- 清算期間中の総労働時間に超過が生じた場合、超過時間分を翌月に繰り越すことは賃金全額払いの原則(労基法24条)に違反する
- 不足が生じた場合、翌月の総労働時間に上積みして労働させることは、法定労働時間の総枠内であれば許容される
- 賃金処理の誤りは未払残業代請求につながるため、清算期間ごとに正確に計算・支払うことが重要
1フレックスタイム制と清算期間の仕組み
フレックスタイム制は、一定の期間(清算期間)を単位として、各労働者が労使協定で定めた総労働時間の範囲内で、始業・終業時刻を自由に設定できる制度です(労働基準法第32条の3)。
清算期間内の実際の労働時間が、あらかじめ定めた総労働時間と完全に一致するとは限りません。業務の繁閑や労働者の判断によって、清算期間の終了時点で過不足が生じることがあります。この過不足をどのように賃金処理するかは、労働基準法の賃金支払原則(全額払い・毎払い)との関係で、慎重に対応する必要があります。
2超過した場合の賃金処理
清算期間中の実労働時間が、労使協定で定めた総労働時間を超えた場合、超過した時間分の賃金については、その清算期間の賃金支払日に支払わなければなりません。
翌月繰り越しは許されない
超過した時間分を翌月の総労働時間の一部に充当する(繰り越す)ことは、その清算期間内における労働の対価の一部が賃金支払日に支払われないことになるため、労働基準法第24条(賃金の全額払い・毎払いの原則)に違反します。
また、超過した時間分が法定労働時間(1週40時間・1日8時間)の総枠を超える時間外労働に該当する場合は、割増賃金(残業代)の支払いも必要です。翌月に繰り越しても残業代の支払い義務は消えず、支払い義務は当該清算期間の賃金支払日に発生します。
3不足した場合の賃金処理
清算期間中の実労働時間が、労使協定で定めた総労働時間に達しなかった場合は、不足分の取扱いについて2つの方法が考えられます。
方法①:不足分を翌月に繰り越す
実際の労働時間に対する賃金のみを支払い、不足分を翌月の総労働時間に上積みして労働させる方法です。これは、その清算期間においては実際の労働時間に対する賃金のみを支払うものであり、法定労働時間の総枠の範囲内であれば、労働基準法第24条に違反しないとされています(昭和63年1月1日基発1号)。ただし、翌月の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えないよう注意が必要です。
方法②:不足分の賃金を支払ったうえで翌月に繰り越す
総労働時間として定めた時間分の賃金を支払い、その過払い分を翌月の清算期間で清算する方法です。この場合も、法定労働時間の総枠内での清算であれば認められます。
4行政解釈(昭和63年基発1号)の内容
厚生労働省(旧・労働省)は、清算期間における賃金処理について、昭和63年1月1日付基発1号において以下のように示しています。
①超過した場合
清算期間における実際の労働時間に超過があった場合に、総労働時間として定められた時間分はその期間の賃金支払日に支払うが、それを超えて労働した時間分を次の清算期間中の総労働時間の一部に充当することは、その清算期間内における労働の対価の一部がその期間の賃金支払日に支払われないことになり、法第24条に違反し、許されない。
②不足した場合
清算期間における実際の労働時間に不足があった場合に、総労働時間として定められた時間分の賃金はその期間の賃金支払日に支払うが、それに達しない時間分を次の清算期間中の総労働時間に上積みして労働させることは、法定労働時間の総枠の範囲内である限り、その清算期間においては実際の労働時間に対する賃金よりも多く賃金を支払い、次の清算期間でその分の賃金の過払を清算するものと考えられ、法第24条に違反するものではない。
5実務上の注意点
フレックスタイム制における賃金処理を適切に行うために、会社側として以下の点に注意が必要です。
(1)労働時間の正確な把握
フレックスタイム制であっても、使用者には労働時間を把握・記録する義務があります。清算期間末日における実労働時間の集計を正確に行い、支払うべき賃金額を算定してください。
(2)時間外割増賃金の支払い漏れに注意
清算期間の実労働時間が法定時間の総枠を超えた場合、超過部分には25%以上の割増賃金が必要です。さらに、清算期間が1か月を超える場合は、各月において週平均50時間を超える部分についても都度割増賃金を支払う義務があります(労基法32条の3第2項)。
(3)就業規則・労使協定の整備
清算期間の設定、過不足が生じた場合の処理方法(繰り越しの可否など)については、就業規則および労使協定に明確に定めておくことが重要です。定めがない場合や実態と齟齬がある場合、労働者からの未払賃金請求の端緒となりかねません。
(4)紛争予防のための対応
フレックスタイム制の運用において労使間で認識の相違が生じると、未払残業代請求や是正指導につながるリスクがあります。弁護士に相談しながら、労使協定の内容・運用の両面を定期的に見直すことをお勧めします。
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監修者 弁護士 藤田 進太郎 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 使用者側専門の労働問題弁護士として、企業の労務管理に関するあらゆる問題を取り扱っています。経営者・人事担当者の方々が安心して経営に専念できるよう、問題社員対応、残業代請求対応、解雇・退職勧奨、ハラスメント対応など、企業側の立場から迅速・的確にサポートいたします。初回相談は原則として無料で対応しておりますので、まずはお気軽にご相談ください。 |
Q&Aよくある質問
Q. 清算期間内に超過した時間分を翌月に繰り越してもよいですか?
A. いいえ。超過した時間分の賃金は、当該清算期間の賃金支払日に支払わなければなりません。翌月の総労働時間に充当(繰り越し)することは、賃金の全額払い・毎払いの原則(労基法24条)に違反します。
Q. 清算期間内に不足した時間分は翌月に繰り越せますか?
A. 法定労働時間の総枠の範囲内であれば、不足分を翌月の総労働時間に上積みして労働させることは認められます。ただし、翌月の総労働時間が法定労働時間の総枠を超えないよう注意が必要です。
Q. フレックスタイム制でも残業代(時間外割増賃金)は発生しますか?
A. 発生します。清算期間における実労働時間が法定労働時間の総枠(40時間×清算期間の暦日数÷7日)を超えた部分については、割増賃金(25%以上)の支払いが必要です。フレックスタイム制だからといって残業代が一切不要になるわけではありません。
Q. 清算期間が1か月を超える場合、残業代の支払い時期はいつですか?
A. 清算期間が1か月を超える場合、各月において週平均50時間を超えた部分については、当該月の賃金支払日に割増賃金を支払う必要があります(労基法32条の3第2項)。清算期間末日だけでなく、月次での確認・計算が必要です。
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最終更新日:2026年5月26日