精神疾患が疑われる社員が指定医への受診を拒否した場合、会社はどう対応すべきか
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就業規則に根拠規定があれば指定医受診を業務命令として命じられるが、拒絶に直ちに重い懲戒処分は禁物 受診命令の発令、拒絶の記録、就労拒絶・欠勤扱いという段階的な対応と記録の積み上げが、後の法的手続で会社側の立場を守ります。 |
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精神疾患が疑われる社員への懲戒処分は、健康診断・治療勧奨等の対応を経ないと無効とされるリスクがある 日本ヒューレット・パッカード事件最高裁判決は、精神科医による健康診断や治療勧奨を経ずに行った懲戒処分を無効と判断しました。 |
目次
解説動画
指定医受診命令とは、就業規則の根拠規定に基づき、会社が指定する医師の診断を受けるよう社員に命じる業務命令をいい、正当な理由なく拒絶した場合は業務命令違反として扱われ得ます。精神疾患の発症が強く疑われる社員に対して会社が指定医への受診を命じたところ、社員がその受診を拒絶するというケースは決して少なくありません。この場合、会社としてはどのように対応すればよいのでしょうか。
受診拒絶への対応を誤ると、後の懲戒処分や休職命令の有効性が争われるリスクがあります。段階的な対応と記録の積み上げが重要です。本ページでは、指定医受診を拒絶された場合の会社側の対応について、会社側専門の弁護士が解説します。
01就業規則に指定医受診命令の規定がある場合の対応
結論:就業規則に根拠規定がある場合、会社は指定医への受診を業務命令として命じることができますが、拒絶に対して直ちに重い懲戒処分を行うことは得策ではありません。就業規則に「会社が必要と認める場合は、会社の指定する医師の受診を命じることができる。受診命令に正当な理由なく従わない場合は、業務命令違反として取り扱うことがある」旨の規定がある場合、この対応が可能になります。
受診拒絶は業務命令違反となりますが、これに対して直ちに重い懲戒処分(解雇等)を行うことは得策ではありません。基本的な対応の流れは、書面による受診命令の発令、受診拒絶の事実の記録、就労拒絶・欠勤扱いという段階的なものとなります。この段階的な対応を記録に残しておくことが、後の法的手続において会社側の立場を守ります。
02受診拒絶があった場合の就労拒絶と欠勤扱い
結論:指定医への受診を拒絶した場合は、債務の本旨に従った労務提供をしないものとして就労を拒絶し、欠勤扱い(無給)とすることが基本的な対応です。精神疾患の発症が疑われるため会社が指定医への受診を命じたところ、本人が受診を拒絶した場合に、この対応を取ります。
「受診を拒絶したから就労させない」というのは、安全配慮義務(労働契約法5条)の観点から、就業能力が確認できない状態での就労を会社が認めないという正当な措置です。欠勤が続けば、就業規則の休職事由(一定日数の欠勤)に該当するとして休職命令を発令する根拠にもなります。欠勤扱いとする際は、その旨を書面で社員に通知し、欠勤扱い・無給の根拠を明確にしておくことが重要です。後に「会社都合の休業だから休業手当が発生する」と主張された際の反論根拠となります。
03懲戒処分は慎重に判断してください
結論:精神疾患を発症している可能性が高い社員に対する懲戒処分は、健康診断の実施や治療勧奨等の対応を経ずに行うと無効とされるリスクが高く、慎重な判断が必要です。日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁第二小法廷平成24年4月27日判決、集民240号237頁)は、精神的な不調のために欠勤を続けていたと認められる社員に対し、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果に応じて治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、経過を見るなどの対応を採るべきであったとして、そのような対応を経ずに行われた諭旨退職処分を無効と判断しました。
この判決を踏まえると、精神疾患が疑われる状況での懲戒処分(特に重い処分)は、後に「精神疾患に起因する行動を懲戒処分にしたものであり相当性を欠く」として処分の有効性を争われるリスクがあります。基本的には懲戒処分以外の対応(就労拒絶・欠勤扱い・休職命令)を中心に検討し、懲戒処分を行う際は弁護士との十分な協議を経ることが不可欠です。懲戒処分の有効性は、処分の相当性・手続の適正さ・就業規則の根拠規定の存在など、多角的な観点から判断されます。
04就業規則の整備が最大のリスク管理です
結論:就業規則に指定医受診命令の根拠規定がない場合、受診を法的に強制することはできず、問題が生じる前の就業規則整備が最大のリスク管理策となります。規定なしに受診を強制しようとすれば、「強制受診は違法だ」として損害賠償請求を受けるリスクがあります。
具体的には、指定医受診命令の根拠規定・受診拒絶時の就労拒絶・休職事由・休職命令の発令手続などを就業規則に明確に定めておくことが求められます。就業規則の整備・指定医受診命令・受診拒絶への対応については、精神疾患社員対応の経験豊富な会社側専門の弁護士に相談されることをお勧めします。弁護士法人四谷麹町法律事務所では、会社側の視点から実務的なアドバイスを提供しています。
受診拒絶への対応比較|適切な対応/NGな対応
| ○ 適切な対応 | ✕ NGな対応(懲戒処分無効のリスク) |
|---|---|
| 受診命令の発令・拒絶の記録・欠勤扱いと段階的に対応する | 受診拒絶に対し直ちに懲戒解雇・諭旨退職とする |
| 健康診断・治療勧奨を経て休職等の要否を検討する | 健康状態を確認せず無断欠勤のみを理由に処分する |
| 就業規則に指定医受診命令の根拠規定を整備しておく | 根拠規定がないまま受診を強制しようとする |
| 懲戒処分の前に弁護士と十分に協議する | 弁護士に相談せず自社の判断のみで重い処分を行う |
05よくある質問(FAQ)
Q. 就業規則に指定医受診命令の規定がなければ、受診を命じることはできませんか。
就業規則の根拠規定がない場合、受診を業務命令として法的に強制することはできません。ただし、受診を勧奨すること自体は可能であり、受診勧奨の事実と社員の応答を記録しておくことで、その後の対応の根拠を積み上げることはできます。今後のためにも、まず就業規則に指定医受診命令の根拠規定を設けることを検討してください。
Q. 指定医受診を拒絶した社員を懲戒解雇することはできますか。
受診拒絶のみを理由に直ちに懲戒解雇することは、解雇が無効とされるリスクがあります。精神疾患が疑われる状況での懲戒処分は慎重に判断する必要があります。まずは就労拒絶・欠勤扱い・休職命令といった対応を段階的に行い、懲戒処分を検討する場合は必ず事前に弁護士に相談してください。
Q. 受診拒絶を繰り返す社員に対して、会社として最終的にどのような対応が可能ですか。
受診拒絶に伴う欠勤が就業規則の休職事由に該当すれば、休職命令を発令することができます。休職期間満了時に復職できない場合は、就業規則の規定に基づいて退職扱い(自然退職)または解雇とすることが可能です。ただし、これらの手続は就業規則の整備・記録の積み上げ・段階的な対応が前提となりますので、弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。精神疾患が疑われる社員の指定医受診拒絶でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年7月9日