労働審判の申立手数料はどう決まる?経営者が知るべき算定基準と訴訟移行時のコスト
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手数料は「労働審判を求める事項の価額」で決まり、紛争規模を示す指標になる 申立手数料は、申立人が手続を通じて得ようとする経済的利益(価額)に基づいて算定されます。形式的には申立人の負担ですが、会社側にとっては、相手がどの程度の規模の紛争として主張しているのかを読み取る指標になります。 |
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解雇無効は160万円とみなされ、訴訟へ移行すると差額が追納される 地位確認など算定が困難な請求は160万円とみなされます。労働審判の手数料は訴訟の半額程度に設定されているため、異議申立てにより訴訟へ移行すると、差額を追納することになります。 |
目次
労働審判の申立手数料は、「労働審判を求める事項の価額」に基づいて算定されます。この価額とは、申立人が手続を通じて得ようとする経済的利益の大きさを意味し、民事訴訟でいう「訴額」と同様の概念です。手数料は収入印紙により納められ、形式的には申立人(多くは労働者側)の負担ですが、会社側にとっては、相手方がどの程度の規模の紛争として主張しているのかを読み取る手がかりとなります。
会社側専門の弁護士の立場から、労働審判の申立手数料がどのように決まるのか、請求類型ごとの価額の算定方法と、訴訟へ移行した場合の取扱いを解説します。なお、収入印紙の具体的な金額は、価額に応じた区分によって定まり、法改正により変更されることがあるため、本記事では価額の算定方法を中心に整理します。
01申立手数料と「価額」の基礎知識
労働審判手続を開始するには、申立人が裁判所に対して申立手数料を納付する必要があります。この手数料は単なる事務的な費用ではなく、紛争の規模や会社にとっての潜在的な金銭リスクを示す指標としての意味を持ちます。
価額は、未払賃金や損害賠償を請求している場合にはその金額が基礎となり、解雇無効のように金銭換算が難しい場合でも、一定の基準に基づいて評価されます。会社側としては、この価額を単なる計算上の数字としてではなく、「相手がいくらの価値の紛争として主張しているのか」を示す経営上の指標として捉えることで、想定される解決金の水準や、紛争が長期化した場合のリスクを早期に見極めることができます。
02請求内容に応じた価額の算定方法
価額の算定方法は、どのような請求内容かによって異なります。会社側としては、請求の種類ごとの評価方法を理解することで、紛争の実質的な規模をより正確に把握できます。
① 算定不能・困難な場合は「160万円」
解雇無効(労働契約上の権利を有する地位の確認)を求める場合など、金銭的評価が困難な請求については、価額を160万円とみなす取扱いがされます(民事訴訟費用等に関する法律4条)。ただし、この160万円はあくまで手数料計算上の便宜的な評価額にすぎません。解雇無効が認められれば、未払賃金(バックペイ)や将来の賃金負担など、はるかに大きな経済的影響が生じ得ます。「160万円だから軽い案件」と判断するのは適切ではなく、潜在的には高額なリスクを含む請求類型であると理解する必要があります。
② 退職金・損害賠償などの一時金
未払退職金やハラスメントに基づく慰謝料請求など、一時金の支払を求める請求については、支払を求める請求額そのものが価額となります。もっとも、提示されている金額がそのまま妥当とは限りません。特に慰謝料請求などは、申立人側が高めの金額を主張する傾向も見られ、請求額がそのまま適正なリスクを意味するわけではありません。請求額はあくまで相手方の主張であり、最終的な解決金額とは乖離することも少なくないため、法的にどの程度認められる可能性があるのかを冷静に見極めることが重要です。
③ 賃金(バックペイ)の支払を求める場合
「労働審判確定の日まで」とするなど、終期を明らかにしないで賃金の支払を求める場合には、申立時までに発生している未払額に、申立後3か月間に発生する額を合計した金額を価額とするのが相当とされています。これは、労働審判が原則3回以内という短期間で終結する制度であることを前提とした取扱いです。通常の民事訴訟では将来分として1年分を基準とすることが多いのに対し、労働審判では3か月分に限定されている点に特徴があります。もっとも、実際の紛争では、解決までの期間によってさらに賃金負担が拡大し得るため、継続的に発生し得るコストの一部として捉えておくことが重要です。
