この記事の結論
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解雇権濫用法理とは別に、個別法令による解雇制限が7類型ある

解雇には解雇権濫用法理(労契法16条)による一般的な制限のほか、個別の法令によって特定の事由を理由とする解雇が禁止される類型があります。これらに該当する解雇は無効となります。

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業務災害療養中・産前産後休業中の解雇は労基法19条で禁止

業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は、原則として解雇が禁止されています(労基法19条)。

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組合活動・公益通報・育児介護休業・妊娠出産等を理由とする解雇も禁止

組合活動・労基署への申告・公益通報・育児介護休業の取得・婚姻・妊娠出産等を理由とする解雇は、それぞれの法令で禁止されています。理由が法令に抵触すれば、他の要件を満たしても解雇は無効です。

01法令による解雇制限の全体像

 解雇については、解雇権濫用法理(労契法16条)による一般的な制限——客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であること——が問題になります(531番参照)。しかし、これとは別に、個別の法令によって、特定の事由を理由とする解雇が明文で禁止・制限されている類型があります。

 これらの法令上の解雇制限に該当する場合、たとえ他の解雇要件(合理的理由・相当性等)を満たしていたとしても、解雇は無効となります。法令が定める解雇禁止事由に該当する解雇は、許されないのです。会社経営者としては、解雇を検討する際に「その理由が法令で禁止された事由に当たらないか」を確認することが不可欠です。

02法令により解雇が制限される7つの類型

 法令により解雇が制限されているのは、次のとおりです。

法令による解雇制限の7類型

① 業務上災害による療養中・産前産後の休業中の解雇の禁止
業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間およびその後30日間、産前産後の休業期間およびその後30日間の解雇の禁止(労基法19条)。

② 労働組合に関する理由による解雇の禁止
労働組合の組合員であること、労働組合への加入・結成、正当な組合活動を行ったことなどを理由とする解雇の禁止(労働組合法7条。不当労働行為)。

③ 公益通報を理由とする解雇の禁止
公益通報をしたことを理由とする解雇の禁止(公益通報者保護法)。

④ 労基署等への申告を理由とする解雇の禁止
労働基準監督署などに対して、労働基準法違反の事実について申告や通報等を行ったことを理由とする解雇の禁止(労基法104条2項)。

⑤ 育児・介護休業の申出・取得を理由とする解雇の禁止
労働者が育児・介護休業の申出または取得をしたことを理由とする解雇の禁止(育児・介護休業法)。

⑥ 女性労働者の婚姻を理由とする解雇の禁止
女性労働者が婚姻したことを理由とする解雇の禁止(男女雇用機会均等法)。

⑦ 女性労働者の妊娠・出産等を理由とする解雇の禁止
女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠・出産・産前産後休業の請求・取得や育児時間の申出・取得、妊娠・出産に起因する労働能率低下、その他妊娠・出産に関連する理由での解雇の禁止(男女雇用機会均等法)。

 これらの事由を理由とする解雇は、法令によって明文で禁止されています。解雇理由が形式的には別のものであっても、実質的にこれらの事由を理由としていると判断される場合には、解雇が無効となるリスクがあります。

03業務上災害療養中の解雇制限と打切補償

 ①の業務上災害による療養中の解雇制限(労基法19条)については、例外が定められています。

 使用者が、業務上の傷病による療養開始後3年が経過しても治らない労働者に対して、平均賃金の1200日分を支払った場合(打切補償。労基法81条)には、同制限は解除されます。打切補償を行うことで、療養中であっても解雇が可能となります。

 また、業務上の負傷や疾病が症状固定した以降は、他の解雇要件を満たす限り解雇を許すとした裁判例があります(光洋運輸事件・名古屋地裁平成元年7月28日判決)。症状固定とは、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態をいい、この段階に至れば「療養のため休業する期間」とはいえなくなるため、解雇制限が及ばなくなると考えられています。

