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資料収集は「事実の調査」と「証拠調べ」の二本立て(労働審判法17条) 労働審判委員会は、職権で事実の調査を行い、申立てにより又は職権で必要と認める証拠調べをすることができます。証拠調べについては民事訴訟の例によります。柔軟な調査と、より厳格な証拠調べの二段構えです。 |
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会社側は「調べてもらう」のではなく、当時の記録を主体的に提出する 第1回期日までに提出した資料が心証形成を大きく左右します。紛争後に作成した弁解資料ではなく、日頃の指導記録や勤怠データなど「当時の記録」が、会社側の有力な証拠になります。 |
目次
労働審判における資料収集は、労働審判委員会が職権で行う「事実の調査」と、申立てにより又は職権で行う「証拠調べ」の二つで構成されます(労働審判法17条1項)。証拠調べについては民事訴訟の例によるとされています(同条2項)。労働審判は原則3回以内で終了する迅速な手続であるため、後からの証拠補充は容易ではなく、初期段階でどれだけ的確に、主張を裏付ける客観的資料を提出できるかが、結論の方向性を大きく左右します。
会社側専門の弁護士の立場から、労働審判における資料収集の仕組みと、会社が準備すべき証拠戦略を解説します。
01労働審判における資料収集の基本構造(労働審判法17条)
労働審判では、裁判官1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名で構成される労働審判委員会が審理を行います。労働審判法17条は、この労働審判委員会が、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをすることができると定めています。すなわち、資料収集の方法は、①職権による事実の調査と、②申立てにより又は職権で行う証拠調べの二つに分かれます。
労働審判は迅速な解決を目的としているため、厳格な証拠手続だけに依拠するのではなく、より柔軟な方法で事実関係を把握する仕組みが用意されています。他方で、最終的な判断は権利関係を踏まえたものである以上、必要な場合には証拠調べも実施されます。ここで重要なのは、どの方法で資料を収集するかは基本的に労働審判委員会の裁量に委ねられているという点です。会社側としては、「裁判所が積極的に調べてくれる」と期待するのではなく、自らの主張を裏付ける資料を主体的に提出する姿勢が欠かせません。
02職権による「事実の調査」とは
「事実の調査」とは、民事訴訟における厳格な証拠調べとは異なり、特別の方式によらず、かつ強制力を伴わない形で資料や情報を収集する方法をいいます。通常の訴訟では、証拠は当事者が提出し、証人尋問等も定められた手続に従いますが、労働審判では、迅速な解決のため、より柔軟に事案の実情を把握することが認められています。
具体的には、期日において当事者双方から直接言い分を聴取し、事案の経緯や背景事情を確認することが典型です。書面だけでは把握できないニュアンスや判断の過程について、その場で説明を求められることもあります。また、参考人や関係者から事情を聴いたり、提出された陳述書、雇用契約書、就業規則、賃金台帳、メール記録などの書類を点検して、内容の整合性や客観性を確認したりします。
ここで会社側が誤解してはならないのは、職権で調査されるからといって、会社側の立証の負担が軽くなるわけではないという点です。事実の調査はあくまで補完的・弾力的な手段であり、委員会が全面的に事実を探し出してくれる制度ではありません。また、事実の調査には強制力がないため、提出を拒んだ資料を無理に取り上げられることはありませんが、合理的な理由なく資料の提出を拒むことは、かえって心証に影響し得ます。「調査してもらう」のではなく、自ら積極的に説明し、資料を提示する姿勢が重要です。
03申立て又は職権による「証拠調べ」とは
もう一つの資料収集方法が、申立てにより、又は職権で必要と認められる「証拠調べ」です。これは、事実の調査とは異なり、民事訴訟の例により証拠を取り調べる方法を指します(労働審判法17条2項)。証拠調べは、当事者の申立てによって行われるのが原則であり、「この事実を立証するためにこの証拠を取り調べてほしい」と当事者が明確に主張することが基本となります。もっとも、委員会が必要と判断すれば、職権で証拠調べを行うことも可能です。
