この記事の結論
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同意があれば相殺できるが、同意の有無は慎重に判断される

労働者の同意があれば、労働者が壊した備品の修理代と賃金を相殺することはできますが、この同意は労働者にとって不利益であるため、同意の有無は慎重に判断されます。

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自由な意思に基づく客観的な理由が必要(日新製鋼事件)

裁判例は、賃金相殺への同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを求めています(日新製鋼事件、最高裁平成2年11月26日判決)。

 850の記事で解説した「賃金からの一方的な控除はできない」という原則を踏まえ、では、労働者本人の同意があれば相殺できるのか、という点が本稿のテーマです。

 会社側専門の弁護士の立場から、備品の修理代と賃金の相殺について解説します。

01労働者の同意による相殺の可否

 労働者の同意があれば、労働者が壊した備品の修理代と賃金を相殺することはできますが、賃金が修理代と相殺されることの同意は労働者にとって不利益ですから、同意の有無は慎重に判断されます。単に口頭で「いいですよ」と言っただけでは、法的に有効な同意とは認められにくいということです。

02日新製鋼事件が示す判断基準

 裁判例も、賃金の相殺に関する同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを求めています(日新製鋼事件、最高裁平成2年11月26日判決)。この判例は、賃金全額払いの原則(労基法24条1項)の趣旨が、使用者による一方的な賃金控除を禁止し、労働者に賃金の全額を確実に受領させることにあると述べたうえで、労働者が自由な意思に基づき相殺に同意した場合に限り、例外的にこれが許容されるとしています。

03同意を得る際に必要な手続

 労働者から同意を得るのであれば、賃金と損害賠償額を相殺する理由、経緯を労働者に丁寧に説明し、十分納得してもらった上で、相殺に同意する旨記載された書面に署名押印してもらう必要があります。単に書面に署名させるだけでなく、その前提として、なぜ相殺が必要なのか、損害額はどのように算定されたのかを、労働者が十分に理解・納得したうえで、自発的に同意したという事実関係を積み重ねておくことが重要です。

04より望ましい方法

 もっとも、労働者に損害を賠償してもらうのであれば、賃金から控除するのではなく、賃金全額を支払った上で別途賠償金を支払ってもらう方法が望ましいと考えます。850の記事で解説したとおり、同意による相殺は、後になって「自由な意思に基づくものではなかった」として同意の有効性が争われるリスクを常に伴います。賃金は全額支払い、損害賠償は別プロセスで請求するという運用のほうが、法的リスクを最小化できます。

05会社側が押さえておくべき視点

 会社側がどうしても賃金との相殺による処理を選択する場合には、日新製鋼事件が示す「自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すること」という要件を、具体的な事実(説明の記録、書面への署名押印の経緯、労働者からの自発的な申出があったかどうか等)で裏付けられるようにしておく必要があります。会社側からの強要と評価されるような状況(一方的な通告、拒否しづらい雰囲気での署名要求等)は、絶対に避けるべきです。

06よくある質問(FAQ)

Q. 労働者が「相殺していい」と口頭で言えば、それで有効な同意になりますか。

それだけでは不十分な場合があります。相殺への同意が自由な意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する必要があり、丁寧な説明と書面での同意取得が求められます。

Q. 同意書に署名させれば、必ず相殺は有効ですか。

必ずしも有効とは限りません。署名の経緯や、労働者が十分に理解・納得した上での自発的な同意であったかが、慎重に判断されます。

Q. 相殺よりも安全な損害賠償の受領方法はありますか。

賃金は全額支払ったうえで、別途賠償金を支払ってもらう方法が望ましいと考えられます。相殺は同意の有効性が争われるリスクを伴います。

経営上のポイント 労働者の同意があれば、備品の修理代と賃金を相殺することはできますが、この同意は労働者にとって不利益であるため、慎重に判断されます。裁判例は、同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを求めています(日新製鋼事件、最高裁平成2年11月26日)。同意を得る際は、相殺の理由・経緯を丁寧に説明し、十分納得してもらったうえで書面に署名押印してもらう必要があります。もっとも、賃金から控除するのではなく、賃金全額を支払ったうえで別途賠償金を支払ってもらう方法がより望ましいと考えられます。会社側としては、相殺による処理を選択する場合、同意の任意性を客観的に裏付けられる事実関係を積み重ねることが重要です。賃金相殺への対応は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。賃金相殺への対応でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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