労働問題695 採用・派遣労働者との紛争は労働審判の対象になるか【会社側弁護士が解説】

この記事の要点

  • 「労働関係に関する事項」が対象である以上、契約の名称より実態が重視される
  • 業務委託・請負でも実態が使用従属関係であれば労働審判の対象となり得る
  • 採用段階は原則対象外だが、内定取消しは対象となる可能性がある
  • 派遣先と派遣労働者の間には直接の労働契約がないため、原則として対象外
  • リスク管理には、契約設計の段階から実態に即した見直しが不可欠

採用・派遣労働者との紛争は労働審判の対象になるか【会社側弁護士が解説】

労働審判手続の対象となるためには、「労働関係に関する事項」であることが必要です。ここでいう「労働関係」とは、単に形式的な労働契約の存在に限られるものではなく、実態として使用従属関係から生じる紛争を幅広く含むと解されています。会社経営者にとって、この射程を正確に把握しておくことは、リスク管理上きわめて重要です。

1労働審判の対象となる「労働関係」とは

労働審判手続は、労働契約の存否その他労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争を対象としています(労働審判法第1条)。

「労働関係」とは、労働契約に基づく使用者・労働者間の法的関係に加え、事実上の使用従属関係から生じる問題も含むと解されています。すなわち、書面上の契約の有無だけでなく、実態として指揮命令関係が存在し、対価として報酬が支払われているかといった実質が重視されます。

会社経営者へのポイント:
「労働関係」の対象範囲は、契約の形式より実態で判断されます。業務委託や請負、フリーランス契約であっても、実質的な指揮命令・報酬の対価性が認められれば、労働審判の対象となるリスクがあります。

2契約名称ではなく実態で判断される理由

労働審判において重要なのは、書面上の契約の名称ではなく、実際の就労実態です。「業務委託」「請負」「フリーランス」といった名称を用いていても、次のような事情が認められる場合には、労働者性が問題となります。

判断要素 労働者性が認められやすい実態
業務の依頼・指示 依頼に対して拒否できない状況がある
業務遂行上の指揮命令 作業方法・時間・場所が細かく指定される
報酬の性質 成果物ではなく時間に対して支払われる
専属性 他社への業務提供が実質的に制限されている

契約の名称のみで安全と判断することは、経営上のリスクとなり得ます。実態を適切に把握し、契約設計の段階から見直しを行うことが重要です。

3業務委託・請負契約と労働者性の判断

形式的に業務委託契約や請負契約とされていても、実態として労働者性が認められる場合には、その紛争は「労働関係に関する事項」として労働審判の対象となる可能性があります。

労働者性の主な判断基準

厚生労働省の通達(昭和60年労働基準局長通達)では、労働者性の判断について「使用従属性」と「労働者性の判断を補強する要素」に分けて整理されています。指揮監督下での業務遂行、報酬の労務対償性などが主な指標となります。

会社経営者としては、フリーランスや業務委託先であっても、上記の実態が積み重なると、後に労働者性が主張される可能性があることを認識しておく必要があります。

実務上の留意点:
業務委託・請負関係にある方から突然「未払賃金」「解雇無効」を主張されて労働審判を申し立てられるケースも存在します。契約の実態を定期的に見直し、リスクを早期に把握することが重要です。

4採用段階のトラブルと労働審判の対象範囲

採用選考中はまだ労働契約が成立していないため、採用面接での言動などは原則として「労働関係に関する事項」には該当せず、労働審判の対象になりません。

ただし、採用内定が出た段階では、一定の条件のもとで労働契約が成立したと評価される場合があります。内定取消しについては、解雇に準じた判断がなされる可能性があり、内定を取り消した場合は労働審判の対象となり得ます。

内定取消しのリスク

判例上、採用内定は「始期付解約権留保付労働契約」が成立したと解されており(大日本印刷事件・最高裁昭和54年7月20日判決等)、正当な理由のない内定取消しは違法となる可能性があります。会社経営者としては、内定取消しを検討する場合には、弁護士に相談のうえ慎重に対応することが求められます。

