この記事のポイント

✓ 1年単位の変形労働時間制は季節的な繁閑がある業種での残業代コスト合理化に有効な制度です(1日10時間・1週52時間まで所定労働時間を設定可能)。

✓ 導入には労使協定の締結・就業規則への規定・労働基準監督署への届出が必要で、協定には対象者・対象期間・各日の労働時間等を具体的に定める必要があります。

✓ 要件を満たさない制度設計は残業代の遡及請求リスクを生じさせます。導入前に会社側弁護士による就業規則・労使協定の整備をお勧めします。

011年単位の変形労働時間制とは

1年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4)とは、1か月を超え1年以内の一定期間(対象期間)を平均して1週間の労働時間が40時間以内であれば、対象期間の特定の日または週に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える所定労働時間を設定できる制度です。

夏季・冬季など特定の季節だけ忙しく、他の季節は比較的閑散とする業種では、1か月という短い単位では繁閑の波をうまく吸収しきれません。1年単位の変形労働時間制は、こうした季節的・年間的な業務の繁閑に対応して残業代コストを合理化するための制度です。

活用が期待される業種の例

業種 繁忙時期の例
衣料品製造・販売 夏物・冬物の販売期(夏・年末年始)
スキー場・リゾート施設 冬季(12月〜3月)
農業・食品製造 収穫・加工期(秋)
建設・土木 工期繁忙期(春・秋)
会計事務所・税理士事務所 決算・申告期(3月・12月)

021か月単位・1週間単位との比較

比較項目 1か月単位 1年単位 1週間単位
対象期間 1か月以内 1か月超〜1年以内 1週間
1日の上限 上限なし 10時間 10時間
1週の上限 上限なし 52時間 40時間
導入手続き 就業規則または労使協定 労使協定(必須)+就業規則 労使協定+就業規則
連続勤務の上限 規定なし 原則6日 規定なし
向いている繁閑パターン 月内の繁閑 季節・年間の繁閑 週内の繁閑

03労使協定で定める事項

1年単位の変形労働時間制を導入するためには、労使協定の締結が必須です(就業規則のみでの導入は認められません)。労使協定には以下の事項を定める必要があります。

(1)対象者の範囲

変形労働時間制を適用する従業員の範囲を特定します。年少者(18歳未満)・妊産婦の申出者・育児介護中の従業員で申出をした者などは適用除外の対象となる場合があります。

(2)対象期間と起算日

変形労働時間制の適用される期間(最大1年)と起算日を明記します。対象期間は「毎年4月1日から翌年3月31日まで」のように具体的に定めます。

(3)特定期間(任意)

対象期間のうち特に繁忙となる時期がある場合、「特定期間」として定めることができます。特定期間中は週1休日の確保を条件として連続12日勤務まで認められます。繁忙期のない場合は特定期間を定める必要はありません。

(4)労働日および各日の労働時間

対象期間の全労働日と各日の所定労働時間を具体的に定める必要があります。ただし、対象期間を1か月以上の区分に分けた場合、最初の区分のみ具体的に定め、以降の区分については区分ごとの労働日数と総労働時間を定めることで足ります(この場合、各区分の開始30日前までに、労働者代表の同意を得た上で具体的な労働日・労働時間を書面で定める必要があります)。

(5)有効期間

労使協定には有効期間を定める必要があります。通常は対象期間と同じ期間(例:1年間)に設定します。

実務上のポイント:労使協定で定めた各日・各週の労働時間は、変形期間開始後に使用者が任意に変更することはできません。また、協定の有効期間が切れた後も適用が続いていたとみなされないよう、更新手続きを計画的に行うことが重要です。

04労働時間の上限と特定期間

法定労働時間の総枠

対象期間全体の所定労働時間の合計は、次の式で算出した法定労働時間の総枠を超えることができません。

【計算式】 40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7日
対象期間 法定労働時間の総枠
1年(365日) 2,085.7時間
1年(366日・うるう年) 2,091.4時間
6か月(183日) 1,045.7時間
4か月(122日) 697.1時間
3か月(92日) 525.7時間

