労働問題523 欠勤後に「年次有給休暇扱い」を求められたら応じる義務はあるのか|事後申請への実務的な対応ポイント

1. 欠勤後に年次有給休暇扱いを求められる場面

 社員が欠勤した後になってから、「あの日の欠勤を年次有給休暇として処理してほしい」と申し出てくるケースは、実務上それほど珍しいものではありません。特に、無断欠勤や当日朝の急な欠勤があった後に、このような相談を受けることがあります。

 会社経営者としては、「欠勤扱いにするのは厳しすぎるのではないか」「後からでも有給にしてあげるべきなのか」と判断に迷うこともあるでしょう。一方で、安易に認めてしまってよいのかという不安を感じるのも自然です。

 この問題が厄介なのは、社員側が「年次有給休暇は労働者の権利だから、後からでも使えるはずだ」と誤解している場合が少なくない点です。その結果、「なぜ認めてもらえないのか」「違法ではないのか」といった形で、不満やトラブルに発展することもあります。

 また、一度事後の有給扱いを認めてしまうと、他の社員からも同様の要望が出てきやすくなります。「あの人は認められたのに、自分は認められないのか」といった不公平感が生じれば、職場全体の秩序にも影響しかねません。

 欠勤後の年次有給休暇扱いは、単なる事務処理の問題ではなく、勤怠管理や職場ルールの在り方に直結するテーマです。まずは、この問題が会社経営者にとって判断を要する重要な場面であることを正しく認識することが出発点になります。

2. 年次有給休暇は本来「事前申請」が原則である

 欠勤後の年次有給休暇扱いを考えるうえで、まず押さえておくべき前提は、年次有給休暇は本来、事前に申請して取得するものだという点です。年次有給休暇は、労働者が自由に使える権利ではありますが、「いつでも、どのような形でも使える」という制度ではありません。

 法律上、年次有給休暇は、労働者が取得時季を指定して請求し、会社がそれを前提に業務調整を行うことが想定されています。つまり、会社は、事前に申請があることを前提として、人員配置や業務の段取りを考える仕組みになっています。

 そのため、欠勤した後になってから「実は有給休暇にしてほしい」と申し出ることは、年次有給休暇制度の本来の運用とは異なります。事後的な申請を当然に認める前提にはなっていません。

 会社経営者の中には、「年次有給休暇は労働者の権利だから、後からでも使わせなければならないのではないか」と感じる方もいます。しかし、権利であることと、取得方法に一定のルールがあることは別問題です。事前申請が原則である以上、そのルールを無視した請求まで認める義務があるわけではありません。

 欠勤後の年次有給休暇扱いをどうするかを判断する際には、まずこの「事前申請が原則」という考え方を、会社経営者自身が明確に理解しておくことが重要です。この前提を押さえずに対応してしまうと、不要な誤解やトラブルを招く原因になりかねません。

3. 欠勤後の有給扱いに応じる法的義務はあるのか

 欠勤後に年次有給休暇扱いを求められた場合、会社経営者が最も気になるのは、「法律上、応じる義務があるのか」という点でしょう。この点についての結論は、会社には応じる法的義務はありません。

 年次有給休暇は、労働者が事前に取得時季を指定して請求することを前提とした制度です。欠勤という形で労務提供が行われなかった後に、その日を遡って年次有給休暇として扱うことは、法律上当然に認められているものではありません。

 そのため、労働者から「後から有給休暇にしてほしい」と請求されたとしても、会社はそれに応じなければならない立場にはありません。欠勤後の年次有給休暇扱いは、あくまで使用者の判断に委ねられている事項であり、義務ではないという点を押さえておく必要があります。

 実務上、「年次有給休暇は労働者の権利なのだから、請求があれば必ず認めなければならない」と誤解されがちですが、それは正確ではありません。権利であるからこそ、取得方法やルールが定められており、そのルールを外れた請求まで無条件に認める必要はないのです。