5派遣労働者との紛争と労働審判の対象

派遣労働者は、派遣元(派遣会社)と労働契約を締結しており、派遣先企業とは直接の労働契約関係にありません。そのため、派遣先企業は原則として労働審判の相手方となりません。

ただし、以下のような場合には注意が必要です。

  • 偽装請負・偽装委託:実態が労働者派遣であるにもかかわらず請負契約を用いている場合、直接雇用が認定されるリスクがある
  • 直接雇用申込みなし義務違反:労働者派遣法上の義務(3年を超えた派遣労働者への直接雇用申込み義務等)違反が問題となる場合
  • 労働契約申込みみなし制度:一定の違法派遣に該当する場合、派遣先が直接雇用を申し込んだものとみなされる(労働者派遣法第40条の6)
会社経営者へのポイント:
「派遣先だから関係ない」という理解は誤りとなる場合があります。特に偽装請負や長期継続派遣においては、直接の雇用関係が認定されるリスクを念頭に置いた対応が求められます。

6対象外となる紛争の類型

労働者と事業主との間の紛争であっても、その内容が労働関係と無関係であれば労働審判の対象外となります。代表的な例として、以下のものが挙げられます。

  • 私的な金銭貸借(業務とは無関係の借金)
  • 個人的なトラブル(プライベートでの紛争)
  • 労働関係に起因しない不法行為(職場外での行為など)
  • 集団的労使関係に関する紛争(団体交渉の拒否など)

重要なのは、紛争の原因が労働契約または使用従属関係に起因しているかどうかです。この点の判断を誤ると、想定外の範囲で労働審判を申し立てられるリスクがあります。

7会社経営者が取るべき予防策と弁護士活用

労働審判の対象範囲を正確に理解することは、契約設計や人材活用戦略の段階から必要な視点です。形式的な整理にとどまらず、実態に即したリスク評価こそが会社経営者に求められます。

具体的な予防策として、以下が挙げられます。

  • 業務委託契約の実態を定期的に確認し、指揮命令の度合いを把握する
  • 採用内定の取扱いルールを整備し、取消事由を就業規則等で明確にする
  • 派遣活用においては、許容期間・直接雇用義務等を適切に管理する
  • 労働者性が問題となり得る人材については、早期に弁護士に相談する

労働審判の対象範囲の問題は、顕在化してから対処するより、事前の体制整備による予防が効果的です。当事務所では、会社経営者の立場に立った実務的なアドバイスをご提供しております。

SUPERVISOR

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。労働問題(使用者側)を中心に、企業法務全般を取り扱う。日本全国の会社経営者・人事担当者からのご相談に対応しております。

採用・派遣・業務委託など、雇用に関わる契約形態の多様化が進む中、「労働審判の対象になるかどうか」の判断を誤ることは、会社経営者にとって大きなリスクとなります。契約の実態を見直し、労働審判に関するリスクを早期に把握・対処したいとお考えの経営者の皆様は、ぜひ当事務所へご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 業務委託契約の相手方から労働審判を申し立てられる可能性はありますか?

あります。契約の名称が「業務委託」であっても、実態として指揮命令関係があり報酬が支払われている場合は、労働者性が認められ、労働審判の対象となる可能性があります。契約名称だけで安全と判断することは危険です。

Q2. 採用選考中のトラブルは労働審判の対象になりますか?

原則として、採用選考中はまだ労働契約関係が成立していないため、労働審判の対象にはなりません。ただし、内定段階になると労働契約の成立が認められる場合があり、内定取消しなどは労働審判の対象となり得ます。

Q3. 派遣労働者との紛争は労働審判の対象になりますか?

派遣労働者と派遣先企業との間には直接の労働契約関係がないため、原則として派遣先は労働審判の相手方にはなりません。ただし、偽装請負など実態が労働者派遣に当たる場合は、直接の労働関係が認定されるリスクがあります。

Q4. 私的な金銭トラブルも労働審判で請求できますか?

いいえ。労働審判は「労働関係に関する事項」が対象です。労働者と使用者間の紛争であっても、内容が労働契約・使用従属関係と無関係な私的金銭貸借や個人的トラブルは対象外となります。

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最終更新日 2026/05/29

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