解説動画

 会社が労働審判手続を抱えている最中に経営危機が深刻化し、破産手続を開始せざるを得なくなるケースがあります。このような状況では、労働審判手続がどうなるのかを正確に把握しておくことが、会社・破産管財人双方にとって重要です。

 労働審判と破産手続の関係は複雑であり、請求の内容によって扱いが異なります。誤った対応をとると、会社の信用を損ない、債権者間の公平を害するおそれもあります。

 本記事では、会社側専門弁護士の視点から、労働審判手続中に破産手続が開始した場合の法的処理を具体的に解説します。

01原則:労働審判手続は中断されない

 民事訴訟においては、当事者の破産手続開始決定があると手続が中断されますが、労働審判手続についてはこの規律が異なります。労働審判手続は、破産手続が開始されても原則として中断されません(労働審判法第24条等参照)。

 これは、労働審判が迅速な紛争解決を目的とした手続であることから、破産手続の開始によって自動的に停止するという扱いを採用していないためです。ただし、請求の内容によって以後の手続の進め方が変わります。

 実務上、会社が破産手続開始後も労働審判手続が進行するケースがあることを踏まえ、破産管財人との連携および対応方針の決定を迅速に行う必要があります。

02財団債権となる賃金が請求されている場合

 労働者が請求している賃金債権が財団債権(破産財団から随時弁済される優先的な債権)に該当する場合、破産管財人が手続を承継し、労働審判が続行されます。

 財団債権となる賃金は、破産手続開始前3か月分の給与や退職金の一部など、破産法が特別に保護している賃金です(破産法第149条)。これらは破産手続によって制約を受けず、財団から随時弁済が可能です。

 この場合、破産管財人が申立人(労働者)の相手方として手続を承継するため、会社の代表者ではなく管財人が対応窓口となります。管財人は速やかに弁護士に相談し、審判の期日や主張内容の引継ぎを行う必要があります。

03優先的破産債権が請求されている場合

 請求の全部または一部が「優先的破産債権」(税金等と同順位の、破産手続によってのみ行使できる債権)に該当する場合、事情が異なります。優先的破産債権は、破産手続以外の方法による行使が認められていないため(破産法第65条等)、労働審判でその部分について審理を続けることは適法ではありません。

 この場合、裁判所は申立てを不適法として却下するか、労働者側に申立ての取下げを促します。労働者側が取下げない場合には、裁判所が労働審判を終了させた上(労働審判法第24条1項)、訴訟手続に移行させ、そこで手続を中断させることが考えられます。

 会社または管財人としては、請求の内訳を精査した上で、優先的破産債権に該当する部分についての対応方針を弁護士と協議することが不可欠です。

04会社・破産管財人が取るべき実務対応

 破産手続開始後に労働審判手続が進行している場合、破産管財人は速やかに次の対応を行うことが求められます。第一に、請求の内容が財団債権か優先的破産債権かを精査することです。第二に、財団債権部分については、審判の期日に出席して主張・立証を継続するか、適切な和解を検討することです。第三に、優先的破産債権部分については、裁判所や労働者側と協議のうえ、手続の取扱いを決定することです。

 また、会社が破産申立て前の段階で既に労働審判を抱えている場合、破産申立てのタイミングと労働審判の期日の日程を踏まえた戦略的な対応が必要となります。労働審判と破産の両手続を同時に管理できる弁護士への早期の相談が、不測の損害を防ぐ上で極めて重要です。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

05よくある質問(FAQ)

Q1. 労働審判手続中に破産申立てをすると、審判の期日はどうなりますか?

 破産手続開始後も労働審判は原則として続行されます。ただし、請求の内容によって破産管財人が手続を承継するか、手続を終了させるかが決まります。期日が近迫している場合は、破産申立てと並行して弁護士が審判対応を行う必要があります。

Q2. 財団債権と優先的破産債権の違いは何ですか?

 財団債権は破産手続によらず随時弁済される債権で、破産手続開始前3か月分の給与などが該当します。優先的破産債権は破産手続内でのみ弁済される債権で、他の破産債権よりも優先されますが、破産手続以外での行使は認められません。この区別が労働審判手続の続行可否を左右します。

Q3. 破産管財人が労働審判に出席しない場合はどうなりますか?

 管財人が正当な理由なく期日を欠席すると、裁判所が一方的な審判を下す可能性があります。財団債権部分の審判が会社(管財人)の不利な内容で確定すると、財団からの弁済を余儀なくされます。破産申立て直後から弁護士と連携して審判対応を行うことが不可欠です。

Q4. 会社が破産した後、労働者は残業代や退職金をどこに請求できますか?

 破産管財人に対して破産債権の届出を行い、破産手続の中で弁済を受けることになります。財団債権に該当する部分は随時弁済の対象となります。また、未払賃金立替払制度(独立行政法人労働者健康安全機構)を利用できる場合もあります。

06関連ページ

最終更新日:2026年5月10日