この記事のポイント

✓ 1か月単位の変形労働時間制の就業規則規定例には「特定型」と「指定型」があり、業種や職場の実態に応じて選択します。

✓ 「平均週40時間の範囲で変形する」という抽象的な記載だけでは適法な導入とは認められず、各日の所定労働時間の特定が必要です。

✓ 不適切な規定のまま運用すると、事後的に多額の残業代を請求されるリスクがあります。会社側弁護士による就業規則の作成・点検をお勧めします。

01就業規則規定の2つのタイプ

1か月単位の変形労働時間制を導入する際、就業規則の規定方法には大きく分けて「特定型」「指定型」の2つのタイプがあります。

区分 特定型 指定型(勤務ダイヤ型)
概要 就業規則本文に日別の始業・終業時刻を直接記載 複数のシフトパターンを定め、変形期間前に個別に勤務割を通知
向いている業種 月内の繁閑パターンが毎月一定の業種(経理・会計事務所等) 日ごとの出勤形態が変動する業種(小売業・医療・介護施設等)
柔軟性 低い(就業規則変更が必要) 高い(シフト設定で柔軟に対応可能)
リスク 繁閑パターンが変わると就業規則改定が必要 事前通知義務の不履行によるトラブルに注意

どちらの方式にも長短があります。自社の業種・業態・雇用形態を踏まえ、適切な方式を選択することが重要です。

02特定型の規定例と解説

特定型は、就業規則の本文に各日の所定労働時間を直接記載する方式です。以下に規定例を示します。

(変形労働時間制)
第○条 所定労働時間は、次に定める1か月単位の変形労働時間制によるものとする。
 毎月1日から11日 :始業時刻○時、終業時刻○時、休憩時間○時から○時間
 毎月12日から24日:始業時刻○時、終業時刻○時、休憩時間正午から○時間
 毎月25日から末日:始業時刻○時、終業時刻○時、休憩時間正午から○時間
2 休日は土曜日および日曜日とする。
3 第1項の変形労働時間制の起算日は毎月1日とする。

特定型の解説

特定型では、毎月の繁閑パターンが固定されている場合に適しています。例えば月末に業務が集中する業種では、月初の閑散期の所定労働時間を短く設定し、月末の繁忙期に長く設定することで、全体の法定労働時間総枠の範囲内に収めることができます。

重要ポイント:記載する時刻は具体的な数字で示すことが必要です。「始業時刻○時」のままでは就業規則として未完成であり、労働基準監督署への届出もできません。自社の実際の繁閑パターンに合わせた具体的な時刻を記載してください。

03指定型の規定例と解説

指定型(勤務ダイヤ型)は、就業規則に複数のシフトパターンを定めた上で、変形期間開始前に各従業員の勤務割を個別に指定する方式です。

(変形労働時間制)
第○条 所定労働時間は、毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制により、
    1か月を平均して1週間当たり40時間を超えないものとする。
2 1日の所定労働時間は○時間とする。
3 始業および終業時刻は、次のいずれかとする。
 A:始業時刻○時、終業時刻○時、休憩時間○時~○時
 B:始業時刻○時、終業時刻○時、休憩時間○時~○時
 C:始業時刻○時、終業時刻○時、休憩時間○時~○時
 D:始業時刻○時、終業時刻○時、休憩時間○時~○時
4 休日は、1か月に○日付与する。
5 各日における日別の勤務形態は、変形期間の開始○日前までに
  スケジュール表に個人別に設定し、従業員へ通知する。
6 前項のスケジュール表で設定された勤務時間は、事故・災害その他
  やむを得ない事由が生じた場合には、事前に通知した上で変更することがある。

指定型の解説と判例上のポイント

厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発150号)では、勤務ダイヤによる変形労働時間制を採用する場合、「就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割の作成手続及びその周知の方法等を定めておき、それに従って各日ごとの勤務割は変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる」としています。

また、最高裁判決(大星ビル管理事件・最高裁平成14年2月28日)では、「作成される各書面の内容、作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得る」ことが必要とされています。

注意:指定型では、「変形期間の開始前までに通知する」という手続を実際に履行していることが重要です。通知が事後になった場合や、通知の証拠が残っていない場合は、変形労働時間制が無効とされるリスクがあります。通知記録を保存しておくことを強くお勧めします。

