労働問題77 問題社員を解雇する際の注意点のうち、最初に理解すべきものを教えて下さい。

この記事の要点

解雇には「客観的に」合理的な理由が必要です。主観的判断では足りません。「仕事ができない」等の抽象的説明では不十分であり、具体的事実と客観的証拠の準備が不可欠です。

「この社員はダメだ」という経営者の主観的判断だけでは解雇できません。解雇の有効性は客観的な証拠によって立証される必要があります。紛争表面化前から具体的な証拠を準備しておくことが不可欠です。

解雇には「客観的に」合理的な理由が必要(労契法16条)

会社経営者の主観的判断だけでは足りません。客観的に合理的な理由を証拠で証明できなければ、解雇は無効とされます。


抽象的説明では不十分:「具体的事実」の立証が必要

「仕事ができない」「勤務態度に問題がある」では足りません。いつ・どこで・誰が・何を・どのようにしたのかという具体的事実を証拠で示す必要があります。


紛争表面化前から客観的証拠を準備しておく

注意指導書・業務日報・面談記録等の客観的証拠を、紛争が表面化する前の段階から準備・整備しておくことが不可欠です。

1. 解雇には「客観的に」合理的な理由が必要

主観的判断だけでは解雇できない

 漠然と会社が解雇を有効と判断すべき事情が多いように思えた場合であっても、問題社員を解雇しても大丈夫だとは直ちにはいえないということには、十分な注意が必要です。

 有効に解雇するためには、解雇に「客観的に」合理的な理由が必要であり(労働契約法16条)、会社経営者が主観的に解雇には合理的な理由があると考えただけでは足りません。「この社員はダメだ」「もう限界だ」という経営者の感覚・印象は、解雇の有効性を支える証拠にはなりません。

解雇権濫用法理の意味

 労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しています。この解雇権濫用法理により、客観的合理的理由と社会通念上の相当性の両方が認められない解雇は無効です。

 「客観的に」という言葉が重要です。第三者(裁判官・労働審判委員)が見ても、解雇理由が合理的であると納得できる程度の事実と証拠が必要です。会社経営者の主観的な評価や印象だけでは、この基準を満たすことができません。

✕ よくある経営者の誤解——解雇前の最も危険な思い込み

「誰が見ても明らかにダメな社員なのだから、解雇して当然だ」→ 証拠がなければ解雇できません。
「明らかにダメ」という感覚は主観的評価であり、第三者(裁判官等)を説得するには客観的証拠が必要です。経営者が「明らかにダメ」と感じる社員でも、証拠がなければ解雇は無効とされる可能性があります。

「周りの社員もみんなあの人はダメだと思っているのだから」→ 証人証言だけでは不十分です。
社員の証言は有力な証拠となり得ますが、それだけでは不十分なことが多いです。業務上の具体的な問題を示す客観的な書類・記録・メール等の証拠が必要です。

2. 「具体的事実」の立証が必要——抽象的説明では不十分

よくある問題——抽象的説明しかできない

 勤務成績・勤務態度等が不良であるというためには、その評価を基礎づける「具体的事実」を立証できなければなりません。しかし、実際には「仕事ができない」「勤務態度に問題がある」「協調性がない」といった抽象的な説明しかできない事例が散見されます。

 解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実を説明できないようでは、大した理由もないのに、何となく気に入らないから解雇しただけなのではないかとの疑いを払拭することができなくなってしまいます。

求められる具体性のレベル

 解雇理由として認められるためには、「いつ・どこで・誰が・何を・どのようにしたのか(5W1H)」を具体的に説明できることが必要です。例えば次のような具体性が求められます。

 ×「仕事ができない」○「○年○月○日に○○業務において、△△という指示をしたにもかかわらず、□□という誤りを犯し、顧客に対して××の損害を与えた」

 ×「勤務態度が悪い」○「○年○月から○年○月の間に、○回の無断遅刻・○回の無断欠勤があり、その都度注意指導したが改善されなかった」

 ×「協調性がない」○「○年○月○日に○○会議において、上司の△△氏に対して『うるさい、黙れ』と暴言を発した。その後○月○日にも同様の言動があり、注意指導書を交付したが改善されなかった」

3. 紛争表面化前から客観的証拠を準備する

証拠は紛争表面化前に準備する

 紛争が表面化する前の時点で、いつ・どこで・誰が・何を・どのようにしたのかを証明するための客観的証拠を準備し、それのどこがどのように問題なのかを具体的に説明できるようにしておく必要があります。

 紛争表面化後では、証拠を遡って作成することはできません(事後的に作成した書類は証拠力が低く、信用性も問われます)。問題社員への対応の初期段階から、記録を残す習慣を身につけることが重要です。

準備すべき客観的証拠の具体例

 解雇に向けて準備すべき客観的証拠の具体例として、①注意指導書(日付・内容・相手方の署名または受領記録)、②業務日報・週報(問題行動の記録が含まれるもの)、③改善計画書・改善状況報告書、④面談記録(日時・参加者・内容を記録した書面)、⑤メール・チャット等の電磁的記録(問題となる言動が記録されているもの)、⑥業績評価記録(低評価の根拠が具体的に記載されているもの)、などがあります。

 問題社員への対応・解雇に向けた証拠整備・解雇の有効性評価について、解雇前の段階から弁護士へのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

・「問題社員を解雇したが、弁護士に相談した際に証拠が全くないことが判明した。『仕事ができない』しか言えず、具体的事実の立証ができなかった。高額の解決金を余儀なくされた」

・「問題社員への対応の段階から弁護士に相談し、注意指導書・面談記録等を整備した。解雇時には具体的な証拠が十分に積み重なっており、相手方弁護士も問題の重大性を認め、低い解決金で合意退職が成立した」

 「客観的に合理的な理由」を証拠で示せるかどうかが、解雇トラブルの解決を左右します。問題社員対応の初期段階から記録を残すことが最大の予防策です。

4. まとめ

 問題社員を解雇する際に最初に理解すべきことは、解雇には「客観的に」合理的な理由が必要であり(労契法16条)、会社経営者の主観的判断だけでは足りないということです。「仕事ができない」「勤務態度に問題がある」「協調性がない」といった抽象的説明では不十分であり、いつ・どこで・誰が・何を・どのようにしたのかという「具体的事実」を客観的証拠で立証できなければなりません。紛争が表面化する前の時点から、注意指導書・面談記録・業務日報等の客観的証拠を準備・整備しておくことが不可欠です。問題社員対応の初期段階から弁護士に相談することが、解雇トラブルを予防する最善策です。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

 

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最終更新日 2026/04/05

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