実務上中心となるのは、書証の取調べです。雇用契約書、就業規則、賃金台帳、評価資料、注意指導書、懲戒通知書、メールやチャットの記録など、会社の意思決定の過程を裏付ける客観的資料が重視されます。必要に応じて当事者本人や関係者の尋問が行われることもありますが、労働審判は迅速な解決を目的とするため、民事訴訟のように長時間の詳細な尋問が行われるケースは限定的です。そのため、書面による主張の整理と証拠の体系化が重要になります。
04実務上、申立てによる証拠調べが中心となる理由
制度上は職権による事実の調査も可能ですが、実務では、当事者の申立てに基づく証拠調べが中心となる傾向があります。労働審判は迅速解決を目的とする一方で、その結論は法的な効力を持ちます。したがって、委員会が一方的に資料を収集して判断を形成するよりも、当事者双方に主張・立証の機会を十分に与えたうえで結論を導く方が、結果の納得性が高まります。とりわけ、解雇の有効性や懲戒処分の相当性などが問題となる事案では、客観的資料に基づく立証が不可欠であり、証拠調べが重視されます。
経営者が見落としやすいポイント
「裁判所が必要な証拠を探してくれる」という発想は禁物です。労働審判では、提出されない証拠は原則として判断の資料になりません。主張を裏付ける資料を適切な時期に提出しなければ、その主張自体が採用されないおそれがあります。会社側には、主体的かつ計画的な立証活動が求められます。
05会社側が準備すべき証拠戦略
労働審判は短期集中型の手続であり、初期段階で提出された主張と証拠が、その後の心証形成を大きく左右します。会社側に求められるのは、その場しのぎの対応ではなく、一貫した証拠戦略です。とりわけ重要なのは、処分や判断を行った「当時」の資料です。解雇や懲戒処分であれば、その理由を裏付ける客観的記録、指導履歴、評価資料、就業規則の整備状況などが問われます。紛争が生じてから作成した資料は、作成時期や一貫性が厳しく見られ、信用性を疑われることがあります。日常的な人事記録や評価記録の積み重ねこそが、結果的に会社の防御の要となります。
また、証拠は単体で提出するのではなく、争点との関係を明確に整理し、「どの事実を、どの証拠で立証するのか」という構造を設計する必要があります。事実関係を時系列で整理し、法的評価を見据えて主張を構成しなければ、せっかくの資料も十分に機能しません。処分理由と証拠内容が食い違えば、全体の信用性が低下します。労働審判に至った段階では時間的な余裕は限られているため、初動の方針決定、主張の組み立て、提出証拠の選別と整理について、早期に専門的な視点を取り入れることが有効です。あわせて、平時からの労務管理体制と記録の整備が、最大のリスク対策となります。
06よくある質問(FAQ)
Q. 労働審判では、裁判所が必要な証拠を調べてくれるのですか。
労働審判委員会は職権で事実の調査を行い、必要な証拠調べをすることもできますが(労働審判法17条)、これらは補完的なものです。実務では当事者の申立てに基づく立証が中心であり、提出されない証拠は原則として判断の資料になりません。会社側が主体的に資料を提出することが重要です。
Q. どのような資料が重視されますか。
雇用契約書、就業規則、賃金台帳、評価資料、注意指導書、懲戒通知書、メールやチャットの記録など、会社の判断の過程を裏付ける客観的資料が重視されます。特に、処分を行った当時に作成された記録は、信用性の面で重要な意味を持ちます。
Q. 紛争が起きてから資料を整えても間に合いますか。
紛争後に作成した資料は、作成時期や一貫性が厳しく見られ、信用性を疑われることがあります。当時の記録がそのまま有力な証拠になるため、平時からの記録の整備が重要です。すでに紛争が生じている場合は、既存の資料の中から争点に直結するものを早期に選別・整理することが求められます。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判に向けた証拠の整理・立証でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日