各日・各週の上限

対象期間 1日の上限 1週の上限 連続勤務の上限
3か月以内 10時間 52時間 6日
3か月超〜1年以内 10時間 52時間※ 6日(特定期間は12日)

※3か月超の場合、週48時間超となる週が連続する場合はその連続は3週間以内、かつ対象期間を3か月ごとに区分した各期間において週48時間超となる週の初日の数が3以下であることが必要です(労働基準法施行規則第12条の4第4項)。

05導入に向いている業種・向かない業種

導入の効果が期待できる業種

厚生労働省の通達(平成6年1月4日基発1号)では、「1日8時間・1週40時間を超えて労働させる日や週の労働時間を予め定めておくことが可能な業務」に本制度が向いているとされています。具体的には、繁閑のサイクルが年間を通じて予測可能な業種です。

制度の適用余地がないとされる場合

注意:以下のような場合には、1年単位の変形労働時間制の適用余地はないとされています(平成6年1月4日基発1号・平成11年3月31日基発168号)。
①予め労働時間を特定することが困難な業務
②労使協定で定めた時間が頻繁に変更される業務

たとえば、顧客対応型で急な長時間労働が恒常的に発生する業種では、事前に各日の労働時間を固定することが難しく、制度の有効活用が困難です。

会社側弁護士からのアドバイス:1年単位の変形労働時間制は導入要件が複雑で、労使協定・就業規則の内容が不備だと将来の残業代請求訴訟で制度が無効とされるリスクがあります。導入前に会社側の労働問題に精通した弁護士による就業規則・労使協定のチェックを受けることを強くお勧めします。

監修者:弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士。会社側の労働問題を専門とし、就業規則の作成・整備、残業代請求対応、解雇・雇止めトラブル、団体交渉対応など、使用者側の立場から企業を継続的にサポート。東京・全国対応。

FAQよくある質問

Q. 1年単位の変形労働時間制で、週法定労働時間が44時間の特例事業場でも年間総枠は40時間ベースで計算しますか?
はい。1年単位の変形労働時間制では、特例措置対象事業場(週44時間)であっても、法定労働時間の総枠は週40時間ベースで計算します(労働基準法施行規則第25条の2第4項)。これは1か月単位の変形労働時間制と異なる重要なポイントです。
Q. 対象期間を区分して労使協定を結んだ場合、区分後の期間の勤務割はいつまでに決める必要がありますか?
各区分期間の開始30日前までに、労働者側代表の同意を得た上で、各区分期間の労働日・労働時間を書面で定めなければなりません(労働基準法第32条の4第2項)。この手続きを失念すると、その区分期間については変形労働時間制が適用されないリスクがあります。
Q. 年間カレンダーはいつまでに従業員に周知する必要がありますか?
対象期間開始前に労使協定を結び、対象期間全体の年間カレンダー(または最初の区分期間分)を確定させておく必要があります。期間開始前に周知されていない場合、その期間については変形労働時間制の効力が生じないおそれがあります。
Q. 年の途中で入社・退社した従業員の残業代計算はどうなりますか?
途中入社・途中退社した場合、実際の在籍期間を対象として法定労働時間の総枠を日割り計算し、実際の労働時間がその総枠を超えた分については割増賃金を支払う必要があります。計算漏れが生じやすいため、給与計算ルールを就業規則・労使協定に明記しておくことが重要です。
Q. 36協定との関係はどうなりますか?
1年単位の変形労働時間制を導入していても、あらかじめ定めた所定労働時間を超えた残業が発生する場合には、別途36協定の締結・届出が必要です。変形労働時間制と36協定は独立した制度であり、変形労働時間制を導入したからといって36協定が不要になるわけではありません。

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最終更新日:2026年5月26日