この記事のポイント

✓ 就業規則は「1年単位の変形労働時間制を採用すること」と各シフトパターンの始業・終業時刻を規定し、各日の具体的な所定労働時間は「労使協定の定めによる」と省略できます。

✓ 労使協定は対象者・対象期間・勤務パターン・年間カレンダー(休日)・有効期間を定め、法定労働時間の総枠を超えない設計が必要です。

✓ 規定例の条文はあくまでもひな型です。自社の実態に合わせて弁護士・社労士と連携して作成することで、将来のトラブルを防ぐことができます。

01就業規則への規定方法と規定例

1年単位の変形労働時間制を導入するためには、就業規則に制度を採用する旨と各シフトパターンの始業・終業・休憩時間を規定する必要があります。ただし、具体的な各日・各週の所定労働時間は複雑になるため、「労使協定で定めるところによる」と省略して記載することが認められています(労使協定も就業規則と同様に従業員への周知義務があることが前提)。

就業規則規定例

(変形労働時間制)
第○条 労使協定により労働基準法に定める1年以内の変形労働時間制の対象
    となる従業員については、第○条の所定労働時間の定めにかかわらず、
    毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間を平均して1週間当たりの
    所定労働時間数が40時間を超えない範囲において、労使協定で定める
    所定労働時間とする。

2 変形期間の所定労働時間のパターンは次のとおりとする。
 6時間の日 始業 午前8時30分 終業 午後3時30分 休憩 12時〜13時
 8時間の日 始業 午前8時00分 終業 午後5時00分 休憩 12時〜13時
 9時間の日 始業 午前8時30分 終業 午後6時30分 休憩 12時〜13時

3 変形期間の各日・各週の具体的な所定労働時間は労使協定の定めによる。

ポイント:就業規則に記載するシフトパターン(6時間・8時間・9時間等)は自社の実態に合わせて設定します。「始業○時、終業○時」の「○」は実際の時刻に変更してください。また、労使協定も就業規則と同様に全従業員への周知が必要です。

02法定労働時間の総枠

年間カレンダー(労使協定の別紙)を作成する際には、対象期間全体の所定労働時間の合計が法定労働時間の総枠を超えないよう設計することが必要です。

対象期間 法定労働時間の総枠
1年(365日) 2,085.7時間
1年(366日・うるう年) 2,091.4時間
6か月(183日) 1,045.7時間
4か月(122日) 697.1時間
3か月(92日) 525.7時間

特例措置対象事業場(週44時間)であっても、1年単位の変形労働時間制では総枠の計算は週40時間ベースで行います(労働基準法施行規則第25条の2第4項)。

03労使協定の作成ポイント

労使協定には以下の事項を盛り込む必要があります。

記載事項 内容・注意点
対象者の範囲 適用従業員と適用除外者(年少者・妊産婦・育児介護中の申出者等)を明記
対象期間・起算日 「毎年○月○日から翌年○月○日まで」と明記
勤務時間のパターン 各シフトの始業・終業・休憩時間を記載
休日 別紙「年間カレンダー」として具体的に特定(連続勤務・総枠との整合を確認)
特定期間 繁忙期がある場合は特定期間を定める(任意)
有効期間 通常は1年間(対象期間と同じ)

04労使協定例(全文)

株式会社○○と○○従業員代表は、1年単位の変形労働時間制に関し、
下記のとおり協定する。

(対象となる従業員の範囲)
第1条 1年単位の変形労働時間制は、次のいずれかに該当する従業員を除き、
    全従業員に適用する。
 一 パートタイム労働者
 二 18歳未満の年少者
 三 妊娠中または産後1年を経過しない女性従業員のうち
   本制度の適用除外を申し出た者
 四 育児・介護を行う従業員、職業訓練または教育を受ける従業員
   その他特別の配慮を要する従業員のうち、本制度の適用除外を申し出た者

(対象期間)
第2条 1年単位の変形労働時間制の対象期間は、
    毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間とする。

