労働問題146 精神疾患の発症が強く疑われる社員が指定医への受診を拒絶した場合は,どのように対応すればいいでしょうか?
精神疾患の発症が疑われる社員が会社の指定医への受診を拒絶した場合は、就業規則の規定に基づいて就労を拒絶し、欠勤扱いとすることが原則です。精神疾患を原因とした欠勤等を理由とする懲戒処分には慎重な対応が必要です。
1. 就業規則に指定医受診命令の規定がある場合
就業規則に「会社が必要と認める場合は、会社の指定する医師の受診を命じることができる。受診命令に正当な理由なく従わない場合は、業務命令違反として取り扱うことがある」旨の規定がある場合、会社は指定医への受診を業務命令として命じることができます。
受診拒絶は業務命令違反となりますが、これに対して直ちに重い懲戒処分(解雇等)を行うことは得策ではありません。書面による受診命令の発令→受診拒絶の事実の記録→就労拒絶・欠勤扱いという段階的な対応が基本です。
2. 受診拒絶があった場合の就労拒絶と欠勤扱い
精神疾患の発症が疑われるため会社が指定医への受診を命じたところ、本人が指定医への受診を拒絶した場合は、債務の本旨に従った労務提供をしないものとして就労を拒絶し、欠勤扱い(無給)とすることが基本的な対応です。
「受診を拒絶したから就労させない」というのは、安全配慮義務(労契法5条)の観点から、就業能力が確認できない状態での就労を会社が認めないという正当な措置です。欠勤が続けば、就業規則の休職事由(一定日数の欠勤)に該当するとして休職命令を発令する根拠にもなります。
3. 懲戒処分は慎重に
精神疾患を発症している可能性が高い社員に対する懲戒処分(特に重い処分)は、後に「精神疾患に起因する行動を懲戒処分にしたものであり相当性を欠く」として処分の有効性を争われるリスクがあります(日本ヒューレット・パッカード事件等参照)。
基本的には懲戒処分以外の対応(就労拒絶・欠勤扱い・休職命令)を中心に検討し、懲戒処分を行う際は弁護士との十分な協議を経ることが不可欠です。
⚠ 就業規則の規定がない場合は指定医受診命令を強制できない
就業規則に指定医受診命令の根拠規定がない場合、受診を法的に強制することはできません。問題が生じる前に就業規則を整備しておくことが、精神疾患社員対応における最大のリスク管理策です。
指定医受診命令・受診拒絶への対応・就業規則の整備について、弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら
さらに詳しく知りたい方はこちら
- 精神疾患の発症が強く疑われるにもかかわらず精神疾患の発症を否定する社員に対しても、何らかの配慮が必要ですか。
- 債務の本旨に従った労務提供があるかどうかを判断するにあたっての注意点を教えて下さい。
- 精神疾患の発症が疑われる社員が精神疾患の発症を否定して、休職命令に応じない場合はどうすればいいですか。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/10