精神疾患の発症を否定する社員にも会社は配慮義務を負うか
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本人が否定していても、漫然と就労を認めることは安全配慮義務の観点から許されない 精神疾患は本人が病識を持てないことが特性の一つです。症状が悪化して損害賠償請求に発展した際、「本人が否定していた」という事情だけで会社の責任は免除されません。 |
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指定医受診命令・就労拒絶(一時帰宅)・休職命令という3つの選択肢がある いずれも有効に発令するためには就業規則に根拠規定が必要であり、問題が起きる前の就業規則整備が不可欠です。 |
精神疾患を否定する社員への配慮義務とは、社員本人が精神疾患の発症を否定して就労を希望している場合であっても、症状悪化のリスクが客観的に認められるときは、使用者が安全配慮義務(労働契約法5条)の観点から一定の対応を取るべき義務をいいます。精神疾患の発症が強く疑われるにもかかわらず社員本人が「自分は大丈夫」「精神的な病気ではない」と否定して就労を希望した場合、会社がこれを漫然と受け入れて就労を継続させることは、安全配慮義務の観点から許されません。
精神疾患は本人が病識を持てないことが特性の一つです(うつ病の急性期は特に自己評価能力が低下します)。「本人が大丈夫と言っているから就労させた。その後に症状が悪化した」という状況では、会社が安全配慮義務違反を問われるリスクが現実的に生じます。症状が悪化して損害賠償請求に発展した際、「本人が否定していた」という事情は抗弁の一事情にはなりますが、それだけで責任が免除されるわけではありません。本稿では、本人が発症を否定している場合の具体的な対応方法を、会社側専門の弁護士が解説します。
01「否定している」でも配慮義務は免除されない理由
結論:精神疾患の発症を本人が否定していても、症状悪化のリスクがある状態で漫然と就労を継続させることは、安全配慮義務の観点から許されません。精神疾患は本人が病識を持てないことが特性の一つであり、特にうつ病の急性期は自己評価能力が低下する傾向があります。
「本人が大丈夫と言っているから就労させた。その後に症状が悪化した」という状況では、会社が安全配慮義務違反を問われるリスクが現実的に生じます。症状が悪化して損害賠償請求に発展した際、「本人が否定していた」という事情は抗弁の一事情にはなりますが、それだけで責任が免除されるわけではありません。
02就業規則に基づく指定医受診命令
結論:就業規則に根拠規定があれば、本人が自己申告する主治医の診断書のみに依存せず、会社が指定する医師の受診を命じ、客観的な就業能力の評価を得ることができます。就業規則に「会社が必要と認める場合は、会社の指定する医師の診断を受けさせることがある」旨の規定がある場合、会社の指定する医師(精神科・心療内科)の受診を命じることができます。
本人が自己申告する主治医の診断書のみに依存せず、会社が指定した専門医の意見を取得することで、客観的な就業能力の評価が可能になります。主治医と会社指定医の意見が分かれる場合の取扱いについても、就業規則や運用マニュアルであらかじめ整理しておくことが望ましいです。
03就労拒絶・一時帰宅という選択肢
結論:症状悪化の明白なリスクがある場合は、就労を拒絶して帰宅させることも選択肢となりますが、判断は慎重に行い、必ず記録を残す必要があります。精神疾患の発症が強く疑われ、就労させることで症状が悪化する明白なリスクがある場合は、就労を拒絶して帰宅させることも選択肢となります(欠勤扱い・無給)。
ただし、この判断は慎重に行う必要があり、後に「不当な就労拒否だった」と争われるリスクを踏まえて、記録を残した上で対応します。
04休職命令の検討
結論:就業規則に「精神疾患その他の傷病により就業が困難と会社が認める場合」等の休職事由が規定されていれば、本人の同意がなくても休職を命じることができますが、休職事由の存在を客観的に立証できることが前提です。
休職事由の存在を客観的に立証するためには、受診勧奨の記録・指定医の意見・勤怠や業務パフォーマンスの変化に関する記録など、複数の証拠を積み重ねておくことが実務上重要です。
就業規則の整備が先決
指定医受診命令・休職命令を有効に発令するためには、就業規則にその根拠規定が必要です。規定がなければ、社員がこれを拒否した際に会社側が法的に強制する手段がありません。精神疾患社員への対応を想定した就業規則の整備を、問題が起きる前に弁護士と行っておくことが重要です。
対応の比較|適切な対応/NGな対応
| ○ 適切な対応 | ✕ NGな対応(安全配慮義務違反のリスク) |
|---|---|
| 就業規則の根拠規定に基づき指定医受診を命じる | 本人の自己申告のみに依存し、受診を求めない |
| 症状悪化のリスクがあれば就労を拒絶し帰宅させる | 「本人が大丈夫と言うから」と漫然と就労を継続させる |
| 休職事由の規定に基づき客観的に休職命令を発令する | 根拠規定がないまま休職・受診を強制しようとする |
05よくある質問(FAQ)
Q. 精神疾患の発症を社員が否定している場合、会社は何もできませんか。
いいえ、対応は可能です。就業規則に根拠規定があれば、指定医受診命令・就労拒絶(帰宅指示)・休職命令などの手段を講じることができます。本人の否定のみを理由に対応を控えることは、かえって安全配慮義務違反のリスクを高めます。
Q. 主治医の診断書と会社指定医の意見が異なる場合はどうなりますか。
会社は主治医の診断書のみに依存せず、会社が指定する医師の意見を踏まえて客観的に就業能力を判断することができます。両者の意見が分かれる場合の取扱いは、就業規則や運用マニュアルであらかじめ整理しておくことが望ましいです。
Q. 本人が「大丈夫」と言い張って帰宅を拒否した場合はどうすればよいですか。
客観的に就労不能と判断できる状態であれば、使用者として就労を拒絶し帰宅させることは適法です。ただし判断は慎重に行い、理由や本人の反応を記録した上で対応することが重要です。
Q. 休職命令は本人の同意がなくても発令できますか。
就業規則に休職事由の根拠規定があれば、本人の同意がなくても休職を命じることができます。ただし、休職事由(就業困難な状態にあること)を客観的に立証できることが前提となります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。精神疾患の発症を否定する社員への対応・就業規則の整備でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年7月8日