労働問題638 1か月単位の変形労働時間制とは|導入要件と残業代リスクを会社側弁護士が解説

この記事のポイント

✓ 1か月単位の変形労働時間制は、月内の繁閑に合わせて所定労働時間を柔軟に設定でき、残業代コストの合理化に有効です。

✓ 導入には就業規則または労使協定に各日の所定労働時間を具体的に定め、労働基準監督署への届出が必要です。

✓ 制度の要件を正しく満たさないと、事後的に残業代を請求されるリスクがあるため、会社側弁護士への相談をお勧めします。

011か月単位の変形労働時間制とは

1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の一定期間を単位として、その期間を平均した1週間の労働時間が法定労働時間(原則40時間、特例措置対象事業場は44時間)以内であれば、特定の日や週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定することができる制度です(労働基準法第32条の2)。

労働基準法の原則では、1日8時間・1週40時間を超えて労働させる場合には時間外割増賃金(残業代)の支払義務が生じます。しかし変形労働時間制を適法に導入すれば、あらかじめ定めた所定労働時間の範囲内であれば1日8時間・1週40時間を超えても残業代の支払義務は生じません

月末繁忙・月初閑散型の具体例

例えば月初が閑散で月末が繁忙な企業の場合、以下のように所定労働時間を設定することができます。

期間 所定労働時間 労働日数
1日〜11日 5時間/日 9日
12日〜24日 8時間/日 9日
25日〜31日 11時間/日 5日

この場合、25日〜31日に11時間の所定労働時間を設定しても、適法な変形労働時間制であれば超過分について残業代の支払義務は生じません。これが1か月単位の変形労働時間制の大きなメリットです。

ポイント:ただし、恒常的に1日8時間・週5日の労働が必要な業務形態では、残業代コスト削減の効果は限定的です。制度導入の効果があるかどうかは、業務の繁閑パターンを踏まえて慎重に検討する必要があります。

021年単位の変形労働時間制との違い

変形労働時間制には複数の種類がありますが、1か月単位と1年単位を比較した場合、会社側にとって重要な違いがあります。

比較項目 1か月単位 1年単位
単位期間 1か月以内 1か月超〜1年以内
1日の上限 上限なし 10時間
1週の上限 上限なし 52時間
導入手続き 就業規則または労使協定 労使協定(必須)
繁閑の周期 月内の繁閑 季節的・年間の繁閑

1か月単位の変形労働時間制は1日や1週の労働時間に上限が設けられていないため、月末に集中的な繁忙が生じる業態では特に有効です。一方、1年単位では1日10時間・1週52時間の制限があるため、極端な繁閑がある場合は1か月単位の方が柔軟な制度設計が可能です。

03制度導入の要件

(1)就業規則または労使協定の整備

1か月単位の変形労働時間制を導入するためには、就業規則または労使協定に以下の事項を定める必要があります。

  • 変形期間(1か月以内の一定期間)
  • 変形期間の起算日
  • 変形期間を平均して1週当たりの労働時間が法定労働時間以内になるよう、各日・各週の所定労働時間を具体的に定めること
注意:「1か月を平均して1週当たりの労働時間が週40時間の範囲で変形労働時間制をとることがある」という抽象的な規定だけでは、各日・各週の所定労働時間が特定されていないため、適法な変形労働時間制とは認められません。就業規則には具体的な時間割を記載する必要があります。

(2)労働基準監督署への届出

就業規則は、従業員の過半数代表者の意見書を添付して所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。労使協定の場合は、有効期間も定めた上で届け出ることが求められます。

(3)育児・介護等を行う者への配慮

育児・介護・職業訓練等を行う従業員については、労働基準法施行規則第12条の6に基づき、これらに必要な時間を確保できるよう配慮することが使用者に義務付けられています。特定の従業員に著しく不利な時間割を設定しないよう注意が必要です。