(勤務時間)
第3条 所定労働時間は、1年単位の変形労働時間制によるものとし、
    1年間を平均して週40時間を超えないものとする。
2 1日の所定労働時間、始業・終業時刻、休憩時間は、次のとおりとする。
 6時間の日 始業 午前8時30分 終業 午後3時30分 休憩 12時〜13時
 8時間の日 始業 午前8時00分 終業 午後5時00分 休憩 12時〜13時
 9時間の日 始業 午前8時30分 終業 午後6時30分 休憩 12時〜13時
3 変形期間における各日の勤務区分は、別紙「年間カレンダー」のとおりとする。

(休日)
第4条 変形期間における休日は、別紙「年間カレンダー」のとおりとする。

(特定期間)
第5条 特定期間は定めないものとする。

(有効期間)
第6条 本協定の有効期間は、○年○月○日から○年○月○日までとする。

    ○年○月○日
    株式会社○○
    代表取締役社長 ○○○○ ㊞
    従業員代表 ○○○○ ㊞

年間カレンダー(別紙)について:「別紙年間カレンダー」には全労働日・休日と各日の勤務パターン(6時間・8時間・9時間)を具体的に記載します。対象期間の所定労働時間の合計が法定労働時間の総枠(365日なら2,085.7時間)を超えないことを確認してから作成してください。

05規定作成時のリスクと会社側弁護士のチェックポイント

よくある問題点 発生するリスク
年間カレンダーが労使協定に添付されていない 各日の所定労働時間が特定されていないため制度が無効とされる
総枠を超えて所定労働時間を設定 超過分について割増賃金(25%以上)の支払義務が発生
有効期間が切れた後も更新せず運用継続 協定の効力が失効し、通常の1日8時間・週40時間ルールに戻る
適用除外者への制度適用 年少者・妊産婦等への違法適用として是正勧告の対象になる
労基署への届出忘れ 届出が効力要件であるため制度が有効に成立していない
会社側弁護士からのアドバイス:インターネット上の規定例をそのまま流用することは危険です。自社の業種・繁閑パターン・従業員構成に合わせた規定を作成し、年間カレンダーの総枠チェック・労基署届出まで一連の手続きを確実に行うことが重要です。弁護士法人四谷麹町法律事務所では会社側の就業規則整備・労使協定作成をサポートしています。

監修者:弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士。会社側の労働問題を専門とし、就業規則の作成・整備、残業代請求対応、解雇・雇止めトラブル、団体交渉対応など、使用者側の立場から企業を継続的にサポート。東京・全国対応。

FAQよくある質問

Q. 労使協定の締結は誰と行えばよいですか?
事業場の従業員の過半数を代表する者(過半数組合がある場合はその組合、ない場合は従業員の過半数代表者)と締結します。代表者は管理監督者以外の者が投票・挙手等の民主的な方法で選出される必要があります。会社側が指名した者との協定は無効とされるリスクがあります。
Q. 対象期間を区分した場合、各区分の確定手続きはどうすればよいですか?
区分期間の開始30日前までに、労働者代表の同意を得た上で当該区分の労働日・所定労働時間を書面で定めなければなりません(労働基準法第32条の4第2項)。この書面を従業員全員に周知することも必要です。期限を失念すると法令違反になる可能性があります。
Q. 年間カレンダーは毎年作成し直す必要がありますか?
はい。労使協定の有効期間(通常1年)に合わせて、新しい対象期間のカレンダーを作成し、再度労使協定を締結・届出する必要があります。前年と同じカレンダーを使い回すだけでは足りず、協定の有効期間の更新手続きが必要です。
Q. 労使協定を結んだ後に突然の繁忙で所定外労働が発生した場合はどうなりますか?
労使協定で定めた所定労働時間を超えた労働は時間外労働となります。36協定が締結・届出されていれば適法に残業させることができますが、その場合は変形労働時間制のカレンダーで定めた所定労働時間を超えた分について割増賃金の支払義務が生じます。
Q. 育児短時間勤務中の従業員を変形労働時間制の対象から除外しなければなりませんか?
育児・介護を行う従業員については、「申出をした者」を適用除外とすることが法令上求められています(労働基準法施行規則第12条の4等)。申出がなければ強制的に除外する義務はありませんが、育児短時間勤務と変形労働時間制の整合性については実態を踏まえて適切に対応する必要があります。

関連ページ

最終更新日:2026年5月26日