この記事の結論
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当然に控除できるわけではなく、要件を満たす場合に限られる

賃金全額払の原則があるため、過払が生じた場合であっても、当然に翌月の賃金から控除できるわけではありません。行使の時期・方法・金額等から労働者の経済生活の安定を脅かさないと認められる場合に限り、調整的相殺として許容されます。

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時期の近接性と少額性が判断のポイント

過払時期と相殺時期が精算調整たる実を失わない程度に接着していること、金額が多額にわたらないことが必要です(福島県教組事件、最高裁昭和44年12月18日判決)。

 851の記事で解説した労働者の同意による相殺とは異なり、給与計算の誤りによる過払を精算する「調整的相殺」は、一定の要件のもとで、労働者の同意なく行うことが認められています。もっとも、その要件は厳格です。

 会社側専門の弁護士の立場から、賃金の過払分を翌月の賃金と相殺できるかを解説します。

01過払があっても当然に控除できるわけではない

 労基法上、賃金全額払の原則が定められているため、賃金の計算を誤り過払が生じた場合であっても、当然に、翌月の賃金から控除できるわけではありません。850の記事で解説した賃金全額払いの原則は、給与計算ミスによる過払の精算という場面でも、原則として適用されるということです。

02調整的相殺の判断基準(福島県教組事件)

 調整的相殺ができるかどうかの判断基準として、最高裁が定立した次の要件があります。最高裁は、調整的相殺は、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、賃金全額払原則に反しないとし、そのためには、過不足が生じた時期と相殺の時期が賃金の精算調整たる実を失わない程度に接着していること、その額が多額にわたらない等、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのないことが必要であると述べています(福島県教組事件、最高裁昭和44年12月18日判決)。

03相殺が認められた例

 過払の相殺が認められたケースとして、勤勉手当940円の過払があり、それから1か月余り後に労働者に返還を求め、これに応じないときは翌月分の給与から減額する旨通知し、過払の3か月後に支給された2万2960円から過払分940円を控除した事案があります(福島県教組事件、最高裁昭和44年12月18日判決)。過払額が少額であったこと、事前に返還を求め、通知をしたうえで控除に至ったことが、調整的相殺として許容された要因と考えられます。

04相殺が認められなかった例(群馬県教組事件)

 過払の相殺が認められなかったケースとして、10月及び12月分の給与から1か月分の給与の約3.8%〜約27.3%相当の過払分を翌年3月分の給与で相殺控除した事案について、相殺が遅れた原因に特別な事情がないことを前提として、相殺は許されないと判断された事案があります(群馬県教組事件、最高裁昭和45年10月30日判決)。過払発生から相殺までの期間が長期にわたったこと、過払額の割合が給与の約27.3%にも達するなど高額であったことが、否定の要因になったと考えられます。

05会社側が押さえておくべき視点

 会社側が給与計算の誤りによる過払を発見した場合には、できる限り速やかに、労働者に事情を説明し、返還または翌月控除の予告を行うことが重要です。福島県教組事件のように、過払発覚から数か月程度の期間で処理すれば認められる可能性がありますが、群馬県教組事件のように、長期間放置したうえで多額の相殺を行うことは、調整的相殺として認められないリスクが高くなります。

 また、過払額が給与の相当割合を占める場合には、一括での控除ではなく、複数回に分けて少額ずつ調整するなど、労働者の経済生活への配慮を示す工夫も有効です。

06よくある質問(FAQ)

Q. 給与計算を誤って多く払いすぎた場合、次の給料から自動的に差し引いてよいですか。

自動的にはできません。行使の時期・方法・金額等から労働者の経済生活の安定を脅かさないと認められる範囲(調整的相殺)に限り許容されます。

Q. 過払から半年以上経ってから相殺した場合、認められますか。

認められにくい可能性があります。相殺が遅れた原因に特別な事情がなければ、時機を逸したとして許されないと判断された裁判例があります(群馬県教組事件)。

Q. 給与の27%にあたる過払を一括で相殺できますか。

認められにくいと考えられます。過払割合が高い事案で、時期の接着性も欠く場合に相殺が否定された裁判例があります(群馬県教組事件)。少額での分割調整等の配慮が望ましいといえます。

経営上のポイント 賃金計算の誤りによる過払は、賃金全額払の原則があるため、当然に翌月の賃金から控除できるわけではありません。最高裁は、行使の時期・方法・金額等から労働者の経済生活の安定を脅かさないと認められる場合(調整的相殺)に限り、賃金全額払原則に反しないとしています。過払時期と相殺時期の接着性、金額の少額性が重要な判断要素です(福島県教組事件、最高裁昭和44年12月18日)。逆に、相殺までの期間が長期にわたり、過払割合が高い場合には、相殺が認められないことがあります(群馬県教組事件、最高裁昭和45年10月30日)。会社側としては、過払を発見したら速やかに事情説明・予告を行い、少額かつ短期間での調整を心がけることが重要です。過払賃金の精算方法は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。過払賃金の精算でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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