労働問題786 降格が人事権濫用と判断されるのはどのような場合ですか。

この記事の結論
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職位・役職の降格は、就業規則の根拠規定なく人事権として行える

一定の役職を解く降格は、差別や不利益取扱い禁止の規制に該当する場合を除き、労働契約を根拠とする人事権の行使として行うことができ、就業規則等の根拠規定は必要ありません。

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社会通念上著しく妥当性を欠けば、権利濫用として無効になる

人事権は経営上の裁量判断に属しますが無制限ではなく、業務上・組織上の必要性、労働者側の帰責性、労働者の受ける不利益の程度等を総合考慮し、裁量の逸脱があれば無効と判断されます。

 785の記事で解説した降格の種類のうち、職位・役職の引下げとしての降格は、会社の人事権の行使として行うことができますが、無制限に行えるわけではありません。どのような場合に人事権濫用と判断されるのかを理解しておく必要があります。

 会社側専門の弁護士の立場から、降格が人事権濫用と判断される場合を解説します。

01職位・役職の降格に根拠規定は不要

 降格は、差別や不利益取扱い禁止の規制に該当する場合を除き、労働者との労働契約を根拠とする人事権の行使として行うことができます。そのため、一定の役職を解く降格は、労働契約を根拠として行うことができ、就業規則等の根拠規定は必要ありません。人事権は、会社の組織運営に関する広範な裁量に基づくものと位置づけられているためです。

02職位・役職を限定する合意がある場合の例外

 もっとも、労働契約上、労働者の役職や職位を限定する合意がある場合は、その役職や職位を引き下げることについて、労働契約で予定されていないことになるため、一方的にはなし得ず、別途、労働者の個別合意を取る必要があります。この点は、750の記事で解説した勤務場所限定合意と同様の考え方です。

 なお、監査法人が就業規則に新たに降格規定を設け、在職する公認会計士の職位をマネージャー・ミドルからシニアアソシエイト・ヘビー級に降格し、給与を減額したという事案について、裁判所は、就業規則の改正は不利益変更に当たるが合理性があり、また降格処分も適正な手続に基づく評価であるとして、降格を有効と判断した例があります(東京地裁平成27年3月25日判決)。

03人事権の裁量にも限界がある

 一定の役職を解く降格は、人事権という経営上の裁量判断に属しますが、それは無制限なものではなく、社会通念上著しく妥当性を欠き、権利の濫用と認められる場合には、無効と判断されるのが通常です。

04総合考慮される3つの要素

 裁判例では、次の諸事情を総合考慮して、使用者が裁量の範囲を逸脱しているかを判断することが多くなっています。

人事権濫用の判断要素
業務上・組織上の必要性 使用者側の必要性の有無・程度
労働者側の帰責性 能力の適性の欠如等、労働者側の事情の有無・程度
労働者の不利益 不利益の性質・程度(階級数、賃金減額の有無・程度)

 業務上・組織上の必要性と労働者側の帰責性については、人事権が使用者の裁量に属するとはいえ、さしたる理由もなく降格したり、些細なミスを挙げて降格したりすることは許されません。業務に支障が生ずる程度の勤務成績不良、勤務態度不良、非違行為、組織編制に伴う人事配置の一環として行われる場合など、降格に値する事情が必要になります。

 労働者の受ける不利益の程度については、何階級の降格であるのか、それに伴う賃金の引下げがあるのか、ある場合はどの程度減額されているのかが、重要な判断事項となります。特に、降格と賃金減額が制度上連動しており、降格の有効性が賃金減額の有効性に直結する場合は、他の場合よりも厳格に判断されます。

05不当な動機による降格

 降格が不当な動機に基づくものである場合は、人事権濫用との評価を受けやすくなります。たとえば、退職勧奨に応じないことに対する制裁や、嫌がらせ目的の降格、会社の意に沿わない言動に対する嫌がらせや見せしめ目的の降格は、いずれも否定されています(日本レストランシステム事件、大阪地裁平成21年10月8日判決)。

 その他、使用者が管理職としての適格性について、どのような指導・教育を行ったのかが問われた事例(スリムビューティーハウス事件、東京地裁平成20年2月29日判決)や、降格の基礎となる評価自体が評価性を欠く場合、それを前提とした降格も人事権濫用として無効となった事例(国際観光振興機構事件、東京地裁平成19年5月17日判決)もあります。

06会社側が押さえておくべき視点

 会社側が降格を検討する際には、業務上の必要性を裏付ける具体的な事情(勤務成績不良の記録、組織再編の経緯等)を整理し、記録に残しておくことが重要です。特に、賃金減額を伴う降格については、より厳格な判断がなされることを念頭に、降格に至った評価プロセスが客観的かつ公正であったことを説明できるようにしておく必要があります。

 また、退職勧奨への報復や見せしめを目的とした降格は、明確に否定されているため、降格の動機が業務上の必要性に基づくものであることを、社内でも明確にしておくべきです。

07よくある質問(FAQ)

Q. 課長職から係長職への降格に、就業規則の根拠規定は必要ですか。

必要ありません。一定の役職を解く降格は、労働契約を根拠とする人事権の行使として行うことができ、就業規則等の根拠規定は不要です。

Q. どのような降格が人事権濫用とされやすいですか。

業務上の必要性が乏しいのに行われる降格、些細なミスのみを理由とする降格、退職勧奨への報復や嫌がらせ目的の降格は、人事権濫用と評価されやすくなります。

Q. 賃金減額を伴う降格は、より厳しく判断されますか。

はい。降格と賃金減額が制度上連動しており、降格の有効性が賃金減額の有効性に直結する場合には、他の場合よりも厳格に判断されます。

経営上のポイント 職位・役職を解く降格は、差別・不利益取扱い禁止に該当する場合を除き、就業規則の根拠規定なく人事権の行使として行えます。もっとも、社会通念上著しく妥当性を欠き権利濫用と認められる場合には無効です。裁判例は、業務上・組織上の必要性、労働者側の帰責性、労働者の受ける不利益の程度(階級数、賃金減額の有無・程度)を総合考慮して判断します。特に賃金減額を伴う降格は厳格に判断される傾向があります。退職勧奨への報復や嫌がらせ目的の降格は、明確に否定されています(日本レストランシステム事件等)。会社側としては、業務上の必要性を裏付ける記録の整備と、公正な評価プロセスの説明可能性が重要です。降格の実施は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。降格の実施でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日

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