 会社経営者としては、「認めないと違法になるのではないか」「トラブルになるのではないか」と過度に不安を感じる必要はありません。欠勤後の有給扱いに応じない判断自体が、直ちに違法となることはありません。

 重要なのは、「応じる義務がない」という前提を理解したうえで、会社としてどのような運用をするのかを決めることです。義務と裁量を混同したまま対応してしまうと、不要な譲歩を重ねることになり、後の運用が難しくなります。

4. 事後申請を認めるかどうかは使用者の裁量

 欠勤後の年次有給休暇扱いについて、会社に法的義務がない以上、その取扱いは使用者の裁量に委ねられています。つまり、「必ず認めなければならない」わけでも、「絶対に認めてはいけない」わけでもなく、会社としての判断で対応を決めることができます。

 実務上は、急な体調不良や、やむを得ない家庭の事情など、事前申請が現実的でなかった事情がある場合に限り、例外的に年次有給休暇として扱うケースもあります。このような対応は、社員への配慮として行われるものであり、会社の判断として許されるものです。

 ただし、重要なのは、「裁量がある」ということは、「場当たり的に対応してよい」という意味ではないという点です。ある社員については事後申請を認め、別の社員については認めないという対応を繰り返していると、不公平感や不満を生み、別のトラブルにつながるおそれがあります。

 また、一度事後申請を安易に認めてしまうと、「欠勤しても後から有給にすればよい」という誤った認識が社内に広がる可能性もあります。その結果、無断欠勤や当日欠勤が増え、勤怠管理や業務運営に支障が出ることも考えられます。

 会社経営者としては、「事後申請を認める場合があるとしても、それは例外である」という位置付けを明確にしておくことが重要です。使用者の裁量で対応できる事項だからこそ、一定の考え方や基準を持ったうえで運用することが、安定した職場運営につながります。

5. 事後の有給扱いを常態化させるリスク

 欠勤後の年次有給休暇扱いを安易に認め続けていると、実務上さまざまなリスクが生じます。特に注意すべきなのは、「とりあえず欠勤して、後から有給にすればよい」という意識が社内に広がってしまう点です。

 本来、年次有給休暇は事前申請が原則であり、その前提で業務の段取りや人員配置が行われています。しかし、事後申請が常態化すると、この前提が崩れ、突発的な欠勤が増えやすくなります。その結果、現場の負担が増え、業務に支障が出るおそれがあります。

 また、欠勤後の有給扱いを一部の社員についてだけ認めていると、「あの人は認められたのに、自分はなぜダメなのか」といった不公平感が生じやすくなります。こうした不満は、勤怠管理だけでなく、職場全体の規律や信頼関係にも悪影響を及ぼします。

 さらに、勤怠管理が曖昧になることで、労働時間や出勤状況の把握が難しくなり、後々トラブルに発展する可能性もあります。「欠勤なのか有給なのか」がケースごとに揺らいでいる状態は、会社にとって望ましいものではありません。

 会社経営者としては、「後日の有給扱いは例外的な対応である」という位置付けを明確にし、原則を崩さない運用を行うことが重要です。事後の有給扱いを常態化させないことは、単なるルールの問題ではなく、安定した職場運営を維持するための重要なポイントだといえます。

6. 例外的に認める場合の考え方

 欠勤後の年次有給休暇扱いについて、会社には応じる義務はありませんが、実務上、例外的に認めた方がよい場面が存在するのも事実です。重要なのは、「例外」をどのような位置付けで扱うかを、会社経営者が明確に理解しておくことです。

 例えば、急な体調不良で事前申請が物理的に不可能だった場合や、突発的な事故・家庭の緊急事態など、やむを得ない事情があるケースでは、会社の判断として年次有給休暇扱いとすることも十分に考えられます。このような対応は、社員への配慮として合理性があります。

