動画解説

本記事の内容は、代表弁護士 藤田進太郎が動画でも解説しています。「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)では、問題社員対応の実務を継続的に配信しています。

この記事の結論
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横領や不正受給は特定の社員の資質だけで生じるものではなく、職場環境や管理体制の影響を強く受ける

不正を起こさせない仕組みを整えることも、会社経営者に求められる責務の一つです。

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発覚直後は証拠収集と聴き取り調査を丁寧に行い、返還方法・懲戒処分・刑事告訴の要否を段階的に検討する

初動を誤ると後から立て直すことが難しくなるため、感情的な対応は避ける必要があります。

 社員による横領や通勤手当等の不正受給が発覚した際、多くの会社経営者は「まさかうちの会社で」と感じられます。しかし、この受け止め方にとどまってしまうと、同様の問題を繰り返すリスクを抱え続けることになりかねません。

 本記事では、社員の横領・不正受給への対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。

01横領・不正受給を「起き得るもの」として捉える経営責任

 横領や不正受給は、特定の社員の資質だけで生じるものではなく、職場環境や管理体制の影響を強く受けるものと考えられています。人は、常に強い倫理観だけで行動するとは限りません。厳格に管理され、不正をしようとしてもできない環境であれば手を出さない人であっても、簡単に不正ができそうな状況があれば、手を染めてしまうことがあります。これは特定の社員の問題というより、環境の問題として捉える必要があります。

 会社経営者の役割は、不正行為を行った社員を処分することにとどまりません。そもそも不正を起こしにくい仕組みを整えていたのかという視点を持つことも、経営上の重要な責務です。厳格な管理体制は、社員を疑うためのものというより、社員を安易な不正に手を染めさせないという意味で、社員自身を守る側面も持ち合わせています。会社経営者としては、横領や不正受給を「起き得るもの」として捉え、その前提で会社をどう設計していくのかという視点を持つことが、適切な初動対応の出発点になります。

02発覚直後の初動対応|証拠収集と聴き取り調査の実務

 横領や不正受給の疑い、あるいは事実が発覚した直後、まず優先すべきは、冷静に状況を把握し、その後の対応を誤らないための土台を整えることです。感情的な対応は、証拠の散逸や証拠隠滅を招くおそれがあるため避ける必要があります。まず行うべきなのは、関係する金銭や備品、データに当該社員がこれ以上触れられない状況を作ることです。業務分掌の一時的な変更やアクセス権限の制限は、懲戒処分ではなく事実確認のための措置として位置付けることが望ましいといえます。

 あわせて、証拠収集と情報整理を進めます。預金口座の入出金履歴、経費精算の記録、通勤手当の申請内容、備品管理台帳など、不正の有無や範囲を確認できる資料を整理し、社内通報や第三者からの指摘についても、記憶に頼らず具体的に書面化しておくことが重要です。この段階では評価や結論を急がず、事実関係を積み上げていく姿勢が求められます。

 証拠収集がある程度進んだ段階で、当該社員への聴き取り調査を行います。聴き取りは事実を正確に確認するためのものであり、いつ、どこで、何を、どのように行ったのかという事実関係を丁寧に確認していくことが重要です。強く責め立てる態度は、事実を隠したり歪めたりする動機を与えかねないため、淡々と事実確認に徹する姿勢が望ましいといえます。聴き取り内容は、面談後にメモを整理し、報告書やメールとして第三者に共有する形で残しておくと、客観的な証拠としての価値が高まります。本人に事情説明書や顛末書を提出させる方法も有効ですが、「始末書」という名称を用いると懲戒処分の一つとみなされることが多く、後の処分との関係で争点となるおそれがあるため、名目には注意が必要です。

03不正取得額の返還・回収方法と実務上の注意点

 事実関係がある程度明らかになった段階で、不正に取得された金銭や備品をどのように回収するかを検討します。横領や不正受給によって取得された金銭については、原則として全額の返還を求めることになります。返還方法としては、会社の口座への振込みなど、実際に会社が金銭を回収できる方法を選択することが重要であり、口頭の約束のみで済ませることは避け、金額を特定したうえで返還方法や期限を明確にした返還合意書を作成し、署名押印を得ておくことが望ましいといえます。

