試用期間中であれば自由に本採用拒否できますか。
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試用期間中でも自由に本採用拒否することはできない 試用期間を設けていても、使用者と労働者の間には労働契約が成立しています。本採用拒否はその契約の一方的解消であり解雇の一形態ですから、解雇権濫用法理に基づいて検討され、自由に本採用拒否することはできません。 |
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通常の解雇より広く行使できるが、緩やかに判断されるわけではない 本採用拒否は、通常の解雇よりも広い範囲で行使することが可能とされていますが、必ずしも通常の解雇よりも緩やかに判断されているわけではありません。 |
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試用期間中に判明した、適格性を失わせる事実があることが必要 本採用拒否が認められるのは、試用期間中の勤務状態等によって初めて判明した事実であり、その事実が正社員としての適格性を失わせるといえる場合などです(経歴詐称、勤務成績不良、能力不足、勤務態度不良、非協調性など)。 |
目次
01試用期間中も労働契約は成立している
「試用期間中なのだから、本採用しないと決めれば、自由に辞めてもらえるだろう」と考える会社経営者は少なくありません。しかし、これは大きな誤解です。
試用期間を設けていたとしても、使用者と労働者の間では、労働契約が成立しています。試用期間は「これから契約するかどうかを決める前の段階」ではなく、すでに労働契約が成立したうえで、その適格性を見極める期間なのです。試用期間中の労働契約は、一般に、会社が適格性を欠くと判断した場合に本採用を拒否できる「解約権が留保された労働契約」と理解されています。
そして、すでに成立している労働契約を、会社の側から一方的に解消するのが「本採用拒否」です。この本採用拒否は、その契約の一方的解消であり、解雇の一形態にほかなりません。したがって、本採用拒否の有効性は、解雇権濫用法理に基づいて検討することになりますので、自由に本採用拒否することはできません。
02本採用拒否は解雇権濫用法理で判断される
本採用拒否が解雇の一形態である以上、その有効性は、通常の解雇と同様に、解雇権濫用法理によって判断されます。すなわち、本採用拒否(解雇)が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、解雇権を濫用したものとして無効となります(労契法16条。解雇の有効性の判断要素については531番参照)。
「試用期間中だから」という理由だけで、合理的な理由もなく本採用を拒否することはできません。本採用拒否を行うには、後述するとおり、その労働者が正社員としての適格性を欠くといえる客観的な事実が必要です。
03「広く行使できる」が「緩やかに判断される」わけではない
試用期間中の本採用拒否については、よく「通常の解雇より緩やかに認められる」と説明されることがあります。しかし、この点は正確に理解しておく必要があります。
確かに、本採用拒否は、通常の解雇よりも広い範囲で行使することが可能とされています。これは、試用期間が、本採用後では知ることができなかった適格性を観察・評価するための期間であり、その趣旨に照らして、留保された解約権を行使できる範囲が、通常の解雇より広く認められているためです。
「広く行使できる」と「緩やかに判断される」は違う
本採用拒否は通常の解雇より「広い範囲で」行使できるとされていますが、必ずしも通常の解雇よりも「緩やかに」判断されているわけではありません。つまり、「試用期間中だから本採用拒否は簡単に認められる」と安易に考えるのは危険です。実際の裁判では、本採用拒否についても、適格性を欠くといえる客観的な事実があるかが、厳しく検討されます。
「広い範囲で行使できる」とは、本採用後では問題にしにくいような適格性に関する事情も、本採用拒否の理由にできる余地がある、という意味にとどまります。それと、実際の判断が甘くなる(緩やかに認められる)こととは別なのです。会社としては、「試用期間中だから大丈夫」と油断せず、本採用拒否の理由を客観的に説明できるよう準備しておく必要があります。
04本採用拒否が認められる場合
では、どのような場合に本採用拒否が認められるのでしょうか。
本採用拒否が認められるのは、試用期間中の勤務状態等によって初めて判明した事実であり、当該事実が正社員としての適格性を失わせるといえる場合などです。ポイントは、(1)試用期間中の勤務などを通じて初めて判明した事実であること、(2)その事実が正社員としての適格性を失わせるといえること、の2点です。
本採用拒否の理由となりうる事実の例
・経歴詐称
・勤務成績の不良
・業務遂行能力の不足
・勤務態度の不良
・非協調性
これらは、いずれも正社員としての適格性に関わる事情です。ただし、これらに形式的に当てはまれば直ちに本採用拒否が認められるというわけではありません。例えば「勤務成績の不良」「業務遂行能力の不足」を理由とする場合でも、その程度が正社員としての適格性を失わせるといえるほどのものか、会社が適切な指導を行ったうえでなお改善しなかったのか、といった点が問われます。単に「期待した水準に達していない」という抽象的な評価だけでは、適格性を失わせる事実とは認められにくいことに注意が必要です。
05会社経営者が押さえるべき実務上の注意点
本採用拒否を適切に行うために、会社経営者として押さえておくべきポイントを整理します。
第一に、本採用拒否の理由となる事実(勤務成績不良・能力不足・勤務態度不良・非協調性など)について、客観的な記録を残しておくことです。いつ、どのような問題があったのか、どのような指導を行ったのかを記録しておくことで、本採用拒否の合理性を客観的に説明できるようになります。抽象的な評価だけでは、本採用拒否が無効と判断されるリスクが高くなります。
第二に、試用期間中であっても、必要な指導を行い、改善の機会を与えることが重要です。問題があれば指摘し、改善を求めたうえで、それでも適格性を欠くといえる場合に本採用拒否を検討する、という段階を踏むことが、本採用拒否の合理性・相当性を裏付けます。
第三に、本採用拒否も解雇である以上、解雇予告(または解雇予告手当)が必要になる場合があります。試用期間中でも、雇入れから14日を超えて雇用している場合は、解雇予告等が必要です(529番・528番参照)。本採用拒否を「解雇ではない」と軽く考えず、解雇に準じた手続・配慮をもって慎重に進めることが重要です。本採用拒否を検討する際は、その可否や進め方について、事前に使用者側弁護士に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 採用面接の印象と違って「思っていた人材ではなかった」という理由で本採用拒否できますか。
A. 「思っていた人材ではなかった」という抽象的・主観的な理由だけでは、本採用拒否は認められにくいです。本採用拒否が認められるのは、試用期間中の勤務状態等によって初めて判明した、正社員としての適格性を失わせるといえる客観的な事実がある場合です。具体的にどのような勤務成績の不良・能力不足・勤務態度の問題があったのかを、客観的な事実と記録に基づいて説明できる必要があります。印象論ではなく、具体的な事実の積み重ねが重要です。
Q2. 採用前から分かっていた事情を理由に本採用拒否できますか。
A. 本採用拒否が認められるのは、原則として「試用期間中の勤務状態等によって初めて判明した事実」に基づく場合です。採用時にすでに会社が知っていた(または知ることができた)事情を理由に本採用拒否することは、留保解約権の趣旨に照らして認められにくいといえます。採用の判断は会社がその時点の情報をもとに行ったものであり、既知の事情を後から本採用拒否の理由にするのは合理性を欠くと評価されやすいためです。
Q3. 本採用拒否をするときも、解雇予告は必要ですか。
A. 本採用拒否も解雇の一形態ですので、解雇予告制度の適用があります。試用期間中でも、雇入れから14日を超えて雇用している場合は、30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です(14日以内であれば解雇予告は不要ですが、本採用拒否の有効性は別途問われます。529番・528番参照)。本採用拒否を「解雇ではない」と扱って予告等を怠ると、解雇予告義務違反となるおそれがありますので注意してください。
最終更新日:2026年2月25日