この記事の結論
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年俸制の賞与は支給額が事前確定しているため除外できない

「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として除外賃金に該当するには支給金額が確定していないことが必要ですが、年俸制の賞与は年俸決定時点で支給額が確定しているため、この要件を満たさず除外賃金にはなりません。

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年俸総額を割増賃金の計算基礎に算入する必要がある

年俸制を採用している会社は、賞与分も含めた年俸総額を割増賃金の計算基礎に算入し、年間所定労働時間で割った時間単価を基礎賃金として用いる必要があります。

 年俸制を採用している会社では、「賞与を残業代(割増賃金)の計算基礎から外せるか」という問題が生じることがあります。賞与が割増賃金の算定基礎から除外できれば残業代コストを抑えられると考える経営者は少なくありませんが、年俸制の場合、その扱いは月給制とは異なります。制度設計を誤ると、後日に多額の未払い残業代を請求されるリスクがあります。

 会社側専門の弁護士の立場から、年俸制の賞与が割増賃金の除外賃金に該当するかを解説します。

01割増賃金の「除外賃金」とは何か

 労働基準法第37条は、時間外・休日・深夜労働に対して割増賃金を支払う義務を定めています。この割増賃金の計算基礎となる「通常の労働時間の賃金」には、一定の賃金を算入しないことが認められており、これを「除外賃金」といいます(労基法施行規則第21条)。

 除外できる賃金として認められているのは、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、そして「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」の7種類です。賞与がこの最後の類型に該当するかどうかが問題となります。除外賃金に該当するためには、その賃金が法令の要件を厳密に満たしている必要があります。名称が「賞与」であっても、実質的に要件を満たしていなければ除外は認められません。

02月給制における賞与の扱い

 月給制の会社で賞与を支給する場合、その賞与の金額があらかじめ確定していないときは、「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として除外賃金に該当します。たとえば、業績連動型の賞与や、査定によって金額が変動する賞与は、支給時まで金額が確定していません。このような賞与は、労基法施行規則第21条の要件を満たすため、割増賃金の計算基礎から除外することが認められます。月給制においては、賞与額の「事前確定性」がないことが除外の条件となります。この点が年俸制の場合と大きく異なります。

03年俸制における賞与は除外賃金にならない

 年俸制では、年俸の総額をあらかじめ決定し、それを12か月分の月給と夏期・冬期の賞与に分割して支給する形態が一般的です。たとえば、年俸600万円を13分割し、うち12を月給(各約46万円)、残り1を賞与(約46万円)として支給するといった設計です。

 この場合の賞与は、年俸を決定した時点で支給額があらかじめ確定しています。「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として除外賃金に該当するためには、支給金額が確定していないことが必要です。年俸制の分割払いとして支給される賞与はこの要件を満たさないため、割増賃金の計算基礎に含めなければなりません。すなわち、年俸制の賞与は、名称が「賞与」であっても、実質は年俸の一部を分割して支払うものにすぎず、割増賃金の除外賃金にはあたりません。この点は、行政通達および多くの裁判例で明確にされています。

04会社側が押さえておくべき視点

 年俸制を採用している会社は、賞与分も含めた年俸総額を割増賃金の計算基礎に算入して残業代を計算しなければなりません。具体的には、年俸を12で割った月額を基準とするのではなく、年俸を12か月の所定労働時間合計で割った時間単価を基礎賃金として用いる必要があります。

 また、「年俸にみなし残業代を含む」とする定額残業代制度(固定残業代制度)を採用している場合でも、その固定残業代が有効と認められるためには、通常の賃金部分と残業代部分が明確に区分されていること、実際の残業時間に対応する割増賃金額以上であることなどの要件を満たす必要があります。年俸制と定額残業代制を組み合わせる場合は、就業規則・雇用契約書の記載を慎重に設計しなければなりません。制度設計を誤った場合、退職した社員から過去の未払い残業代を請求されるリスクがあります。多額の請求を受ける前に、現在の年俸制の設計が法的に適切かどうかを弁護士に確認することを強くお勧めします。

05よくある質問(FAQ)

Q. 年俸制の賞与を残業代計算から除外できると雇用契約書に書いてある場合はどうなりますか。

雇用契約書にそのような記載があっても、労働基準法に反する合意は無効です(労基法第13条)。年俸制の分割払いとして支給される賞与は、法的に除外賃金の要件を満たさないため、契約書の記載にかかわらず割増賃金の計算基礎に含める必要があります。

Q. 年俸制でも、業績によって賞与額が変動する場合は除外できますか。

年俸制であっても、年俸の決定後に別途業績連動で支給される賞与であって、支給額が事前に確定していないものであれば、除外賃金に該当する余地があります。ただし、実態として年俸の分割払いとみなされる場合は除外できません。

Q. 年俸制の割増賃金はどう計算するのですか。

年俸(賞与分を含む総額)を12で割り、さらに月の所定労働時間数で割ることで時間単価(基礎賃金)を算出します。この時間単価に割増率を乗じたものが1時間あたりの割増賃金となります。

経営上のポイント 割増賃金の除外賃金(労基法施行規則21条)に該当するには法令の要件を厳密に満たす必要があります。月給制の賞与は、金額が事前確定していなければ「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として除外できますが、年俸制の賞与は、年俸決定時点で支給額が確定しているため、この要件を満たさず除外賃金にはなりません。会社側としては、賞与分も含めた年俸総額を割増賃金の計算基礎に算入する必要があります。定額残業代制度を組み合わせる場合も、区分の明確性と金額の十分性という要件を満たす制度設計が不可欠です。年俸制と割増賃金の制度設計は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。年俸制の制度設計でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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