意していたようなケースでは、復帰させないことが労働契約の内容となっている可能性があり、この場合は復帰命令の前提が崩れます。

 出向中の労働者を出向元に呼び戻す場面で、「出向先の方が条件がよいので戻りたくない」と、労働者が復帰を拒否することがあります。このような場合、会社は労働者の同意なく復帰を命じることができるのでしょうか。

 会社側専門の弁護士の立場から、出向者の復帰命令に関する法的な判断基準を解説します。

01出向者の法的地位と復帰命令の基本構造

 在籍出向は、あくまで一時的な措置です。出向者は、出向元との労働契約を維持したまま、一時的に出向先の指揮監督下で労務を提供しているにすぎません。したがって、出向を解消して労働者を出向元に戻すことは、当初の雇用契約の内容を実現する、人事権の正当な行使と位置づけられます。

02復帰命令に労働者の同意は必要か

 出向を命じる場合には、就業規則等に出向労働者の利益に配慮した具体的な規定があれば、労働者の個別同意は不要とされています(764の記事参照)。この考え方の裏返しとして、出向を解消して復帰を命じる場合にも、原則として労働者の同意は不要と考えられています。出向を命じるのに同意が不要であるのに、その解消(復帰)に同意が必要になるというのは、整合的ではないためです。

03裁判例の立場(古河電気工業・原子燃料工業事件)

 この点について重要な判断を示したのが、古河電気工業・原子燃料工業事件(最判昭和60年4月5日)です。この事件では、出向元が、出向先での欠勤等を理由に出向者に復帰を命じたところ、労働者が復帰を拒否したため懲戒解雇となり、労働者が「復帰には同意が必要である」と主張して争いました。

 最高裁は、出向元企業が出向先企業の同意を得たうえで出向を解消し、労働者に復帰を命ずる場合には、特段の事由のない限り、労働者から同意を得る必要はないと判断しました。出向元との雇用契約は、出向によって変更されたわけではなく、一時的に出向先の指揮監督下で労務を提供していたにすぎないという理解が、この判断の基礎にあります。

04「特段の事由」がある場合とは

 もっとも、ここでいう「特段の事由」が存在する場合には、例外となります。たとえば、出向時に、将来的に出向元へ戻らないことを明示し、労働者がこれに同意していたようなケースでは、復帰させないことが労働契約の内容となっている可能性があります。この場合、出向元の指揮監督下で労務を提供するという当初の雇用契約自体が変更されたと評価されるため、一方的な復帰命令はできないことになります。

 会社経営者としては、「復帰命令には原則として同意不要」という理解にとどまらず、出向を命じた際の契約内容に、このような例外的事情(復帰を予定しない旨の合意など)が存在しないかを、事前に精査することが重要です。安易な復帰命令は、こうした事情の見落としにより、後に紛争化するリスクを伴います。

05出向先の方が好条件の場合の扱い

 労働者が復帰を拒否する理由として多いのが、「出向先の方が給与水準が高い」「出向先の方が仕事にやりがいがある」といった、待遇面の事情です。しかし、こうした事情は、それ自体では「特段の事由」には当たらないと考えられています。出向元が復帰を予定して出向を命じている限り、出向先での待遇が相対的に良かったとしても、それは復帰を拒否する法的な根拠にはなりません。

06権利濫用と評価されるリスク

 復帰命令に労働者の同意が原則不要であるとしても、その行使が無制約に許されるわけではありません。復帰を機に、業務上の必要性なく不当に賃金を引き下げたり、労働者を排除する目的(嫌がらせ)で呼び戻したりするような場合には、権利濫用として無効になり得ます。これは、755・762で解説した転勤命令・出向命令の権利濫用法理と共通する考え方です。

07よくある質問(FAQ)

Q. 出向者が復帰を拒否した場合、会社は強制的に復帰させられますか。

特段の事由がない限り、労働者の同意なく復帰を命じることができます(古河電気工業・原子燃料工業事件、最判昭和60年4月5日)。出向はあくまで一時的な措置であり、復帰命令は人事権の正当な行使と位置づけられます。

Q. 「出向先の方が給料が高いから戻りたくない」という理由は認められますか。

認められないと考えられます。待遇面の事情だけでは、復帰命令を拒否できる「特段の事由」には当たりません。復帰を予定して出向が命じられている限り、待遇差は復帰拒否の法的根拠にはなりません。

Q. 復帰命令が無効と判断されることはありますか。

あります。出向時に「復帰させない」旨の合意があった場合や、復帰を機に不当な賃金引き下げを行ったり、嫌がらせ目的で呼び戻したりする場合には、権利濫用として無効になり得ます。

経営上のポイント 出向元が出向先の同意を得たうえで出向関係を解消し、労働者に復帰を命じる場合、特段の事由がない限り、労働者の同意を得る必要はありません(古河電気工業・原子燃料工業事件、最判昭和60年4月5日)。出向はあくまで一時的な措置であり、復帰命令は当初の雇用契約を実現する人事権の正当な行使と位置づけられます。もっとも、出向時に将来的に出向元へ戻らないことを明示し労働者が同意していたような「特段の事由」がある場合には、この原則は当てはまりません。出向先の待遇が良いといった事情だけでは、復帰拒否の根拠にはなりません。また、復帰命令であっても、不当な動機や著しい不利益を伴う場合には権利濫用として無効になり得ます。出向を命じた際の契約内容を確認したうえで復帰命令を発令することが重要です。復帰命令の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。出向者の復帰命令でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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