- フレックスタイム制の導入には就業規則への定めと労使協定の締結が必要
- 清算期間は最長3か月まで設定可能(1か月超は労基署への届出が必要)
- コアタイムの設定は任意で、設けない場合は「フルフレックス」と呼ばれる
- 清算期間の総労働時間の枠を超えた部分には時間外割増賃金が発生する
01フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、労働基準法第32条の3に基づく労働時間制度であり、一定の期間(清算期間)における総労働時間をあらかじめ定めておき、その範囲内で労働者が各日の始業・終業時刻を自分で決定できる制度です。
通常の労働時間制では使用者が始業・終業時刻を決定しますが、フレックスタイム制では労働者が自分のライフスタイルや業務の状況に合わせて労働時間を柔軟に調整できるため、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現や生産性向上に有効な制度として多くの企業で活用されています。
ただし、フレックスタイム制を適法に導入・運用するためにはいくつかの要件を満たす必要があり、また残業代(時間外割増賃金)が一切不要になるわけではありません。正しく理解した上で設計・運用することが重要です。
02導入に必要な3つの要件
フレックスタイム制を適法に導入するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
フレックスタイム制導入の3要件
① 就業規則等への定め:始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる旨を就業規則またはこれに準ずるものに定める
② 書面による労使協定の締結:対象労働者の範囲・清算期間・総労働時間等を労使協定で定める(清算期間が1か月超の場合は労基署に届出)
③ 清算期間の起算日の特定:清算期間がいつから始まるかを明確にする
就業規則への定め
就業規則に「対象労働者については始業・終業時刻の決定を本人に委ねる」旨の規定を設けることが必要です。常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成・届出が義務付けられているため、就業規則の変更(または新たな項目の追加)と労働基準監督署への届出が必要です。
労使協定の締結と届出
事業場の過半数組合(過半数組合がない場合は過半数代表者)との間で書面による労使協定を締結する必要があります。清算期間が1か月を超える場合は、この労使協定を所轄の労働基準監督署に届け出ることも必要です(労基法第32条の3第4項)。
03労使協定で定めるべき事項
フレックスタイム制の労使協定では、以下の事項を定める必要があります。
労使協定の必要記載事項
① 対象労働者の範囲(全従業員または特定の部署・職種等)
② 清算期間(最長3か月)とその起算日
③ 清算期間における総労働時間(法定の総枠の範囲内)
④ 標準となる1日の労働時間
⑤ コアタイムを設ける場合:その時間帯の開始・終了時刻
⑥ フレキシブルタイムを設ける場合:その時間帯の開始・終了時刻
04清算期間と総労働時間の設定
清算期間とは、フレックスタイム制において労働時間を算定するための単位期間です。2019年の働き方改革関連法による労働基準法改正(同年4月1日施行)により、清算期間の上限が従来の1か月から3か月に延長されました。
清算期間の長さとメリット
清算期間を長くすること(たとえば3か月)で、繁忙月に多く働き閑散月に少なく働くという長期スパンの調整が可能になります。一方、清算期間が長いと労働者が長期間にわたって過重労働になるリスクもあるため、清算期間内の各月(1か月ごと)の労働時間が週平均50時間を超えた時間については時間外割増賃金を支払う必要があります(清算期間が1か月超の場合の特則)。
総労働時間の上限
清算期間における総労働時間は、法定労働時間の総枠(「40時間×清算期間の暦日数÷7」)の範囲内で設定する必要があります。この総枠を超えた設定はできません。週44時間の特例事業場については「44時間×暦日数÷7」が総枠となります。
清算期間別の法定総枠(週40時間制)
1か月(31日):40時間×31÷7≒177.1時間
2か月(61日):40時間×61÷7≒348.6時間
3か月(92日):40時間×92÷7≒525.7時間
05コアタイムとフレキシブルタイム
フレックスタイム制では、必要に応じてコアタイムとフレキシブルタイムを設定することができます。どちらも任意の設定であり、設けない場合は始業・終業時刻を完全に労働者の裁量に委ねる「フルフレックス」となります。
コアタイム
コアタイムとは、フレックスタイム制のなかで必ず労働しなければならない時間帯のことです。会議への出席や他のメンバーとの連携が必要な業務のために、特定の時間帯は全員が在席することを義務付けたい場合にコアタイムを設定します。コアタイムを設ける場合は、その開始時刻と終了時刻を労使協定に定めることが必要です。
ただし、コアタイムの時間帯と標準となる1日の労働時間がほぼ一致しているような場合や、フレキシブルタイムが極端に短い場合は、フレックスタイム制の趣旨(労働者が始業・終業時刻を自ら決定できる制度)に合致しないと行政解釈では考えられています(昭和63年1月1日基発1号等)。制度の実質を担保するだけのフレキシブルな時間帯を確保することが必要です。
フレキシブルタイム
フレキシブルタイムとは、労働者が自由に労働を開始・終了できる時間帯のことです。たとえば「7時〜10時の間に出勤してよい」「17時〜21時の間に退勤してよい」のように設定します。フレキシブルタイムを設ける場合も、その開始・終了時刻を労使協定に定める必要があります。
06時間外労働・残業代の扱い
フレックスタイム制を導入しても、残業代(時間外割増賃金)が一切不要になるわけではありません。残業代の計算方法は、通常の制度とは異なりますが、清算期間単位での精算が必要です。
清算期間1か月の場合
清算期間が1か月の場合、清算期間の実際の総労働時間が清算期間に対応する法定の総枠を超えた時間について、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。逆に、実労働時間が総労働時間の設定を下回った場合(不足時間)は、翌清算期間に繰り越して精算することができます。
清算期間が1か月を超える場合
清算期間が2か月または3か月の場合は、清算期間全体での精算に加えて、各月単位でのチェックも必要です。清算期間内の各月において週平均50時間を超えた時間については、その月の時点で時間外割増賃金を支払う必要があります(労基法第32条の3第2項)。これは長期の清算期間中に過重労働が放置されることを防ぐための規定です。
また、深夜労働(午後10時〜翌午前5時)に対する深夜割増賃金(25%以上)は、フレックスタイム制の採用に関わらず引き続き発生します。
07実務上の注意点と弁護士への相談
フレックスタイム制を適法に導入・運用するためには、以下の実務上の注意点を押さえておく必要があります。
労働時間の管理義務は免除されない
フレックスタイム制を採用しても、使用者の労働時間管理義務は免除されません。労働者が何時から何時まで働いたかを正確に把握・記録することは使用者の義務です。清算期間終了後に適切な残業代精算を行うためにも、日々の労働時間の記録は不可欠です。
不足時間の賃金控除は慎重に
清算期間の実労働時間が設定された総労働時間に満たなかった場合(不足時間)の取り扱いは、次の清算期間に繰り越すか、賃金控除するかを就業規則・労使協定で定めることができます。ただし、不足時間分の賃金を控除する場合は、使用者が労働者の意思に反して過度な不利益を与えないよう適切な設計が必要です。
年次有給休暇との関係
フレックスタイム制を採用している労働者が年次有給休暇を取得した日については、「標準となる1日の労働時間」を労働したものとして取り扱います。労使協定で定めた標準となる1日の労働時間が、実際の有給休暇日の労働時間算定の基礎となります。
フレックスタイム制の設計・導入、就業規則・労使協定の整備、残業代管理の見直しについては、使用者側専門の労働問題弁護士にご相談されることをお勧めします。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年5月20日