能力が極端に低く仕事ができない。
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能力不足とは感覚的な評価ではなく、労働契約との関係で整理されるべき概念であり、「仕事ができない」は評価であって事実ではない 評価をそのままぶつけるのではなく、評価の根拠となる事実に落とし込んで説明することが出発点です。 |
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記録を積み重ねながら教育指導・配置転換を段階的に行い、それでも改善しなければ退職勧奨を検討する 「辞めさせたいかどうか」ではなく「会社としてやるべきことを尽くしたか」が判断の軸になります。 |
目次
会社を経営していると、「どう見ても仕事ができない」「何度説明しても理解しない」と感じる社員に直面することは、決して珍しいことではありません。問題は能力の高低そのものではなく、その状態に対して会社としてどのように向き合い、どのような管理を行っているかにあります。
本記事では、能力不足の社員への対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。
01能力不足という概念の整理|労働契約との関係
能力不足とは感覚的な評価ではなく、労働契約との関係で整理されるべき概念です。「期待していた水準に達していない」という印象だけで、直ちに問題社員と位置付けることはできません。労働契約において社員が負っているのは、「結果を必ず出す義務」ではなく、「契約上予定されている業務に誠実に取り組む義務」です。したがって、会社経営者が求める理想像とズレがあるからといって、直ちに契約違反になるわけではありません。
重要なのは、「その社員は、契約上予定されている業務を、会社が求める水準で遂行できているのか」という視点で整理することです。能力不足を問題として扱うためには、業務内容、求めるレベル、指示や教育の内容が明確になっている必要があります。能力不足とは主観的な不満ではなく、契約関係の中で初めて意味を持つ概念であることを、まず正しく理解しておく必要があります。
02能力不足の立証の難しさと、事実に基づく説明
日本の労務実務においては、能力不足を理由に不利な処遇や雇用終了へ直結させることは簡単ではありません。その最大の理由は、能力不足が主観的な評価になりやすく、客観的に立証することが難しい点にあります。「仕事が遅い」といった評価は、比較対象や基準が曖昧なままでは単なる印象論と受け取られかねず、本人からは「必要な指示や教育がなかった」と反論する余地が残ります。
「仕事ができない」という表現は、あくまで評価であって、法的にも実務的にもそのままでは根拠として不十分です。どの業務で、どの指示を出し、どのような結果になったのか。その積み重ねがあって初めて、「この業務については、会社が求める水準に達していない」という説明が可能になります。
能力不足の問題に向き合う際、最初に意識すべきなのは、「評価」ではなく「事実」を起点に説明しているかどうかです。例えば「〇月〇日の案件について、報告期限を〇日と指示したが、〇日遅れて報告があった」といった具体的事実に落とし込むことで、初めて本人も状況を客観的に理解できるようになります。「分かってほしい」「察してほしい」という姿勢を捨て、事実を一つひとつ積み上げて説明することが、能力不足問題に向き合うマネジメントの出発点です。
03記録の重要性と教育指導・マイクロマネジメント
「何度も指導してきた」と感じていても、それが記録として残っていなければ、後になって会社側の主張を裏付ける材料にはなりません。口頭で注意した内容、業務指示の内容、期限、結果、改善が見られなかった事実などは、簡潔でも日時とともに残しておくことが重要です。記録は「処分のため」ではなく「適切に対応してきた経過を示すため」に残すものであり、配置転換や退職勧奨といった判断の合理性を裏付けることにもつながります。
能力不足が疑われる社員に対しては、教育指導によって改善の余地があるのかをまず検討します。ただし、この教育指導は「頑張れ」といった抽象的なものでは足りません。業務内容を細かく区切り、何をどの順番で、どの水準まで求めているのかを明確に伝える必要があります。この段階では一定程度のマイクロマネジメントもやむを得ません。業務の進め方を細かく確認し、途中経過を報告させ、ズレがあればその場で修正する。教育指導と感情的な叱責を混同せず、あくまで業務水準に到達できるかどうかを見極めるプロセスとして位置付けてください。
04配置転換と周囲の社員への配慮
教育指導やマイクロマネジメントを一定期間行っても改善が見られない場合、次に検討すべきなのが配置転換や業務変更です。能力不足の問題は「本人が悪い」という話ではなく、現在の業務内容と本人の適性が合っていない可能性として捉える必要があります。業務の性質を見直し、「その人にしかできない仕事」ではなく「その人でも安全にできる仕事」に切り替えることで、トラブルを抑えられる場合もあります。配置転換は「左遷」や「懲罰」ではなく、会社全体のリスクを下げるための経営判断です。
能力不足の社員を長期間同じ業務に置き続けた場合、見落とされがちなのが周囲の社員が消耗していくリスクです。フォローや修正を繰り返す立場にある社員ほど「なぜ自分だけが負担を負わなければならないのか」という不満を抱きやすくなり、優秀な社員ほど疲弊して離職につながることもあります。「もう少し様子を見よう」という判断が誰にどのような影響を与えているのかを可視化し、能力不足問題は当該社員だけの問題ではなく組織全体の問題であるという視点を持つことが重要です。
05退職勧奨・試用期間中の対応を含む総括判断
教育指導、マイクロマネジメント、配置転換といった対応を段階的に行っても、なお業務水準に達せず周囲への悪影響も解消されない場合、退職勧奨を検討すべき局面に入ります。退職勧奨はあくまで本人の同意を前提とするものであり、これまでにどのような業務を任せ、どのような指導や配置転換を行い、それでも改善が見られなかったのかを、事実に基づいて丁寧に説明できる状態を作っておく必要があります。「能力が低いから辞めさせたい」という感情的な発想ではなく、「この会社では安全かつ安定して任せられる業務がない」という整理を、冷静に伝えることが重要です。
能力不足の問題が試用期間中に明らかになっている場合、本採用拒否や解雇には通常解雇と比べれば一定の裁量が認められますが、「思っていたより仕事ができなかった」という主観的な理由だけでは正当化されるとは限りません。どのような業務を任せ、どのような指導を行い、それでもどの点が水準に達しなかったのかを、事実として説明できる必要があります。
業務内容の明確化、具体的な指導、記録の蓄積、教育や配置転換といった段階的な対応を行ったうえで改善が見られない場合には、「この会社では適切に活かせる業務がない」という結論に至ることもあります。求められるのは「辞めさせたいかどうか」ではなく「会社としてやるべきことを尽くしてきたか」という視点であり、この段階に進む場合には必ず事前に弁護士へ相談してください。
06よくある質問(FAQ)
Q. 「能力不足」を理由に即座に解雇することは可能ですか。
極めて困難です。日本の労働法制では、能力不足を理由とする解雇が認められるためには、具体的な業務上の支障、十分な教育指導、配置転換の検討など、改善の機会を尽くしたことが客観的な事実として求められます。
Q. 能力が低い社員に対し、賃金(基本給)を大幅に下げることはできますか。
一方的な賃金減額は原則として認められません。就業規則に基づいた適正な人事評価の結果としての昇給停止や、役職定年に伴う変更、あるいは配置転換による諸手当の変更など、段階的かつ合理的なプロセスが必要です。
Q. 指導の記録はどの程度詳しく残すべきですか。
「いつ」「誰が」「どの業務について」「どのような指示を出し」「その結果がどうであったか」を具体的に残すことが重要です。日記形式やメールの送信履歴、面談記録など、日時が確定できる客観的な証拠が後のトラブルを防ぐ鍵となります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。能力不足社員への対応・記録の残し方でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年7月7日