労働問題943 退職金前払制度の前払退職金は除外賃金にならない【会社側弁護士が解説】
退職金を毎月の給与に上乗せして支払う「退職金前払制度」を導入している会社では、その前払退職金が残業代(割増賃金)の計算基礎に含まれるかどうかという問題が生じます。判断を誤ると、社員から残業代の差額請求を受けるリスクがあります。
本記事では、退職金前払制度の前払退職金が「除外賃金」に該当するかどうかを、使用者側専門の弁護士が法的根拠とともに実務的に解説します。
01割増賃金の「除外賃金」とは何か
割増賃金(残業代)の計算基礎となる賃金には、すべての賃金が含まれるわけではありません。労基法37条5項および労基法施行規則21条は、以下の賃金を計算基礎から除外できると定めています。
除外できる賃金は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)の7種類に限定されています。会社が任意に「この手当は除外する」と決めることはできません。
退職金前払制度の前払退職金がこの除外賃金に該当するかどうかは、「臨時に支払われた賃金」に当たるかどうかがポイントになります。
02「臨時に支払われた賃金」の意味
「臨時に支払われた賃金」とは、次の2類型を指します。
第1は、臨時的な事由に基づいて支払われるものです。事業の状況や特別な事情によって発生する賃金がこれに当たります。第2は、支給条件があらかじめ確定しているものの、支給事由の発生が不確定でかつ非常にまれにしか生じないものです。結婚手当や出産手当がその典型例です。
一般的な退職金は、退職という事由が発生した時点で初めて支払われ、毎月定期的に支払われるものではないため、「臨時に支払われた賃金」に該当し、除外賃金となります。
03退職金前払制度の前払退職金は除外賃金にならない
問題となるのは、退職金を毎月の給与とともに分割して支払う「退職金前払制度」の場合です。
退職金前払制度による各月の前払退職金は、在職中は毎月確実に支給される賃金です。支給事由の発生が「まれ」とも「不確定」とも言えず、臨時性の要件が否定されます。したがって、退職金前払制度による各月の前払退職金は「臨時に支払われた賃金」には該当せず、割増賃金の計算基礎から除外することができません。
この点は厚生労働省の行政解釈でも明確にされており、前払退職金を除外賃金として扱って残業代を計算している会社は、差額の支払請求を受けるリスクがあります。
04退職金前払制度を導入する場合の注意点
退職金前払制度を採用する場合、前払退職金が割増賃金の計算基礎に含まれることを前提に、残業代の計算を行う必要があります。特に、前払退職金を月給の一部として支払っている場合、月給の総額が増えることで基礎賃金が上がり、支払うべき残業代も増加します。
また、前払退職金を含む月給総額から除外賃金を差し引いた上で基礎賃金を計算することが求められるため、給与規程・就業規則に前払退職金の位置づけを明記し、残業代計算のルールを整備しておくことが重要です。
退職金前払制度の設計・運用に不安がある場合は、給与体系の適法性確認も含めて弁護士に相談することを推奨します。
05除外賃金の誤りが生む残業代リスク
除外賃金の判断を誤ることは、残業代の過少計算につながり、後日多額の差額請求を受ける原因になります。除外賃金として扱えるのは法定の7種類に限られており、会社が独自に「この手当は除外する」と決めることはできません。
特に、名称だけで判断する誤りが多く見られます。「家族手当」という名称でも一律定額支給であれば除外できない、「住宅手当」でも定額支給なら除外が認められない、といったケースが典型例です。
給与体系を設計・見直す際は、除外賃金の法的要件を踏まえた検討が不可欠です。使用者側の弁護士に事前に確認することで、リスクを未然に防ぐことができます。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
06よくある質問
Q1. 退職金前払制度を導入すると、毎月の残業代が上がりますか?
A. はい、前払退職金は割増賃金の計算基礎に含まれるため、前払退職金の分だけ基礎賃金が増加し、支払うべき残業代も増えます。制度導入前に労務コストのシミュレーションを行うことが重要です。
Q2. 退職金の一部前払いではなく、退職金を廃止して相当額を月給に組み込む場合は?
A. 退職金を廃止して月給に組み込む場合も、その分が月給として毎月支払われることになるため、割増賃金の計算基礎に含まれます。就業規則の変更手続きと、社員への十分な説明・合意取得が必要です。
Q3. 賞与(ボーナス)は除外賃金になりますか?
A. 「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」は除外賃金に含まれますが、これは3か月・6か月等の周期で支払われる場合に限られます。毎月支払われる賞与的な手当は除外できません。また、業績連動型でも毎月支払われるものは除外賃金になりません。
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最終更新日:2026年5月10日