 返還方法として給与からの天引きを検討される場合もありますが、賃金は原則として全額を社員本人に支払わなければならないという賃金全額払いの原則との関係に注意が必要です。法律で認められた控除や適法な労使協定に基づく控除でなければ、天引きは認められません。本人が同意している場合でも、後になって真意に基づく同意ではなかったと争われる可能性があるため、慎重な判断が求められます。分割返還についても、途中で退職され支払いが止まってしまうケースが見られるため、可能であれば一括返還を原則としつつ、やむを得ず分割を認める場合には書面で明確な合意を残すことが不可欠です。

04懲戒処分・合意退職の検討

 不正行為の事実関係が確認できた場合、どのような懲戒処分を行うべきかという判断が必要になります。横領や窃盗など会社の財産を直接侵害する行為については、懲戒解雇が相当と判断される場合も少なくありませんが、行為の内容、金額、期間、常習性、本人の立場や責任の重さなどを総合的に考慮して判断する必要があります。通勤手当等の不正受給については、横領と比べて評価が分かれやすく、減給や出勤停止、降格といった段階的な懲戒処分が相当とされる場面も見られます。懲戒処分を行う際には、就業規則の定めとの整合性を必ず確認し、規定を超える処分は無効と判断されるリスクがある点に留意してください。

 懲戒解雇に限らず、合意退職によって関係を整理するという選択肢も検討に値します。不正行為を行った社員が自ら退職を申し出るケースもあり、会社としても在籍の継続が難しいと判断できる場合には、退職届の提出を受け、退職日を確定させることで早期に問題を収束させる方法があります。社員側から退職の意思が示されない場合には、退職勧奨を行い、合意退職を目指すことも考えられますが、その際は退職を求める理由を会社として具体的に説明できることが重要です。合意退職を選択する場合には、退職合意書を作成し、退職日、金銭の清算、今後の請求をしないことなどの条件を明確にしておく必要があります。

05刑事告訴を行うかどうかの経営判断

 横領や不正受給が明らかになった場合、最後に判断を迫られるのが、刑事告訴を行うかどうかという問題です。この判断に法的な正解が一つに定まっているわけではなく、会社としての方針が問われる場面といえます。事案の重大性、不正の内容や金額、期間、常習性の有無、会社に与えた影響の大きさ、損害の回復状況、本人の反省の態度などを総合的に考慮したうえで判断することになります。

 コンプライアンスを重視する会社であれば、不正行為があった以上告訴を選択するという判断も十分にあり得ますし、会社の評判や実務上の負担を考慮し、損害回復と退職による早期解決を選択する会社もあります。特に中小規模の会社では、損害の回復と退職を条件に、それ以上は求めないという実務的な判断が選ばれることも少なくありません。会社経営者としては、感情に任せて結論を出すのではなく、自社の価値観や今後の経営への影響を踏まえて判断することが重要です。刑事告訴は一度行うと後戻りが難しい対応であるため、必要に応じて弁護士に相談しながら、慎重に結論を出すことをお勧めします。

06よくある質問(FAQ)

Q. 不正受給した通勤手当を翌月の給与から全額天引きしてもよいですか。

原則として、労働者の同意なしに賃金から控除することは、賃金全額払いの原則に違反するリスクがあります。本人の自由な意思に基づく書面による同意がある場合、あるいは過払金清算として合理的な範囲である必要があり、慎重を期すのであれば別個に返還を求める方法をお勧めします。

Q. 横領が発覚した場合、必ず警察へ届け出る(刑事告訴する)必要がありますか。

刑事告訴は法的義務ではなく、経営判断の一つです。組織の規律維持を重視して告訴を選択する場合もあれば、損害の全額回収と合意退職による早期解決を優先する場合もあります。自社の方針や実務上の負担を踏まえて決定することになります。

Q. 不正を認めた社員に「始末書」を書かせる際の注意点はありますか。

「始末書」という名称は懲戒処分(譴責)の一つとみなされることが多く、後にさらなる処分(懲戒解雇など)を行う際に「二重処罰」と争われるリスクがあります。まずは事実関係のみを記載させる「事情説明書」や「顛末書」として提出させることをお勧めします。

経営上のポイント 横領や不正受給は、特定の社員の資質だけで生じるものではなく、職場環境や管理体制の影響を強く受けます。発覚直後は感情的な対応を避け、証拠収集と丁寧な聴き取り調査を行ってください。そのうえで、返還方法、懲戒処分または合意退職、刑事告訴の要否を段階的に検討することが、会社を守る現実的な対応になります。具体的な事情に応じて、実務で活用いただける方針をご案内します。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。横領・不正受給への対応でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月8日


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