この記事の結論
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労働審判は口頭主義が原則で、補充書面は例外的な補助手段

書面の往復を重ねる民事訴訟とは異なり、労働審判では期日における口頭での説明が心証を左右します(労働審判規則17条1項)。補充書面は、あくまで例外的な補助手段であると理解する必要があります。

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複雑な計算や論点整理が必要な場面に絞り、簡潔に活用する

残業代の算定根拠や、多岐にわたる解雇理由の整理など、口頭説明のみでは正確に伝わらない事項に限って活用すべきです。書面の多用は、争点を広げていると評価されるおそれがあります。

 労働審判における補充書面とは、答弁書や申立書などの主要な主張書面を提出した後に、その主張を補充・整理するために提出する書面をいいます。労働審判手続では、期日において当事者が労働審判委員会に対して口頭で主張することが原則とされているため(労働審判規則17条1項)、補充書面は、口頭主義を補うための例外的な手段という位置づけになります。

 会社側専門の弁護士の立場から、補充書面をどのような場面で、どのように活用すべきかを解説します。

01労働審判手続における主張方法の原則(口頭主義)

 労働審判手続では、当事者が本音を率直に発言し、早期に紛争の実情が確認できるように、労働審判期日において、当事者が労働審判委員会に対し口頭で主張をすることが原則となっています(労働審判規則17条1項)。書面の往復を重ねながら争点を絞り込んでいく民事訴訟とは、この点が大きく異なります。

 もっとも、口頭主義といっても、書面が不要という意味ではありません。労働審判手続では、迅速に審理を行う必要があることから、主張書面である申立書および答弁書の記載等を充実させる規定が置かれています(申立書=労働審判規則9条、答弁書=同16条)。つまり、書面で主張の骨格を整えたうえで、期日では口頭でやり取りを行うという組み立てです。会社側の主張の中心は、あくまで答弁書にあります。

02補充書面とは何か(制度上の位置づけ)

 補充書面とは、答弁書などの主要な主張書面を提出した後に、その内容を補充し、または整理するために提出する書面です。労働審判規則19条は、補充書面の提出等の期限の定めを置いており、補充書面の提出自体は制度上予定されています。もっとも、これは迅速な手続を確保するために期限を画するものであり、書面の応酬を歓迎する趣旨ではありません。

 労働審判の主張書面は、あくまで申立書と答弁書が中心です。補充書面は、これらを前提に、口頭でのやり取りだけでは正確に伝わらない部分を補うための補助的な書面と位置づけて活用するのが適切です。

03補充書面が有効な場面

複雑な計算や専門的な整理が必要なケース

 補充書面が有効に機能する典型は、口頭で説明しても正確に伝わらない性質の事項です。たとえば、残業代請求事件における未払賃金の算定根拠は、基礎賃金の範囲、割増率、対象期間、労働時間の認定といった要素が絡み合い、口頭で述べても労働審判委員会が正確に把握することは困難です。計算過程を一覧表として整理し、書面で示すほうが、はるかに的確に伝わります。

 また、変形労働時間制や固定残業代の仕組みなど、制度の内容自体の説明が必要な場合も、書面による整理が有効です。数値や制度設計に関わる事項は、書面の適性が高い領域といえます。

口頭主張を補充・整理する目的での提出

 もう一つの典型は、期日での口頭のやり取りを踏まえた整理です。たとえば、解雇理由が多岐にわたる事案では、個々の非違行為の時系列、それぞれに対する指導の有無、証拠との対応関係を、一覧的に整理して示すことが有効な場合があります。また、期日で労働審判委員会から特定の点について補足を求められた場合に、その点に絞って書面で回答することも、審理の充実に資します。

補充書面が向いているのは「書面のほうが正確に伝わる事項」

補充書面を出すかどうかの判断基準は、「口頭で足りるか、書面でなければ正確に伝わらないか」です。計算、時系列、証拠との対応関係といった、構造的な情報は書面に適します。他方、事情や経緯の説明は、期日で口頭で述べるほうが伝わることが多いといえます。

04提出のタイミングと留意点

 補充書面の提出等については、期限の定めが置かれています(労働審判規則19条)。また、主張および証拠書類の提出は、遅くとも第2回労働審判期日が終了するまでにしなければならないとされています(同27条)。したがって、補充書面についても、期日の直前や第2回期日終了後に提出すればよいというものではありません。

