運送業の残業代請求対応

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運送業はなぜ残業代請求を受けるリスクが高いのか

 運送業では、長距離運転があったり、手待時間が長くなったり、労働時間管理が難しいこと等から、労働時間が長くなりがちで、残業代も多額になる傾向にあります。少額の残業代しか取れないのであれば、会社と争っても仕方がないと考え請求しないかもしれませんが、何百万円といった多額の金銭を取得できるのであれば、会社経営者との関係が悪化したとしても残業代を取得できた方がいいと考えるドライバー運転手が出てくるのも、無理はありません。以前は、残業代の時効は2年でしたが、2020年4月1日以降の給料日に関する残業代については、時効期間が3年に延びていることも、見逃すわけにはいきません。運送会社の経営者は、残業代請求を受けるリスクがますます高まっているという意識を持つ必要があります。
 運送業では、従来、ドライバーの自営業者的意識が強く、ドライバーに残業代を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にありました。しかし、近年では、残業代請求に関するドライバーの意識が大きくわってきています。ドライバーに対し弁護士に依頼して未払残業代請求をするよう促す広告も増えており、「○○さんは弁護士に依頼して○百万円も残業代を払ってもらったらしい」などとドライバー同士で情報交換しているうちに、自分も残業代が欲しくなる運転手が増えてきていても、不思議ではありません。残業代を請求する側からすれば、労基法で認められた正当な権利を行使しているだけなのですから、「法律を守らない会社が悪い」と自分を納得させることもできます。
 私は、
 ① 運送業では未払残業代の額が高額になりがちなこと
 ② 残業代請求に対するドライバーの意識が大きく変わってきたこと
の2つが、運送業で残業代請求を受けるリスクが高い主な理由だと考えています。

運送業を営む会社が残業代を支給する際の注意点

 運送業を営む会社が残業代を支給する場合、残業代の趣旨で支払われる賃金であることを明確に定めて支給し、その金額で足りているかを判断できるようにしておくことが必要です。
 残業代の趣旨で支払われる賃金であるかどうか分からないと、残業代の支払とは認めてもらえませんので、「時間外勤務手当」、「休日勤務手当」、「深夜勤務手当」などといった、残業代だということが明らかな名目で残業代を支払うことが望ましいといえます。「業務手当」、「配送手当」、「長距離手当」、「特別手当」などといった、手当の名称から残業代とは判断できない名目の手当であっても、賃金規程や労働条件通知書でそれらが残業代であることを明記しておけば、残業代の支払として認められることもありますが、残業代だということが明らかな名称で残業代を支払った場合と比較すると、残業代の支払と認められないリスクが高まることは、覚悟しなければなりません。
 支払われている残業代で足りているのかどうかを判断できるというためには、残業代として支払われた「金額」が分かるようにしておかなければなりません。残業代の趣旨で支払われる賃金は、基本給や何らかの手当てに「含む」という形で支払うのではなく、「金額」を労働契約の内容とするとともに、給与明細書でも金額を明示することをお勧めします。
 残業代の趣旨で支払われる賃金であることを明確に定めて支給し、その金額で足りているかを判断できるようにしていたとしても、当該賃金の算定方法などを理由として、当該賃金が残業ではないと判断されることもあります。例えば、歩合給のような計算方法で計算した賃金を賃金規程などで残業代と定めたとしても、残業代の支払とは認めてもらえず、歩合給と認定されることがあるということです。そうならないようにするためには、残業時間の長さに応じて支払われる賃金であることが分かるようにしておけば、残業代の趣旨で支払われる賃金と評価されやすくなります。固定残業代(みなし残業・定額残業代)を採用する場合は、固定残業代(みなし残業・定額残業代)の額で足りている限り残業時間の長さに応じて残業代が支払われないことになりますが、不足額がある場合に不足額を追加で支払うことにより、この問題をクリアすることができます。

業務手当,配送手当,長距離手当等は残業代と認められるのか

 運送業を営む会社においては、日当等の基本給のほかに、業務手当、配送手当、長距離手当等の手当が支払われていることがあります。これらの手当の支払は、その日本語の意味を考えた場合、直ちに残業代の趣旨を有していると評価することはできません。これらの手当が残業代の趣旨を有していると評価されるためには、最低限、賃金規程にその旨明記して周知させておくか、労働条件通知書等に明記して就職時に交付しておくなどの対応が必要となります。「口頭で説明した。」では勝負になりません。これらの手当が残業代の趣旨を有していることが客観的証拠からは読み取れない場合は、新たに同意書や確認書等を作成したり、賃金規程を変更したりして、これらの手当が残業代の趣旨を有していることを明確にする必要があります。
 業務手当、配送手当、長距離手当といった名称の手当を残業代の趣旨で支払う旨の定めがあったとしても、時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当といった名称の手当と比較すると、残業代の趣旨で支払われる手当ではないと評価されるリスクがやや高くなることは否定できません。残業代の趣旨で支払う手当は、できる限り、時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当といった、残業代の趣旨で支払われる手当であることが明白な名称で支払うことをお勧めします。
 なお、不足額がある場合に不足額を追加で支払っている実態があるなど、残業時間の長さに応じて支払われる賃金であることが実態からもいえるようにしておけば、残業代の趣旨で支払われる賃金と評価されやすくなります。不足額がある場合は、その都度、不足額を支払うようにしておきましょう。

