労働問題942 運送業の皆勤手当・無事故手当は除外賃金になる?会社経営者が知るべき「臨時に支払われた賃金」の判断基準

1. 除外賃金とは何か―割増賃金計算との関係

 運送業において皆勤手当や無事故手当が問題となるのは、それが割増賃金の計算基礎に含まれるかどうかという点です。

 時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金は、「通常の労働時間の賃金」を基礎として算定されます。そして、この基礎賃金から除外できる賃金の範囲は、法律で限定的に定められています。

 この点を定めているのが、労働基準法です。同法は、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金として、通勤手当や家族手当などの一定の賃金を挙げています。その中の一つが「臨時に支払われた賃金」です。

 したがって、皆勤手当や無事故手当が「臨時に支払われた賃金」に該当すれば、割増賃金の計算基礎から除外することが可能です。逆に、該当しなければ、基礎賃金に含めて再計算する必要があり、未払い残業代が発生する可能性があります。

 会社経営者として重要なのは、「手当の名称」ではなく、「その支給実態」が法的評価を左右するという点です。

 皆勤手当や無事故手当が、除外賃金として扱えるのか、それとも割増賃金の算定基礎に含まれるのか。この判断を誤ると、長期間にわたる未払い残業代の問題に発展する可能性があります。

 まずは、除外賃金の基本構造を正確に理解することが、適切な制度設計の出発点となります。

2. 「臨時に支払われた賃金」の法的意味

 皆勤手当や無事故手当が除外賃金に当たるかどうかは、「臨時に支払われた賃金」に該当するかで決まります。

 労働基準法は、割増賃金の算定基礎から除外できる賃金の一つとして「臨時に支払われた賃金」を挙げています。しかし、「臨時」とは単に“毎月必ず支払われない”という意味ではありません。

 実務上重視されるのは、

  • 支給が不確定であること
  • 一時的・突発的な事情に基づくものであること
  • 恒常的・制度的に支給されるものではないこと

といった点です。

 つまり、制度として毎月支給されることが予定されている手当は、たとえ条件付きであっても、原則として臨時性を欠くと評価されやすくなります。

 逆に、実際の出勤状況や事故の発生状況に応じて個別に査定され、毎月必ず発生するとは限らない場合には、「臨時に支払われた賃金」と評価される余地があります。

 会社経営者としては、「皆勤手当」「無事故手当」という名称に安心するのではなく、その支給実態が臨時性を備えているかを検討しなければなりません。

 臨時性の判断は形式ではなく実質です。支給の仕組みが恒常的であれば、割増賃金の計算基礎に含まれるリスクが高まります。この点を誤ると、後に未払い残業代の再計算を迫られる可能性があります。

3. 皆勤手当が臨時賃金に該当するケース

 運送業における皆勤手当が「臨時に支払われた賃金」に該当するかどうかは、その支給実態によって判断されます。

 例えば、

  • 実際の出勤状況を個別に確認し
  • 欠勤や遅刻、早退の有無を具体的に査定し
  • その結果として支給の可否や金額が決定される

といった運用がなされている場合には、支給が不確定であり、一定の臨時性が認められる可能性があります。

 このように、毎月必ず発生するわけではなく、実際の勤務実績に応じて個別判断されるのであれば、「臨時に支払われた賃金」に該当する余地があります。その結果、割増賃金の算定基礎から除外できる可能性が生じます(根拠は労働基準法)。

 一方で、「原則全員に毎月定額を支給し、よほどの事情がない限り減額しない」といった運用をしている場合には、実質的には固定給の一部と評価される危険があります。

 会社経営者として重要なのは、

  • 支給の可否が実際に不確定であるか
  • 査定が形だけになっていないか
  • 記録が残っているか

を確認することです。

 名目上は皆勤手当であっても、実態が恒常的・定額支給であれば、臨時性は否定される可能性があります。

 皆勤手当を除外賃金として扱うのであれば、その支給実態が「例外的・個別的」であることを説明できる体制を整えておくことが不可欠です。

4. 無事故手当が臨時賃金に該当するケース

 無事故手当についても、皆勤手当と同様に「臨時に支払われた賃金」に該当するかは、支給の実態で判断されます。

 例えば、

  • 一定期間内に事故が発生しなかった場合のみ支給する
  • 事故の内容や過失割合を個別に査定する
  • 重大事故の場合は不支給、軽微な事故は減額する

といった具体的な審査を経て支給の可否や金額が決定されている場合には、支給が不確定であり、臨時性が認められる可能性があります。

 このように、事故の有無や内容に応じて個別に判断され、毎月当然に発生するものではない場合には、「臨時に支払われた賃金」と評価される余地があります(根拠は労働基準法)。