04規定作成時の重要な注意点

(1)抽象的な包括規定では無効

「1か月を平均して1週当たりの労働時間が週40時間の範囲で変形労働時間制をとることがある」という規定だけでは、各日・各週の所定労働時間が特定されていないため、適法な変形労働時間制とは認められません。この場合、労働基準法の原則(1日8時間・週40時間)に戻って残業代が計算されます。

(2)起算日の特定が必要

変形期間の起算日を就業規則または労使協定に明記しなければなりません。「毎月1日を起算日とする」のように具体的に定める必要があります。

(3)休日の特定

変形期間中の休日も具体的に特定することが必要です。「土曜日・日曜日」という特定が典型ですが、週休2日制を採用する場合でも、変形期間全体の所定労働日数・休日日数が総枠計算に影響するため注意が必要です。

(4)育児・介護等への配慮義務の明記

労働基準法施行規則第12条の6に基づき、育児・介護・職業訓練等を行う従業員に対する配慮義務を規定に反映させることが望ましいです。実務上は「育児・介護等の事情がある者については、申出により勤務割の配慮を行う」旨の条項を追加することで対応します。

(5)労働基準監督署への届出

就業規則を作成・変更した場合は、常時10人以上の従業員を使用する事業場では、従業員代表の意見書を添付して所轄の労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条・第90条)。届出を怠ると就業規則としての効力が生じないことがあるため注意が必要です。

05会社側弁護士からみたリスク管理

就業規則の変形労働時間制に関する規定が不十分な場合、実際の残業代訴訟では以下のようなリスクが顕在化します。

問題のある規定 発生しうるリスク
「平均週40時間の範囲で変形」のみの抽象規定 変形労働時間制の無効→通常残業代の遡及請求(最大3年分)
指定型で事前通知の手続き不備 特定の月の変形労働時間制が無効とされ、その月の残業代が発生
法定労働時間の総枠超過 超過時間について割増賃金(25%以上)の支払義務
労基署への未届出 就業規則の効力に疑義が生じ、是正勧告の対象になる可能性
会社側弁護士からのアドバイス:変形労働時間制の就業規則規定は、労働時間管理の根幹をなす重要な条項です。インターネット上の雛形をそのまま流用すると自社の実態に合わない規定になりやすく、後日のトラブルの原因となります。導入前に会社側の労働問題に精通した弁護士に確認を依頼されることを強くお勧めします。

監修者:弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士。会社側の労働問題を専門とし、就業規則の作成・整備、残業代請求対応、解雇・雇止めトラブル、団体交渉対応など、使用者側の立場から企業を継続的にサポート。東京・全国対応。

FAQよくある質問

Q. 既存の就業規則に変形労働時間制の規定を追加するだけで導入できますか?
就業規則への記載に加え、常時10人以上の従業員がいる事業場では労働基準監督署への届出も必要です。また、既存の労使関係に変化が生じる可能性があるため、従業員代表への説明と意見聴取の手続きを丁寧に行うことが重要です。
Q. 指定型で「1週間前に通知」と就業規則に定めていたのに、3日前にしか通知できなかった場合はどうなりますか?
通知期限を守らなかった場合、その勤務割の法的効力が問題になりえます。ただちに変形労働時間制全体が無効になるわけではありませんが、通知が遅れた期間については残業代の支払義務が生じる可能性があります。やむを得ない事由で変更する場合の手続きを規定に盛り込んでおくことが望ましいです。
Q. 労使協定で変形労働時間制を定めることもできますか?
はい、就業規則に代えて労使協定で定めることも可能です。ただし、労使協定の場合は有効期間を定め、労働基準監督署に届け出る必要があります。なお、就業規則で定める場合と異なり、労使協定の内容が個々の労働者に周知されていることも求められます。
Q. 規定例にある「○時間」の箇所は何時間に設定するのが適切ですか?
自社の業務実態と繁閑パターンを踏まえ、変形期間全体の所定労働時間が法定労働時間の総枠(31日の月で177.1時間)を超えないよう逆算して設定します。繁忙期と閑散期の労働時間のバランスを調整しながら、実際の業務量に見合った時間設定を行うことが重要です。
Q. 変形労働時間制を導入した後で、制度をやめることはできますか?
廃止することは可能ですが、就業規則の変更手続きが必要です。労働者に不利益な変更となる場合(例:残業代が増加するなど)は、労働契約法第10条の「合理的な変更」要件を満たす必要があり、一方的な廃止はトラブルのもとになりえます。廃止の際も会社側弁護士への相談をお勧めします。

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最終更新日:2026年5月25日