この記事の結論
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「年度内消滅規定」は労働基準法違反で無効

有給休暇の時効は労基法上2年と定められています。年度末の未消化分を切り捨てる運用は違法であり、就業規則に定めてもその部分は無効です。

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翌年度への「繰り越し」は法的義務であり、最大40日が保持される

未消化分は翌年度へ繰り越されます。「当年度付与分(最大20日)+前年度繰り越し分(最大20日)」の合計で、最大40日が保持される構造を理解する必要があります。

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年5日の確実な消化義務を確実に果たす体制が重要

「繰り越しがあるから」と放置せず、年5日の時季指定義務を確実に果たす体制を構築することが、退職時の大量消化トラブルや是正勧告を避ける鍵となります。

01有給休暇の繰り越しに関する法的構成

 会社経営者の方から「年度内に使い切らなかった有給休暇を消滅させたい」というご相談をいただくことがあります。しかし、結論から申し上げると、就業規則に「年度内に消化しない有給休暇は消滅する」と規定することはできません。

 労働基準法第115条において、年次有給休暇の請求権の消滅時効は「2年」と定められています。これにより、当該年度に付与された有給休暇のうち、未消化のものは翌年度に繰り越されることが法律上保障されています。

 この規定は強行法規であるため、就業規則でこれに反する定めを置いたとしても、その部分は無効となります。無効となった場合、会社は未消化分の権利を認めなければならず、結果として未消化分の賃金請求等のリスクを抱えることになります。年次有給休暇の繰り越し・時効の基本的な考え方については、487番(年休の繰り越しと時効)も参照してください。

02なぜ「年度内消滅」が認められないのか

 労働基準法が有給休暇の時効を2年としている背景には、労働者の心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するという制度趣旨があります。

 もし年度内消滅が認められれば、繁忙期などの理由でたまたま休暇を取得できなかった労働者が、その権利を失うことになってしまいます。年次有給休暇の権利は、一定の要件(継続勤務6か月・全労働日の8割以上の出勤)を満たすことで法律上当然に発生する権利と解されており、会社側の都合や就業規則の規定によって消滅させることは認められません。

 したがって、実務上は、「当年度付与分」に加えて「前年度の残り分」が常に積み上がっているという前提で、有給休暇の管理を行う必要があります。年度内消滅を前提とした管理は、法的に成り立たないということです。

03最大保持日数と時効の関係・退職時の注意

 有給休暇が翌年度に繰り越される結果、労働者が保持できる最大日数は、一般的に40日となります(法定の最大付与日数20日+前年度繰り越し分20日)。

 時効が2年であるため、繰り越された未消化分は、付与から2年が経過した時点で順次消滅していきます。会社としては、どの休暇がいつ消滅するのかを正確に把握しておく必要があります。

退職時の一括消化リスク

在職中に消化しきれなかった場合でも、退職時に「時効にかかっていない未消化分(最大40日)」をまとめて消化請求された場合、会社は原則としてこれを拒むことができません(時季変更権も、退職後の時季には行使できません)。年度内消滅規定が無効である以上、退職時の清算リスクは常に伴います。日頃から計画的に消化させておくことが、退職時のトラブルを防ぐうえで重要です。

04「買い取り」による解決は可能か

 「繰り越しをさせない代わりに、未消化分を買い取る」という運用を検討されるケースもあります。しかし、原則として、法定の有給休暇をあらかじめ買い取ることを前提に休暇を付与しない運用は違法です。有給休暇はあくまで「休ませること」が目的であり、金銭で解決することはその趣旨に反するためです。

 ただし、例外的に買い取り(金銭での清算)が認められる余地があるとされる場合もあります。

例外的に買い取りが認められる余地のある場合

・時効(2年)によって消滅してしまう未消化分を買い取る場合
・退職時に消化しきれない残日数を、合意のうえで清算する場合
・法定(最高20日)を上回って会社が独自に付与している日数を買い取る場合

 もっとも、これらはあくまで例外です。日常的に買い取りを前提として「繰り越しなし」の運用を行うことは、労働基準法違反の指摘を受ける可能性が高いといえます。買い取りの可否や運用については、有給休暇の買上げの可否を扱った521番も参照してください。

05会社経営者が取るべき実務対応

 年度内消滅規定を置けない以上、会社は次のような実務対応を通じてリスクを管理すべきです。

 第一に、就業規則で消化順位を定めることです。「前年度の繰り越し分から先に消化する」旨を明記しておくことで、時効消滅のリスクを適正に管理し、労働者の不満を抑制できます。これを定めていないと、当年度付与分から消化したものとして扱われ、繰り越し分が時効で消滅したと労働者から争われることもあります。

 第二に、年5日の確実な消化義務の徹底です。2019年4月の法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、年5日は会社が時季を指定してでも取得させることが義務化されました。「繰り越されるから」と放置せず、計画的に消化させることで、退職時の大量消化トラブルを未然に防ぐことができます。特に、前年度からの繰り越し分が多い従業員から優先的に時季指定を行うなどの管理が有効です(計画年休制度の活用については557番参照)。

 誤った規定を放置することは、労基署からの是正勧告や、将来の労働紛争における弱点となります。まず「有給休暇は2年間有効である」という事実を正確に認識したうえで、どのように計画的に消化させるかという運用面に注力すべきです。自社の就業規則が現行の労働基準法に準拠しているか不安がある場合は、使用者側弁護士に相談することをお勧めします。

経営上のポイント 有給休暇の時効は労基法115条により2年であり、年度末の未消化分を切り捨てる「年度内消滅規定」は無効です。未消化分は翌年度に繰り越され、最大40日が保持されます。退職時には時効未消化分を一括請求されるリスクがあり、原則として拒めません。就業規則で「繰り越し分から先に消化する」旨を定め、年5日の時季指定義務を確実に果たす体制を整えることをお勧めします。就業規則の点検は弁護士に相談するとよいでしょう。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 就業規則に「有給休暇は当年度内に消化すること。残った分は消滅する」と定めています。問題ありますか。

A. その定めは、労基法115条(時効2年)に反するため、無効です。未消化分は翌年度に繰り越され、付与から2年間有効です。このような規定を放置していると、労基署の是正勧告の対象となるほか、消滅させたとして取得を拒んだ場合に、未消化分の取得や賃金相当額をめぐる紛争に発展するおそれがあります。速やかに就業規則を見直し、繰り越しを前提とした規定に改めることをお勧めします。

Q2. 有給休暇を使うとき、当年度分と繰り越し分のどちらから消化されますか。

A. 法律上、明確な定めはありません。就業規則で消化順位を定めていない場合、どちらから消化したかが争点になることがあります。会社・労働者双方にとって、時効で消滅する繰り越し分から先に消化する方が合理的なことが多いため、就業規則に「前年度の繰り越し分から先に消化する」旨を定めておくことをお勧めします。これにより、繰り越し分が時効消滅したかどうかをめぐる争いを防ぎやすくなります。

Q3. 退職する社員が、残った有給休暇40日をすべて消化してから辞めたいと言っています。拒めますか。

A. 時効にかかっていない未消化分については、原則として取得を拒むことはできません。時季変更権は「他の時季に与える」ための権利ですが、退職日後には他の時季が存在しないため、退職間際の一括取得に対しては行使できないのが原則です。引継ぎなどの必要がある場合は、退職日の調整や、買い取り(退職時清算)について本人と協議することが考えられます。日頃から計画的に消化させ、退職時に大量に残らないようにしておくことが重要です。

最終更新日:2026年3月1日


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