 しかし、実務上問題となるのは、「形式的には事故査定をしているが、実際にはほぼ全員に定額で毎月支給している」ケースです。このような運用では、実質的に固定的賃金の一部と評価されるリスクが高まります。

 会社経営者としては、

  • 事故の定義が明確か
  • 査定基準が具体的か
  • 実際に減額・不支給の例が存在するか

を確認する必要があります。

 無事故手当を除外賃金として扱うためには、「事故がなかったことに対する成果報酬」であることが客観的に示されなければなりません。

 名称だけでなく、実際に事故の有無によって支給結果が変動しているかどうかが、法的評価を左右する重要なポイントとなります。

5. 定額一律支給がもたらすリスク

 皆勤手当や無事故手当の名目であっても、毎月定額を一律に支給している場合には、「臨時に支払われた賃金」とは評価されにくくなります。

 例えば、

  • 原則全員に毎月同額を支給している
  • 減額や不支給の実例がほとんどない
  • 査定が形式的で実質的な審査をしていない

といった運用をしている場合、その手当は実質的に固定給の一部と評価される可能性が高まります。

 この場合、当該手当は割増賃金の算定基礎に含まれることになります。割増賃金の計算方法は労働基準法に基づき厳格に定められており、除外できる賃金の範囲は限定的です。

 問題は、会社経営者が「皆勤手当だから除外できるはずだ」と思い込んでいるケースです。実態が定額一律支給であれば、名称は関係ありません。

 仮に除外できる前提で長年計算していた場合、後に未払い残業代が発生していると指摘されれば、過去に遡って再計算を求められる可能性があります。人数が多く、期間が長ければ、金額は相当額に上ることもあります。

 会社経営者としては、「本当に臨時性があるのか」を客観的に検証する必要があります。

  • 実際に不支給や減額の記録があるか
  • 支給が当然視されていないか

を冷静に見直してください。

 定額一律支給は管理が簡便ですが、その代償として未払い残業代リスクを抱え込む可能性があります。制度設計の段階で、実質に即した運用になっているかを再点検することが不可欠です。

6. 名称ではなく実質で判断される理由

 皆勤手当や無事故手当が除外賃金に当たるかどうかは、手当の「名称」では決まりません。判断基準は、あくまで支給の実質です。

 たとえ就業規則や賃金規程に「臨時手当」「特別手当」と記載していたとしても、実態が毎月定額で当然のように支給されているのであれば、臨時性は否定される可能性が高いといえます。

 割増賃金の算定基礎から除外できる賃金の範囲は、労働基準法で限定的に定められています。これは強行規定であり、当事者の合意や名称によって自由に拡張できるものではありません。

 裁判や労基署の調査では、

  • 実際に不支給や減額があったか
  • 査定基準が具体的に運用されているか
  • ほぼ全員に恒常的に支給されていないか

といった実態が詳細に検討されます。

 会社経営者としては、「この手当は除外賃金のはずだ」という思い込みを排し、支給実態が客観的に説明できるかどうかを重視すべきです。

 特に注意すべきなのは、制度設計当初は臨時性があったとしても、運用が緩み、実質的に固定給化しているケースです。このような場合、過去の計算方法が否定されるリスクがあります。

 除外賃金の判断は形式論ではありません。実態がすべてです。会社経営者は、名称に頼るのではなく、実質に即した制度設計と運用を徹底する必要があります。

7. 割増賃金計算への影響と未払いリスク

 皆勤手当や無事故手当が「臨時に支払われた賃金」に該当しないと判断された場合、その手当は割増賃金の算定基礎に含めて再計算する必要があります。

 割増賃金は、通常の労働時間の賃金を基礎として算定されます(労働基準法)。もし本来含めるべき手当を除外して計算していた場合、時間外・休日・深夜の各割増賃金がすべて過少計算となります。

 この影響は想像以上に大きくなります。

  • 対象となる手当が毎月支給されている
  • 時間外労働が多い
  • 対象期間が長い

 という条件が重なれば、差額は相当額に膨らみます。

 さらに、未払い残業代は過去に遡って請求される可能性があります。1名の請求が認められれば、同様の賃金体系で働いている他の運転手にも波及するおそれがあります。

 会社経営者として注意すべきなのは、「手当を除外している」という計算方法自体が争点になるという点です。制度の根幹部分が否定されれば、再計算は広範囲に及びます。

 皆勤手当や無事故手当を除外賃金として扱うのであれば、その法的根拠と実態を説明できなければなりません。説明できないまま運用を続けることは、未払いリスクを内在させた状態で経営を続けることに等しいといえます。

