この記事のポイント

✓ 就業規則や労使協定で定めた労働日・始業終業時刻を使用者の都合で任意に変更することは原則認められません。

✓ 勤務ダイヤ(指定型)を採用する場合は、就業規則に手続きを定めた上で変形期間開始前に勤務割を特定することが必要です。

✓ 変形期間開始後の一方的な変更は残業代リスクを生じさせます。変更手続きを就業規則に明記し、適切に運用することが重要です。

01労働日・始業終業時刻の任意変更は原則不可

1か月単位の変形労働時間制を適法に運用するためには、就業規則または労使協定であらかじめ各日の労働時間・休日を特定することが求められます(労働基準法第32条の2)。

このように事前に特定された労働日や始業・終業時刻は、使用者が業務上の都合によって任意に変更することは原則として認められていません

なぜ変更が禁止されるのか:変形労働時間制は、あらかじめ労働時間を特定することを前提として、特定の日に1日8時間を超える労働をさせても残業代の支払義務が生じないという恩恵を使用者に与えています。使用者が事後的に自由に変更できるとすれば、「特定」の意味がなくなり、制度の趣旨が失われます。そのため、法はこの変更を原則禁止しています。

ただし、一切の変更が認められないわけではありません。次のセクションで説明する「勤務ダイヤ型(指定型)」の採用や、就業規則に定めた手続きに従った例外的変更については、一定の範囲で認められることがあります。

02勤務ダイヤ型における変更の取り扱い

厚生労働省の通達(昭和63年3月14日基発150号)では、勤務ダイヤ(指定型)による1か月単位の変形労働時間制について以下のような解釈が示されています。

【通達の内容(要旨)】
「業務の実態から月ごとに勤務制を作成する必要がある場合には、就業規則において次の事項を定めておき、それに従って各日ごとの勤務割は変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りる」

①各直勤務の始業終業時刻
②各直勤務の組合せの考え方
③勤務割の作成手続および周知方法

つまり、毎月の業務量に応じてシフトを組む必要がある業種・職種については、就業規則にシフトのパターン(A勤・B勤等)と勤務割の作成・通知手続を定めた上で、変形期間の開始前(月初の前)までに各従業員の勤務割を特定して通知する方式が認められています。

比較項目 特定型(固定シフト) 指定型(勤務ダイヤ型)
就業規則への記載 日別の始業・終業時刻を直接記載 シフトパターンと勤務割の手続を記載
各日の特定タイミング 就業規則制定時に特定済み 変形期間開始前までに個別通知
変形期間開始後の変更 原則不可 原則不可(例外規定がある場合を除く)
主な利用業種 経理・会計事務所、製造業等 病院・介護施設、小売業等

03最高裁判例のポイント(大星ビル管理事件)

勤務ダイヤ型の変形労働時間制に関しては、最高裁判所の重要判決があります。

【大星ビル管理事件 最高裁平成14年2月28日判決】

具体的勤務割を予め勤務シフトを作成して行う場合においても、適法な変形労働時間制の実施と認められるためには、

作成される各書面の内容、作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得る」ことが必要である。

この判決が示すのは、勤務ダイヤ型であっても、「どのようなシフトがあるか」「いつまでに誰がどの方法で通知するか」という手続が就業規則に明確に定められており、それが実際に履行されていることが必要だということです。

会社側弁護士からのポイント:就業規則に「変形期間の開始前に通知する」という文言があるだけでは不十分な場合があります。「変形期間の開始○日前までに、スケジュール表を用いて個人別に通知する」という具体的な手続きを定め、かつ実際にその手続きを記録として残すことが重要です。

04変形期間開始後の変更リスクと対応策

(1)変形期間開始後の変更が無効とされるリスク

変形期間が開始した後に使用者が一方的に勤務割を変更した場合、その変更は法的効力を持たない可能性があります。この場合、変更後の実際の労働時間ではなく、変更前に特定されていた勤務割を基準として残業代の支払義務が計算されることになります。

例えば、月初の計画では「15日は休日」と特定していたのに、業務上の都合で出勤させた場合、その日の労働時間全体が法定外の時間外労働として残業代請求の対象になりえます。