運送業の労働時間管理のポイント

 運送業を営む会社の特徴は、ドライバーが事業場を離れて運転業務に従事することが多いため、出社時刻と退社時刻の確認を除けば、現認による勤務状況の確認が事実上不可能な点にあります。したがって、出社時刻と退社時刻を日報などに記録させるのは当然ですが、会社経営者の目の届かない取引先や路上での勤務状況、労働時間の把握が重要となってきます。
 特に問題となりやすいのが、休憩時間の把握です。一般的には、ドライバー本人に日報等に休憩時間を記載させて把握するのが現実的な対応と思われますが、ドライバーは出社時刻と退社時刻については日報等に記入してくれるものの、休憩時間については日報等への記入を怠る傾向にあります。おそらく、出社時刻と退社時刻さえ明らかにできれば、自分の勤怠、労働時間の始期と終期が分かることから、休憩時間をいちいち書き込むモチベーションが働かないからだと思われます。
 しかし、ドライバーに必要な休憩を与えることは、使用者の義務であり、所定の休憩を取得できていない場合には、休憩を取得することができるよう配慮しなければなりません。また、一般に、労働時間は、その日の出社時刻と退社時刻から休憩時間を差し引いて計算されますので、休憩時間を的確に把握できなければ労働時間を的確に把握することもできません。残業代請求訴訟においては、ドライバーが休憩時間をそれなりに取ることができていた場合でも、「休憩を全く取ることができていなかった。」と主張されことも珍しくありません。会社経営者は、ドライバー本人が望んでいるかどうかにかかわらず、休憩時間を日報等にしっかり記入させ、労働時間を管理していかなければなりません。
 具体的には、
 ① 日報等に何時から何時までどこで休憩時間を取得したのかを記入する欄を設けた上で、
 ② 休憩時間をしっかりと記入するよう粘り強く指導していく
ことになります。
 ①は、簡単にできることですので、日報等に休憩時間の記載欄がない場合は、すぐにでも日報等のひな形を作り直しましょう。
 ②は、根気の勝負です。会社経営者が注意指導を億劫がっていたのでは、いつの間にか運転手が休憩時間を記入しなくなってしまうことになりかねません。

ドライバーが休日にも働いてもっとお金を稼ぎたいと言ってきた場合の対応

 ドライバーの中には、休日も休まずに働いてお金を稼ぎたい、毎日働かせてくれなければ退職して他の会社に就職する、などと言って休日労働を要求してくる者もいます。意欲は買いますが、ドライバーも労働者である以上、労働時間には上限規制がありますし、使用者にはドライバーの健康に配慮する安全配慮義務がありますので、本人がもっと働きたいといっているからといって、ドライバーに求められるがままの勤務を容認するわけにはいきません。ある程度までであれば、ドライバーの要望に応じても構いませんが、度を越して働きたいという希望を押し通そうとするドライバーについては、断固として拒絶する必要があります。ドライバーの希望が通らなかった結果、転職してしまうドライバーも出てくるかもしれませんが、やむを得ない判断と割り切るべきでしょう。
 時間外割増賃金は、1日8時間を超えて働かせたときだけでなく、週40時間を超えて働かせた場合にも支払う必要があります。つまり、週6日以上働かせた場合には、6日目は朝から時間外労働となり、時間外割増賃金の支払が必要となる可能性があります。また、週1日は法定休日となりますので、7日続けて働かせれば、休日割増賃金を支払う必要も出てきます。残業代請求対策の観点からも、休日労働はできるだけ抑制するのが望ましいといえます。

給料日まで生活費がもたないからお金を貸してほしいと言ってくるドライバーへの対応

 運送業を営む会社においては、給料日まで生活費がもたないからお金を貸してほしいと言ってくるドライバーは珍しくありません。従来、ドライバーの要望に応じてお金を貸し付け、給料から天引きして返してもらうということが多かったようですが、労働問題を主に扱っている会社経営者側の弁護士の目から見て、あまりお勧めできません。
 一般論として「友達にお金を貸してはいけない」、「お金の切れ目は縁の切れ目」とよく言われるのには、それなりの理由があります。お金を貸したら利害が対立してしまい、良い関係でいるのは難しくなり、残業代請求などの紛争を誘発します。お金を貸していた運転手が退職する際に、貸したお金を返してほしいと伝えたところ、借金を踏み倒す目的で残業代請求を受けたというケースは珍しくありません。これでは、残業代請求を誘発するためにお金を貸していたようなものです。多額の未払残業代を支払わされた場合には、会社からの支払を原資として貸金を返済してもらえることもありますが、このような結末を会社経営者が望んでいるはずはありません。
 そもそも、お金を貸してほしいと言ってくる時点で、お金にだらしなく、金銭面で信用できないことが分かります。通常であれば、家族にお金の工面をしてもらったり、銀行からキャッシングするなどして対応することができるはずですし、信販会社や消費者金融からキャッシングすることもできるはずです。消費者金融ですらお金を貸さないような運転手に、金融の素人である会社がお金を貸したら、どのような結末になるのかは容易に予測することができます。ドライバーが、お金を貸してくれないなら退職すると言って本当に転職してしまったとしても、お金にだらしないドライバーがいなくなってかえって良かったと割り切るくらいの心構えが必要だと思います。
 人手不足対策などから、どうしても、ドライバーにお金を貸してあげなければならなくなった場合の注意点をお話しします。貸したお金を給料からの天引きで返してもらう場合は、借用書などで返済を合意するだけでは足りず、賃金控除の労使協定を締結しておく必要があります。借用書があったとしても、賃金控除協定を締結せずに給料から返済金を天引きすることは労基法違反です。会社には、天引した金額を支払う義務が生じてしまいます。
 ドライバーに対してお金を貸すことで、かえって、会社がトラブルに巻き込まれることは、珍しくありません。踏み倒される覚悟でお金をドライバーに貸すのであればともかく、貸したお金を返してもらいたいのであれば、弁護士に相談しながらプランを練ることをお勧めします。

 


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