 割増賃金計算は「細かい経理処理」ではありません。誤れば高額請求に直結する、経営上の重要論点です。

8. 実務上の設計ポイントと証拠整備

 皆勤手当や無事故手当を除外賃金として扱いたいのであれば、制度設計と運用の双方を整備する必要があります。名称だけを整えても、防御にはなりません。

 まず重要なのは、支給基準を具体的に明文化することです。

  • どのような欠勤・遅刻で不支給となるのか
  • どの程度の事故で減額・不支給となるのか
  • 査定の判断権者は誰か

 これらを就業規則や賃金規程に明確に定めておく必要があります。

 次に、実際に査定を行い、その結果を記録として残すことです。不支給や減額の実例が存在しなければ、臨時性の主張は弱くなります。

 割増賃金の算定基礎から除外できる賃金の範囲は、労働基準法で限定的に定められています。そのため、除外を主張する側である会社が、臨時性を立証できる状態にしておかなければなりません。

 また、給与明細上も手当の性質が明確に分かるよう区分表示しておくことが望ましいでしょう。基本給と混在させれば、固定給化しているとの評価を受けやすくなります。

 会社経営者としては、「実際に臨時性がある制度」になっているかを常に点検する必要があります。制度は設計時よりも、運用の中で変質していくものです。

 制度設計・査定運用・記録保存。この三点が揃って初めて、除外賃金としての主張に現実味が生まれます。準備のないまま除外している状態は、将来の未払いリスクを抱えている状態にほかなりません。

9. 制度見直しの際の注意点

 皆勤手当や無事故手当の扱いを見直す場合、拙速な制度変更はかえって紛争の火種となります。会社経営者としては、慎重かつ計画的に進める必要があります。

 第一に、現行制度の実態を正確に把握してください。

  • 過去に不支給・減額の例はあるか
  • 実質的に毎月全員に支給されていないか
  • 査定が形骸化していないか

 これらを検証せずに「臨時賃金だ」と主張しても、防御は困難です。

 第二に、制度変更を行う場合には、不利益変更の問題に注意が必要です。手当の支給条件を厳格化したり、金額を減額したりする場合には、合理性や手続の適正が問われます。

 第三に、過去分の取扱いをどう整理するかも重要です。現行制度が実質的に固定給化している場合、将来に向けて修正することは可能でも、過去分の計算が否定されるリスクは残ります。

 割増賃金の算定基礎の問題は、労働基準法の強行規定に直結します。形式的な書き換えでは解決しません。

 会社経営者としては、「除外できるか」という一点に固執するのではなく、

  • 制度を臨時性のある形に再設計する
  • あるいは基礎賃金に含める前提で割増計算を行う

 という二つの選択肢を比較検討すべきです。

 中途半端な運用が最も危険です。見直すのであれば、法的評価に耐え得る形にまで整理する覚悟が必要です。

10. 会社経営者が今すぐ確認すべきチェック事項

 皆勤手当や無事故手当が除外賃金に当たるかどうかは、理論の問題ではなく、実態の問題です。会社経営者として、直ちに次の点を確認してください。

 ① 支給が本当に不確定か

  毎月当然のように支給されていないか。実際に不支給・減額の例が存在するかを確認してください。

 ② 査定基準が具体的か

  欠勤や事故の定義、減額基準が明確に定められているか。形式的な規定にとどまっていないかを点検してください。

 ③ 記録が残っているか

  査定結果や不支給の判断経過を証拠として提示できる状態かどうかが重要です。

 ④ 給与明細上の表示が適切か

  基本給と混在していないか。恒常的支給と誤解される構造になっていないかを確認してください。

 ⑤ 割増賃金の再計算リスクを試算しているか

  仮に基礎賃金に含めた場合、どの程度の差額が生じるのかを把握しておくことが経営判断上不可欠です。

 割増賃金の算定基礎から除外できる賃金の範囲は、労働基準法によって厳格に限定されています。名称で逃げ切ることはできません。

 会社経営者に求められるのは、「除外できるはずだ」という希望的観測ではなく、「裁判や労基署の場で説明できるか」という視点です。

 制度は放置すれば固定給化し、臨時性を失っていきます。今のうちに実態を点検し、必要であれば設計を見直すことが、将来の高額な未払い残業代請求を防ぐ最善の対応です。

 

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最終更新日2026/2/15

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