(2)例外的変更が認められる場合

就業規則に「事故・災害その他やむを得ない事由が生じた場合には、事前に通知した上で変更することがある」という規定を設けておくことで、緊急時の対応として勤務割変更が認められる場合があります。ただし、この規定を頻繁に利用した恣意的な変更は、制度の有効性そのものを損なうリスクがあります。

(3)実務上の対応策

場面 推奨される対応
変形期間開始前の変更 変形期間開始前であれば、適切な手続きを経た変更は認められる。記録を残すこと
緊急・やむを得ない変更 就業規則に変更条項を定め、事前通知と記録保存を徹底する
恒常的な変更 制度の実態を見直し、実態に合った就業規則へ変更する
通知手続の記録 シフト表の交付記録、システムログ等を保存する

05育児・介護等への配慮義務と変更申し出への対応

労働基準法施行規則第12条の6は、育児・介護・職業訓練等を行う労働者について、これらに必要な時間を確保できるよう使用者が配慮しなければならないと定めています。

具体的には、育児のために保育所への送迎が必要な時間帯に労働させることを避けたり、介護のために特定の時間帯に在宅が必要な従業員のシフトを調整したりすることが求められます。

配慮義務の実務上の注意点:「配慮義務」は「従わなければならない義務」ではなく、合理的な範囲での配慮を求めるものです。業務上どうしても対応できない場合については、理由を説明した上でシフトを維持することも認められますが、正当な理由なく配慮を拒否し続けると、労務トラブルや違法状態の指摘につながる可能性があります。

労働者からのシフト変更申し出への対応フロー

申し出の理由 会社側の対応
育児・介護・職業訓練等 法令上の配慮義務あり。可能な範囲で対応を検討する
私的な事情(冠婚葬祭等) 法的義務はないが、個別の事情を勘案して協議する
単なる希望(疲れた、予定がある等) 法的配慮義務なし。業務上の必要性・公平性を踏まえて判断する

監修者:弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士。会社側の労働問題を専門とし、就業規則の作成・整備、残業代請求対応、解雇・雇止めトラブル、団体交渉対応など、使用者側の立場から企業を継続的にサポート。東京・全国対応。

FAQよくある質問

Q. 変形期間が始まった後に従業員が急病で欠勤した場合、その日の労働時間はどう扱いますか?
欠勤した従業員本人の問題であり、使用者が勤務割を変更したわけではないため、通常は変形労働時間制の無効問題は生じません。ただし、代替要員として別の従業員に通常の勤務割以外の労働をさせた場合には、その従業員について時間外労働が発生する可能性があります。
Q. 変形期間を月途中から開始することはできますか?
変形期間の起算日は就業規則や労使協定で定めたものに従います。毎月1日が起算日であれば月の途中から開始することはできません。一方、起算日を「毎月15日」と定めた場合には月途中から変形期間が始まります。いずれにせよ、起算日を就業規則に明確に定めておくことが必要です。
Q. 変形期間中にパートタイム労働者の契約時間を変更することはできますか?
パートタイム労働者に変形労働時間制を適用している場合も、変形期間開始後の一方的な変更は原則認められません。ただし、労働契約の更新・変更として個別に合意を得る場合は、契約内容の変更として対応できることがあります。いずれも弁護士に確認の上で進めることをお勧めします。
Q. 変形期間中に臨時の休日を設けることはできますか?
変形期間開始後に使用者が任意に休日を設けることは原則認められません。ただし、天変地異や特別な事情で操業停止をする必要がある場合など、例外的に認められるケースもあります。なお、休業手当(労働基準法第26条)の支払義務が生じる場合がありますので注意が必要です。
Q. 変形労働時間制のシフト管理に関するトラブルが発生した場合、どこに相談すればよいですか?
会社側の立場での対応は、労働問題に強い会社側弁護士への相談が最も確実です。労働基準監督署による是正指導が入る前に、弁護士による就業規則の点検・整備を行っておくことで、将来のリスクを大幅に低減できます。弁護士法人四谷麹町法律事務所では、会社側の労働問題を専門に扱っています。

関連ページ

最終更新日:2026年5月25日