業務上災害療養中の解雇制限が解除される場合

・療養開始後3年経過しても治らない労働者に平均賃金1200日分を支払った場合(打切補償。労基法81条)
・業務上の負傷・疾病が症状固定した以降(他の解雇要件を満たす限り。光洋運輸事件・名古屋地裁平成元年7月28日判決)

 なお、これらの制限が解除される場合であっても、解雇そのものが有効となるためには、別途、解雇権濫用法理(労契法16条)による要件(合理的理由・相当性)を満たす必要がある点に注意が必要です。解雇制限が解除されることと、解雇が有効であることは別問題です。

04会社経営者が押さえるべき実務上の注意点

 会社経営者として最も注意すべきなのは、解雇を検討する際に「その解雇理由が、法令で禁止された事由に該当しないか」を必ず確認することです。これらの法令上の解雇制限は、解雇権濫用法理とは別の次元で適用される強行的な規制であり、該当すれば解雇は無効となります。

 特に、産前産後休業中・育児介護休業中・妊娠出産に関連する時期の解雇は、たとえ会社として別の理由(能力不足等)があると考えていても、「実質は妊娠・出産・休業を理由とする解雇ではないか」と疑われやすく、慎重な判断が必要です。これらの時期の解雇については、解雇理由が休業等とは無関係であることを客観的に説明できるかが重要になります。

 また、組合活動や公益通報・労基署への申告を行った労働者を、その後に解雇する場合も、「報復的な解雇ではないか」と評価されるリスクがあります。これらの事情がある労働者の解雇を検討する際は、事前に使用者側弁護士に相談することを強くお勧めします。

経営上のポイント 解雇には、解雇権濫用法理とは別に、個別の法令による解雇制限(業務災害療養中・産前産後休業中・組合活動・公益通報・労基署申告・育児介護休業・婚姻・妊娠出産等を理由とする解雇の禁止)があります。これらに該当すると、他の要件を満たしても解雇は無効です。業務上災害療養中の解雇制限は打切補償(平均賃金1200日分)や症状固定により解除されますが、それでも解雇の有効性は別途問われます。これらの時期・事情がある労働者の解雇は、事前に弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 業務災害療養中でも、療養開始から3年経てば打切補償なしで解雇できますか。

A. いいえ。労基法19条の解雇制限が打切補償により解除されるのは、「療養開始後3年を経過しても治らない」場合に「平均賃金1200日分を支払った」ときです。3年が経過しただけで自動的に解雇できるようになるわけではなく、打切補償の支払いが必要です。なお、労災保険から傷病補償年金を受けている場合等には、打切補償を支払ったものとみなされる特例もあります。具体的な適用については労災の状況を踏まえた検討が必要ですので、弁護士に相談することをお勧めします。

Q2. 私傷病(業務外の病気)で休業している社員の解雇も、労基法19条で制限されますか。

A. 労基法19条の解雇制限は「業務上」の負傷・疾病による療養の場合に適用されます。私傷病(業務外の病気・けが)による休業には、この条文の解雇制限は適用されません。私傷病の場合は、就業規則の休職規定に基づく休職期間満了による退職・解雇の問題として扱われ、復職可否の判断が重要になります(514番参照)。ただし、業務上か業務外かの判断が難しいケースもありますので、注意が必要です。

Q3. 妊娠中の社員に能力不足の問題があります。妊娠とは無関係に解雇できますか。

A. 妊娠・出産等を理由とする解雇は禁止されています(男女雇用機会均等法)。さらに、妊娠中・産後1年以内になされた解雇は、事業主が「妊娠等を理由とする解雇でないこと」を証明しない限り無効とされます(同法9条4項)。つまり、妊娠とは無関係であることを会社側が立証する必要があります。能力不足等の別の理由があるとしても、立証のハードルは高く、解雇が無効と判断されるリスクが大きいため、この時期の解雇は特に慎重な判断が必要です。必ず事前に弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年2月25日


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