03複数の請求が併合された場合・申立ての拡張
複数の権利を主張する場合(併合申立て)
労働審判では、解雇無効と未払残業代請求など、複数の請求が同時に申し立てられることが少なくありません。この場合の価額は、訴額の算定の場合に準じて算出されます。実務上重要なのは、計算の細かな技術よりも、複数の請求が組み合わさることで紛争規模が大きくなり得るという点です。特に、解雇無効にバックペイや損害賠償が併合されると、形式的な価額以上に実質的なリスクが増大しやすくなります。それぞれの請求は独立した法的根拠を持つため、全体としてどの程度の金銭リスクが存在するのかを総合的に把握する視点が欠かせません。
審理途中の「申立ての拡張」
審理の進行中に、申立人が請求内容や金額を増やす「申立ての拡張」が行われることがあります。この場合、申立人は拡張後の価額に応じた差額の手数料を追加で納付します。これは単なる手続の変更ではなく、会社が直面する金銭リスクが増大したことを意味します。当初想定していた解決金のレンジや防御方針が、そのままでは通用しなくなる可能性があるほか、審理が進んだ段階で新たな論点への対応を、限られた期日の中で迫られることもあります。申立ての拡張がなされた場合には、その影響を軽視せず、請求内容の変化に応じて方針を見直す必要があります。
04訴訟に移行した場合の手数料の取扱い
労働審判に対して適法な異議申立てがなされると、事件は通常訴訟へ移行します。この場合、労働審判の申立ての時に、その申立てに係る請求について訴えの提起があったものとみなされます(労働審判法22条1項)。
ここで押さえておきたいのは、労働審判の申立手数料は、通常訴訟の手数料よりも低く(概ね訴訟の半額程度に)設定されているという点です。そのため、訴訟へ移行した場合には、申立人は本来の訴訟手数料との差額を追加で納付する必要があります。これは、紛争が長期化・本格化する局面に入ったことを示す一つの指標ともいえます。会社側としては、この段階を単なる相手方の負担として捉えるのではなく、時間的・人的コストが双方に拡大する局面に入ったものと理解し、どの段階で解決を図るべきかを検討することが重要です。
経営者が見落としやすいポイント
手数料の額が小さいことは、紛争の規模が小さいことを意味しません。地位確認は160万円とみなされ手数料も高額にはなりませんが、認められればバックペイや将来賃金という大きな負担につながります。手数料の額ではなく、請求の背後にある実質的な金銭リスクを見極めることが、会社側の初動対応として重要です。
05会社側が押さえておくべき視点
労働審判の申立書を受け取った際には、請求内容だけでなく、その背後にある価額の意味を読み解くことが、会社側の初動対応として重要です。価額から見える紛争規模を踏まえ、想定される解決金の水準や、訴訟に移行した場合のコストまで見通したうえで、早期解決を図るべきか、審判・訴訟で争うべきかを判断していくことになります。相手方の請求の妥当性の評価や、会社を守るための方針の組み立ては、初動が肝心です。
06よくある質問(FAQ)
Q. 解雇無効を申し立てられた場合、価額はどうなりますか。
労働契約上の権利を有する地位の確認を求める場合は、算定困難な請求として160万円とみなされます(民事訴訟費用等に関する法律4条)。これに賃金(バックペイ)の請求が加わる場合は、別途、申立時までの未払額と申立後3か月分を合計する等のルールで価額が算定されます。
Q. 労働審判から通常訴訟へ移行した場合、追加の手数料はかかりますか。
かかります。労働審判の手数料は訴訟の半額程度に設定されているため、異議申立てにより訴訟へ移行した場合には、申立人は通常の訴訟手数料との差額を追納することになります(労働審判の申立て時に訴えの提起があったものとみなされます。労働審判法22条1項)。
Q. 相手が請求額を途中で増やした場合、会社側に影響はありますか。
申立ての拡張があった場合、申立人は差額の手数料を追納します。会社側としては、請求規模が拡大したことを意味するため、解決金の相場観や防御方針を改めて見直す必要があります。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。労働審判の申立書が届き、対応にお困りでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年7月13日