動画解説

本記事の内容は、代表弁護士 藤田進太郎が動画でも解説しています。「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)では、問題社員対応の実務を継続的に配信しています。

この記事の結論
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社員の私生活は原則として会社の支配・管理の外にあり、刑事事件を起こしたという事実だけで直ちに処分できるわけではない

例外が認められるのは、会社の社会的評価や職場秩序に具体的な悪影響が生じている場合に限られます。

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会社への具体的影響を整理し、欠勤・休職・配置転換といった選択肢を段階的に検討したうえで、懲戒処分・解雇の相当性を判断する

感情的な制裁ではなく、経営判断として位置付け、判断過程を記録として残しておくことが重要です。

 社員が私生活において刑事事件を起こしたと聞いたとき、会社経営者としては強い衝撃を受けるのが通常です。しかし、この場面で最も重要なのは、感情的に動かず、会社としての基本スタンスを冷静に整理することです。

 本記事では、社員が私生活で刑事事件を起こした際の会社対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。

01私生活不干渉の原則と例外|会社の基本スタンス

 社員が私生活で刑事事件を起こした場合、必ず押さえておくべき原則が「私生活不干渉の原則」です。労働契約は業務提供を中心とする契約であり、社員の私生活すべてを会社が管理・評価できるわけではありません。この原則を軽視すると、会社の対応が直ちに違法・無効と評価されるリスクがあります。たとえ刑事事件を起こしたとしても、それが業務と無関係であり会社の信用や職場秩序に影響を及ぼさないのであれば、会社が懲戒処分や解雇に踏み込むことは原則として許されません。

 もっとも、この原則には例外があります。事件の内容が社会的に強い非難を受けるものである場合や、社員の立場・職務内容から会社の名誉や信用に直結する場合には、私生活上の行為であっても会社対応が問題となり得ます。「原則」と「例外」を感覚ではなく、影響の有無という視点で切り分けることが、この問題に対応するうえでの基礎になります。

02会社への影響整理と最初に行うべき事実確認

 私生活不干渉の原則があるとはいえ、会社に実害が及んでいる場合まで何も対応できないわけではありません。事件が報道され会社名や社員の所属が特定されている場合、取引先からのクレームや契約見直しといった具体的な影響が生じることがあります。「世間体が悪い」といった感覚論ではなく、取引先の反応、社内の混乱、業務への支障など、具体的な事実を積み上げて初めて、会社としての対応を検討する土台が整います。

 刑事事件を起こしたという情報を得た場合、会社経営者がまず行うべきなのは処分の検討ではなく事実確認です。「いつ、どこで、どのような行為があったのか」「逮捕・勾留・起訴の有無」など、客観的に把握できる事実を整理してください。有罪か無罪かを会社が判断する必要はなく、あくまで現時点で分かっている事実関係を整理することが目的です。本人への聞き取りも「業務への影響を判断するために必要な確認である」という立場を明確にしたうえで、冷静に行う必要があります。

03出勤できない場合の労務管理|欠勤・休職・起訴休職制度

 逮捕・勾留により社員が物理的に出勤できない状態になった場合、感情論ではなく労務管理上の整理を優先する必要があります。逮捕や勾留によって出勤できない場合、原則として労務の提供は不可能であるため、この期間を通常勤務として扱うことはできず、欠勤として整理するのが基本になります。有給休暇についても、本人からの申請がない限り自動的に充当することはできません。出勤できない理由が刑事事件であったとしても、特別な処罰的扱いをせず、「労務提供ができない」という事実に基づき欠勤として整理する一貫した姿勢が重要です。

 勾留が長期化する場合や復帰の見通しが立たない場合、欠勤のまま放置することは現実的ではありません。就業規則に定めがあれば、休職制度の適用を検討することが合理的な選択肢になります。一方で「刑事事件を起こしたから解雇できる」と短絡的に普通解雇へ進むことは危険で、長期にわたり労務提供が不可能であり雇用を継続することが困難であるという客観的事情が必要です。

 社員が起訴された場合には、いわゆる起訴休職制度も検討対象になります。就業規則に起訴を理由とする休職規定がある場合、感情的な処分に走らず制度に基づいて整理できる点が大きなメリットです。ただし、起訴休職を懲戒処分の代替として使わないことが重要で、あくまで労務提供の適否や会社への影響を整理するための制度として運用してください。