04法定労働時間の総枠の計算方法

変形期間中の所定労働時間の合計は、当該期間の法定労働時間の総枠を超えないように設定しなければなりません。計算式は以下のとおりです。

【計算式】
週法定労働時間 × 変形期間の日数 ÷ 7日
事業場区分 31日の月 30日の月 2週間
週40時間(一般) 177.1時間 171.4時間 80.0時間
週44時間(特例措置対象事業場) 194.9時間 188.6時間 88.0時間

所定労働時間の合計が総枠を超えた場合、超えた時間については割増賃金の支払義務が生じます。シフト設計の段階で総枠との比較確認を徹底することが重要です。

05導入時の注意点と会社側のリスク

(1)要件不備による遡及請求リスク

就業規則の記載が不十分で各日の所定労働時間が特定されていない場合、変形労働時間制の導入が無効と判断され、通常の1日8時間・週40時間の原則に戻って残業代を遡及請求されるリスクがあります。過去数年分の未払残業代請求に発展した事例も少なくありません。

(2)労働日の任意変更は原則不可

あらかじめ就業規則や労使協定で定めた労働日・所定労働時間を、使用者の業務都合で任意に変更することは原則として認められません。変更が必要な場合は、変形期間開始前に対応する必要があり、開始後の変更は法的に困難です。

(3)恒常的な長時間労働への対応

変形労働時間制はあくまでも繁閑への対応手段であり、恒常的に長時間労働が発生している状態を正当化するものではありません。時間外労働の上限規制(労働基準法第36条)も適用されるため、36協定の締結・届出と組み合わせた運用が必要です。

会社側弁護士からのアドバイス:1か月単位の変形労働時間制の導入には、就業規則の精緻な設計が不可欠です。要件を満たさない制度設計は後の残業代トラブルの温床となります。労働問題に詳しい会社側弁護士に就業規則の作成・点検を依頼されることをお勧めします。

監修者:弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士。会社側の労働問題を専門とし、就業規則の作成・整備、残業代請求対応、解雇・雇止めトラブル、団体交渉対応など、使用者側の立場から企業を継続的にサポート。東京・全国対応。

FAQよくある質問

Q. 1か月単位の変形労働時間制はどのような業種・業態に向いていますか?
月末に請求処理が集中する会計・経理部門、月内で繁忙日と閑散日がはっきり分かれる小売業・サービス業、シフト制を採用する医療・介護事業所などに適しています。月単位で繁閑のサイクルが明確な業態であれば残業代コストの合理化に有効です。
Q. 変形労働時間制を就業規則に定める際に最低限必要な記載事項は何ですか?
①変形期間(例:毎月1日〜末日)、②起算日、③各日ごとの始業・終業時刻と休憩時間、④休日の特定が必要です。「平均週40時間の範囲で変形する」という抽象的記載だけでは不十分で、各日の所定労働時間を具体的に特定することが求められます。
Q. 変形期間中に途中入社・途中退職した従業員の残業代はどう計算しますか?
変形期間の途中で入退社した場合、実際の在籍期間を対象として法定労働時間の総枠を日割り計算し、実際の労働時間がその総枠を超えた部分については割増賃金を支払う必要があります。見落としやすい計算なので、賃金計算ルールを就業規則に明記しておくことが望ましいです。
Q. 特例措置対象事業場とは何ですか?
商業、映画・演劇業(映画製作を除く)、保健衛生業、接客娯楽業であって、常時使用する労働者が10人未満の事業場をいいます。これらの事業場は週の法定労働時間が44時間とされており、法定労働時間の総枠計算も44時間ベースで行います。
Q. 変形労働時間制を導入していれば36協定は不要ですか?
いいえ、不要にはなりません。変形労働時間制は、あらかじめ定めた所定労働時間内であれば残業代を要しないという制度です。所定労働時間を超えた時間外労働が発生する場合には、別途36協定の締結・届出が必要です。変形労働時間制と36協定は別々の制度として両立して運用します。

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最終更新日:2026年5月25日

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