労働問題638 1か月単位の変形労働時間制とはどのようなものですか?
目次
1. 1か月単位の変形労働時間制の利点
(1) 定義と概要
1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の一定期間を単位とするもので、この一定期間を平均して1週間の労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内であれば、1日8時間以上、あるいは1週40時間(特例措置対象事業場は44時間)以上の所定労働時間を就業規則で定めて行うことが可能になる制度です。
(2) 1年単位の変形労働時間制との違い
1年単位の変形労働時間制は、1日や1週の労働時間に上限が設けられていますが、1か月単位の変形労働時間制は、1日や1週の労働時間に上限がありません。
(3) 実例
月初が暇で月末が忙しいという企業の場合、例えば、1日から11日までの各日の所定労働時間を5時間(労働日9日)、12日から24日までの各日の所定労働時間を8時間(労働日9日)、25日から31日までの各日の所定労働時間を11時間(労働日5日)とする変形労働時間を組むことができ、11時間の場合であっても時間外割増賃金(残業代)の支払いは必要ありません。
(4) 注意点
恒常的に1日8時間週5日労働させる必要がある企業では、時間外割増賃金(残業代)の請求対策にはなりません。
2. 1か月単位の変形労働時間制の要件
(1) 労使協定または就業規則の定め
1か月単位の変形労働時間制では、労使協定または就業規則で、変形期間を平均して1週間あたりの労働時間が週法定労働時間以内になるように、対象期間および起算日を具体的に定める必要があります。
(2) 労働基準監督署への届出
就業規則は、対象期間および起算日を定めて、事業場の従業員の過半数代表者の意見を添付して所轄労働基準監督署に届け出る必要があり、労使協定は、対象期間、起算日の他に有効期間を定めて、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。したがって、就業規則に単に「1か月を平均して1週当たりの労働時間が週40時間の範囲で変形労働時間制をとることがある」という規定を置くだけでは、各日、各週の労働時間を定めていないので、適法な1か月単位の変形労働時間制を実施することができません。
(3) 法定労働時間の総枠
対象期間における所定労働時間の合計は、同期間内における法定労働時間の総枠を超えないように設定する必要があります。
法定労働時間の総枠は、週法定労働時間が40時間の事業場の場合、次の式で計算することができます。
【週法定労働時間40時間×変形期間の日数÷7日】
週法定労働時間が44時間の事業場の場合では、次の式で計算することができます。
【週法定労働時間44時間×変形期間の日数÷7日】
具体的な法定労働時間の総枠の時間数は次のとおりです。
◆週法定労働時間が40時間の事業場
変形期間1か月(31日):177.1時間
変形期間1か月(30日):171.4時間
2週間:80.0時間
◆週法定労働時間が44時間の事業場
変形期間1か月(31日):194.9時間
変形期間1か月(30日):188.6時間
2週間:88.0時間
(4) 労働日の変更
特定した労働日や労働日ごとの労働時間は、使用者が任意に変更することはできません。
(5) 育児を行う者等への配慮
育児を行う者、老人等の介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者その他特別の配慮を要する者については、労規則12条の6により、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるよう、事業者は配慮しなければならないとされています。