 ただし、ここで注意すべきなのは、「かわいそうだから」「揉めたくないから」といった感情的な理由だけで認めてしまわないことです。理由や事情を確認せずに事後の有給扱いを認めてしまうと、例外が例外でなくなり、ルールそのものが形骸化してしまいます。

 会社経営者としては、「事前申請が不可能だった合理的理由があるか」「今後も同様の運用をして問題がないか」という視点で判断することが重要です。また、例外的に認める場合であっても、「今回に限った対応である」ことを本人に明確に伝えておくことが望ましいでしょう。

 欠勤後の年次有給休暇扱いを認めるかどうかは、義務ではなく裁量の問題です。だからこそ、例外対応をする場合には、一定の考え方や基準を持ったうえで行うことが、将来的なトラブル防止につながります。

7. 就業規則・運用ルールを明確にしておく重要性

 欠勤後の年次有給休暇扱いを巡るトラブルを防ぐために、会社経営者として特に重要なのが、就業規則や社内ルールを明確にしておくことです。事後の有給扱いについて何も定めがなく、対応が担当者や場面ごとに異なっていると、不満や誤解が生じやすくなります。

 就業規則や勤怠に関するルールの中で、「年次有給休暇は原則として事前申請とすること」「欠勤後の年次有給休暇扱いは、会社の判断による例外対応であること」を明示しておくだけでも、社員の受け止め方は大きく変わります。事前にルールが示されていれば、「後から有給にできないのはおかしい」という主張をされにくくなります。

 また、ルールを明確にしておくことは、会社側を守る意味もあります。欠勤後の有給扱いを認めなかった場合でも、「就業規則に基づいた対応である」と説明できれば、不当な扱いだと争われるリスクを下げることができます。

 実務上は、就業規則だけでなく、社内の運用ルールや周知の仕方も重要です。ルールがあっても、社員に十分に伝わっていなければ、トラブルの防止にはつながりません。日頃から、「年次有給休暇は事前申請が原則である」という点を、繰り返し共有しておくことが望ましいでしょう。

 欠勤後の年次有給休暇扱いは、会社の裁量が認められている分、対応の仕方次第で問題が大きくなりやすいテーマです。だからこそ、就業規則や運用ルールを事前に整備し、一貫した対応ができる体制を作っておくことが、会社経営者にとって重要な備えになります。

8. 会社経営者として押さえておく判断ポイント(まとめ)

 欠勤後に「年次有給休暇扱いにしてほしい」と求められた場合、会社経営者としてまず押さえておくべきなのは、会社にはそれに応じる法的義務はないという点です。年次有給休暇は事前申請が原則であり、事後的な有給扱いは、あくまで使用者の裁量に委ねられています。

 一方で、実務上は、やむを得ない事情がある場合に限り、例外的に認めるという判断が合理的な場面もあります。ただし、それは「義務だから」ではなく、「会社の判断として認める」という位置付けであることを明確にしておく必要があります。

 最も避けるべきなのは、場当たり的な対応です。事後の有給扱いを安易に認め続けると、欠勤が常態化したり、不公平感が生じたりと、職場の秩序や勤怠管理に悪影響を及ぼします。結果として、会社経営者自身の判断の自由度が狭まってしまうことにもなりかねません。

 だからこそ、年次有給休暇は事前申請が原則であること、欠勤後の有給扱いは例外的な対応であることを、就業規則や運用ルールとして明確にし、社員に周知しておくことが重要です。ルールが明確であれば、認めない判断をした場合でも、不必要なトラブルを避けやすくなります。

 欠勤後の年次有給休暇扱いは、社員の要望にどう応えるかという問題であると同時に、会社のルールをどう守るかという問題でもあります。会社経営者としては、「義務ではない」「裁量がある」という前提を正しく理解したうえで、自社の方針に沿った一貫した判断を行うことが、安定した経営につながるといえるでしょう。

 

最終更新日2026/2/1

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