- 1年単位の変形労働時間制でも時間外労働は発生し、3段階基準で判定する
- 対象期間終了後に総枠超えの精算を必ず行う必要がある
- 途中入社・途中退職者には労基法32条の4の2による特則が適用される
- 深夜・休日の割増賃金は変形労働時間制採用時も引き続き発生する
01変形労働時間制でも時間外労働は発生する
1年単位の変形労働時間制を適法に導入した場合でも、所定の労働時間を超えて労働させた場合には時間外労働として割増賃金(残業代)が発生します。変形労働時間制は、年間の業務繁閑に応じて労働時間を柔軟に配分できる制度ですが、「すべての時間外労働をゼロにする」制度ではありません。
あらかじめ特定された所定労働時間内に収まっている場合には割増賃金は不要ですが、それを超えた部分については適切に管理・清算する必要があります。対象期間が最長1年と長期にわたるため、毎月の管理と対象期間終了後の精算の両方を怠りなく行うことが重要です。
023段階の判定基準の概要
1年単位の変形労働時間制における時間外労働の判定については、1か月単位の変形労働時間制と同様に、行政解釈(昭和63年1月1日付基発第1号等)に基づく3段階の基準が適用されます。3段階の基準は順番に適用され、後の段階では先の段階で既に算入された時間は重複して算入しません。
3段階の判定基準(まとめ)
第1基準:あらかじめ法定労働時間を超えて所定労働時間を定めた日・週については、その定めた時間を超えた時間
第2基準:所定労働時間の定めがない日・週については、日または週の法定労働時間を超えた時間
第3基準:対象期間全体の法定労働時間の総枠を超えた時間(第1・第2基準で算入済みの時間を除く)
03第1基準:所定時間を定めた日・週の時間超
1年単位の変形労働時間制では、労使協定において対象期間中の各労働日の労働時間をあらかじめ特定することが要件です。法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて所定労働時間を設定した日・週については、その特定された所定労働時間を超えて働いた時間が第1基準の時間外労働となります。
たとえば、繁忙期の特定日に10時間の所定労働時間を設定していた場合、その日に11時間労働させると、10時間を超えた1時間が第1基準の時間外労働です。この1時間については25%以上の割増賃金が必要です。なお、8時間から10時間の2時間分は変形労働時間制の効果により法定内となっています。
04第2基準:所定時間の定めがない日・週の時間超
段階的特定(対象期間を月以上の区分に分け、各区分の開始30日前までに具体的な時間を定める方法)を採用している場合など、特定の日・週について所定労働時間が未確定の状態で労働が発生した場合には、第2基準が適用されます。
この場合、日ごとには法定労働時間(原則1日8時間)を、週ごとには法定労働時間(原則週40時間)を超えた時間が時間外労働となります。週単位での計算では、第1基準または当該週の日単位計算で既に時間外労働として算入した時間は除外します。
05第3基準:対象期間全体の総枠超え
対象期間全体を通じた実労働時間の合計が、対象期間に対応する法定労働時間の総枠を超えた場合に第3基準が適用されます。第1・第2基準で既に時間外労働として算入した時間を差し引いた残りが、追加の時間外労働となります。
対象期間の総枠の計算方法
1年単位の変形労働時間制における法定労働時間の総枠は、「40時間×対象期間の暦日数÷7」で計算します。対象期間が365日(1年)の場合は40時間×365÷7≒2085.7時間が総枠です。週44時間の特例事業場の場合は「44時間×暦日数÷7」となります。
対象期間別の法定労働時間総枠(週40時間制)
3か月(92日):40時間×92÷7≒525.7時間
6か月(183日):40時間×183÷7≒1045.7時間
9か月(274日):40時間×274÷7≒1565.7時間
12か月(365日):40時間×365÷7≒2085.7時間
対象期間終了後、実際の総労働時間を集計して上記の総枠と比較します。総枠を超えている場合、第1・第2基準で既に処理済みの時間を控除した残りが「第3基準による時間外労働」となり、割増賃金の支払いが必要です。この精算は、対象期間終了後の最初の賃金締切日までに行うことが求められます。
06途中入社・途中退職者への特則(労基法32条の4の2)
1年単位の変形労働時間制に特有の規定として、対象期間より短い期間しか働かなかった労働者への特則があります(労働基準法第32条の4の2)。この特則は1か月単位の変形労働時間制には存在せず、1年単位に固有のルールです。
特則の対象となる労働者
特則の対象となるのは、対象期間の途中で採用された者(中途採用者)、対象期間の途中で退職した者、および何らかの理由で対象期間全体を通じて労働しなかった者です。
特則の計算方法
特則によれば、使用者が対象期間中に実際に労働させた期間(実際に在籍して労働した期間)を平均して、1週間当たり40時間を超えて労働させた場合には、その超えた時間について割増賃金を支払わなければなりません。ただし、36協定に基づく時間外労働・休日労働として既に割増賃金を支払った時間は除きます。
途中退職者の精算漏れに注意
対象期間の途中で退職した労働者については、退職時点で速やかに精算計算を行い、週平均40時間超えがあれば割増賃金を退職時の給与清算に含める必要があります。退職後に精算漏れが発覚すると、元従業員からの未払賃金請求のリスクがあります。
特則の計算例
たとえば、1年(365日)を対象期間とする変形労働時間制において、ある労働者が対象期間開始後4か月(122日)で退職したとします。この場合、その労働者の在籍期間122日に対応する法定労働時間の総枠は「40時間×122÷7≒697.1時間」となります。実際の総労働時間がこれを超えていれば、既に割増賃金を支払った時間を除いた超過分について追加の割増賃金が必要です。
071か月単位との違いと実務上の注意点
1か月単位の変形労働時間制と比較した場合、1年単位の変形労働時間制における時間外労働管理には以下のような実務上の特徴があります。
対象期間終了後の精算が特に重要
1か月単位では毎月精算が行われますが、1年単位では第3基準(総枠超え)の精算が年1回(または対象期間終了時)となります。対象期間が長いため精算額が大きくなる可能性があり、資金計画を踏まえた準備が必要です。
途中入退社者の個別管理が必要
1か月単位には特則が存在しませんが、1年単位では労基法第32条の4の2の特則が適用されるため、途中入社・途中退職者については個別に計算を行う必要があります。給与計算システムが対応していない場合は、手動での計算が必要になる場合もあります。
深夜・休日の割増賃金は引き続き適用
変形労働時間制の種類にかかわらず、深夜労働(午後10時〜翌午前5時)に対する深夜割増賃金(25%以上)と法定休日労働に対する休日割増賃金(35%以上)は常に発生します。これらは時間外労働の割増賃金とは別に計算・支払いが必要です。
1年単位の変形労働時間制の適切な運用と残業代の計算・精算については、使用者側専門の労働問題弁護士にご相談されることをお勧めします。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年5月20日