 実務上は、労働審判委員会と相手方が事前に検討できる時間を確保して提出することが重要です。期日の直前に提出された書面は、その場で十分に検討されないまま審理が進むおそれがあり、せっかくの主張が結論に反映されないという結果を招きかねません。裁判所から提出期限が指定された場合には、これを厳守することが前提となります。

05補充書面を多用するリスク

 補充書面の提出は、多ければよいというものではありません。不必要な書面を重ねて提出すると、争点を広げていると評価され、かえって不利に働くおそれがあります。労働審判は原則3回以内で審理を終える手続であり、当事者には迅速な手続進行への努力義務と、信義に従った誠実な手続追行義務が課されています(労働審判規則2条)。この趣旨に照らせば、審理の収束に資さない書面の応酬は、望ましい姿ではありません。

経営者が見落としやすいポイント

「言いたいことをすべて書面にすれば伝わる」という発想は、労働審判では逆効果になり得ます。分量の多い書面は、限られた期日の中では十分に読み込まれないこともあり、重要な主張が埋もれる原因にもなります。質と簡潔さを重視し、労働審判委員会の問題意識に正面から答える書面を作成することが重要です。

06労働審判における主張立証の全体戦略と会社側の実務対応

 補充書面の位置づけを踏まえると、会社側の主張立証の全体戦略は明確です。第一に、主張の中心は答弁書に置くことです。労働審判規則16条が定める記載事項を網羅し、第1回期日までに主張と証拠を出し切ることが基本となります。補充書面を前提に、答弁書の完成度を落とすことがあってはなりません。第二に、期日では口頭で的確に説明できるよう準備することです。労働審判委員会からの質問に、その場で答えられるかどうかが心証を左右します。第三に、補充書面は、計算や整理など書面に適した事項に絞り、簡潔にまとめることです。

 補充書面を出すべきかどうか、出すとしてどの範囲で何を書くかという判断は、労働審判委員会がどこに問題意識を持っているかの見極めを伴うため、専門的な判断が必要です。答弁書の作成から期日での対応、補充書面の要否の検討まで、一貫した方針のもとで進めることが、望ましい解決につながります。

07よくある質問(FAQ)

Q. 労働審判では、補充書面をどんどん出したほうがよいのですか。

おすすめできません。労働審判は期日で口頭により主張することが原則であり(労働審判規則17条1項)、補充書面は補助的な手段です。不必要な書面の提出は、争点を広げていると評価されるおそれがあります。書面でなければ正確に伝わらない事項に絞って活用すべきです。

Q. どのような場合に補充書面が有効ですか。

残業代の算定根拠のように計算過程の説明を要する場合や、多岐にわたる解雇理由を時系列・証拠との対応関係とともに整理する場合など、口頭説明のみでは正確に伝わらない事項について有効です。期日で労働審判委員会から補足を求められた点に絞って回答する場合にも適します。

Q. 補充書面はいつまでに提出すればよいですか。

補充書面の提出等には期限の定めがあり(労働審判規則19条)、主張および証拠書類の提出は遅くとも第2回期日終了までとされています(同27条)。裁判所から期限が指定された場合はこれを厳守し、労働審判委員会と相手方が事前に検討できる時間を確保して提出することが重要です。

経営上のポイント 労働審判では、期日において当事者が口頭で主張することが原則であり(労働審判規則17条1項)、補充書面は例外的な補助手段です。主張の中心はあくまで答弁書(同16条)に置き、第1回期日までに主張と証拠を出し切ることが基本となります。補充書面が有効なのは、残業代の算定根拠や、多岐にわたる解雇理由の時系列・証拠との対応関係など、口頭説明のみでは正確に伝わらない事項に限られます。提出には期限の定めがあり(同19条)、主張・証拠の提出は遅くとも第2回期日終了までです(同27条)。書面の多用は争点を広げていると評価されるおそれがあり、質と簡潔さを重視して、労働審判委員会の問題意識に正面から答えることが重要です。答弁書の作成から補充書面の要否の判断まで、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判での書面の作成や期日対応でお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月13日


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