04出社可能な場合の適性配置・自宅待機と、懲戒処分・解雇判断の構造

 逮捕・勾留を解かれ形式的には出社可能な状態にある場合でも、「そのまま元の業務に就かせてよいか」は別問題です。事件内容や社会的反響によっては顧客対応や対外的な業務に就かせることで会社の信用を損なうおそれがあり、業務内容を限定した適性配置や一定期間の自宅待機を命じる判断も検討に値します。自宅待機は懲戒ではなく業務上の必要性に基づく措置として位置付け、期間や目的を明確にしないまま続けると「実質的な懲戒処分だ」と評価されるリスクがある点に注意してください。

 懲戒処分や解雇が有効と認められるためには、私生活上の行為であっても、それが会社の秩序、名誉信用、業務遂行に具体的な悪影響を及ぼしている必要があります。「犯罪を起こしたのだから処分できるはずだ」という直感的な発想は危険で、事件の重大性だけでなく社員の職務内容や社会的立場、会社との関連性を総合的に考慮する必要があります。処分の重さを判断する際は、①事件の内容・重大性、②社会的な報道状況、③社員の職務内容や立場、④会社の業種・規模、⑤実際の業務・取引先への影響、といった要素を総合的に考慮し、判断過程を記録として残しておくことが不可欠です。

05退職金・合意退職の実務対応と総括判断

 懲戒解雇や普通解雇の判断が難しい場合、現実的な選択肢として浮上するのが合意退職(退職勧奨)という整理です。「雇用関係をどのように収束させるのが最もリスクが低いか」という視点で考える必要があります。退職金の扱いは重要な交渉要素であり、懲戒解雇に該当しない限り当然に全額不支給とできるわけではありませんが、事件の内容や会社への影響を踏まえ、一定の減額や支給条件を提示したうえで合意を目指す実務対応も多くの会社で採られています。退職勧奨が強要や圧力と評価されないよう、「辞めなければ不利な処分をする」といった示唆は避け、本人の意思決定に委ねる姿勢を保つ必要があります。

 社員が私生活で刑事事件を起こした場合、求められるのは「厳しく処分すること」ではなく、「会社として何ができ、何をすべきでないか」を冷静に見極めることです。①事実確認を丁寧に行い、②会社への具体的影響を整理し、③欠勤・休職・配置・処分といった選択肢を段階的に検討してきたかどうかがすべての土台になります。最終的に雇用継続が難しいと判断する場合であっても、その結論に至るまでの経過を説明できる状態を作っておくことが、会社経営者自身を守る最大のポイントです。この段階に進む場合には、必ず事前に弁護士へ相談してください。

06よくある質問(FAQ)

Q. 社員が逮捕された場合、即座に懲戒解雇にできますか。

即座の懲戒解雇は極めて高い法的リスクを伴います。私生活上の行為は原則として懲戒の対象になりません。解雇が有効となるには、事件が会社の社会的評価を著しく毀損した、あるいは業務遂行に重大な支障を来したという客観的事実が必要です。

Q. 逮捕されて出勤できない期間の給与はどうなりますか。

「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、欠勤期間中の給与を支払う必要はありません。本人の申請がない限り、会社側が勝手に有給休暇を消化させることもできません。まずは欠勤として処理し、勾留が長期化する場合は休職制度の適用を検討します。

Q. 釈放された社員を、判決が出るまで自宅待機させてもよいでしょうか。

業務上の必要性(顧客への影響回避や証拠隠滅防止など)があれば命じることは可能です。ただし、懲戒処分としての自宅待機ではなく、業務命令としての自宅待機とする場合、原則として待機期間中の賃金(休業手当等)の支払いが必要になる点に注意が必要です。

経営上のポイント 社員の私生活は原則として会社の支配・管理の外にあり、刑事事件を起こしたという事実だけで直ちに処分できるわけではありません。まず事実確認を丁寧に行い、会社への具体的影響を整理したうえで、欠勤・休職・起訴休職・配置転換といった選択肢を段階的に検討してください。懲戒処分・解雇はあくまで最終手段であり、経営判断として位置付け、判断過程を記録として残すことが重要です。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。懲戒処分・私生活上の問題への対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月7日


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